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多摩川に架かる日野橋では架替え事業を展開

東京都 都心部の環状線整備を重点的に推進

東京都
建設局 道路監

奥山 宏二

公開日:2021.09.28

隅田川に架かる吾妻橋、永代橋、清洲橋では長寿命化事業完了
 勝鬨橋や聖橋などで事業中

 ――長寿命化事業での事例を教えてください
 奥山 隅田川に架かる吾妻橋(橋長150m、2ヒンジ鋼製アーチ橋)で2016年~2019年にかけて、アーチリブの部分取替えを実施して長寿命化を図っています。隅田川は感潮河川で海水の影響があり、船舶往来時に波しぶきがかかる飛沫帯でアーチリブの断面減少が発生していました。
 供用下で、軸力が常時入っているアーチリブを部分的に撤去することになりますので、安全に施工するためには下弦支持材への受替え時の軸力の管理が重要となりました。そのため、ジャッキアップ時の各部材に係る力をひずみゲージや応力測定装置で確認しながら施工しました。また、狭くて複雑な空間に仮支持材を搬入、設置する際、既設部材を傷つける恐れがあったことから、発泡スチロール模型などを用いて現地で試験設置を繰り返したうえで、仮支持材を4分割して搬入、設置しています。



吾妻橋長寿命化事業の概要

 ――隅田川に架かる勝鬨橋や永代橋をはじめとした文化財として価値のある橋梁の対策の進捗状況は
 奥山 一例を挙げますと、永代橋と清洲橋では耐震性能向上、床版防水工、塗装塗替えなどを実施し事業を完了しています。勝鬨橋は現在事業中で、耐震性能向上などは完了しており、塗装塗替えを2022年度以降に実施する予定です。床版補修・補強については塗装塗替えと工程を調整する必要があり、未定となっています。


重要文化財に指定された3橋

 神田川に架かる聖橋は、RCアーチの補修(ひび割れ注入、断面修復、乾式モルタル吹付)、鋼桁補修(当て板)、塗装塗替え、支承部変位制限構造設置、歩道床版取り替え、橋面舗装工および床版防水工などの対策を実施しており、2021年度に完了予定です。


聖橋長寿命化事業。(右写真)ウォータージェットによるはつり後のアーチ部/(左写真)乾式モルタル吹付工による補修

現在の聖橋

扇大橋では鋼床版に疲労亀裂が発生
 SFRCを用いた鋼床版補強を予定

 ――上部工の補修・補強について具体的事例を教えてください
 奥山 足立区の尾久橋通りにある扇大橋(橋長642.6m、鋼連続ゲルバー活荷重合成箱桁橋、第9次点検判定区分Ⅱ)では、桁端部の切り欠き補強や支承取替えを実施してきました。今後は、鋼床版の疲労損傷対策として、鋼繊維補強コンクリート(SFRC)による鋼床版補修工を予定しています。
 ――どのような疲労損傷が発生していますか。また、尾久橋通りの交通量と大型車混入率は
 奥山 デッキプレートとUリブ溶接部に疲労亀裂が発生しています。切り欠き部が弱点になるので、予防保全的に当て板補強を行っています。2022年度に詳細調査を行う予定で、その結果で対策を決定しますが、SFRC打設の検討もしています。
 尾久橋通りの交通量は26,919台/12hで、大型車混入率は15.8%です(平成27年センサス)。


扇大橋 鋼床版の疲労損傷

 ――管理道路は重交通路線が多いと思いますが、他に疲労損傷が発生している橋梁はありますか
 奥山 最近では扇大橋以外に2橋で疲労損傷が確認されました。葛飾区にある青砥橋(環七通り)と練馬区にあるみのわ陸橋(目白通り)です。
 ――過去3年間で床版の全面打替え(更新)を行った事例はありますか
 奥山 ありません。
 ――床版防水工の施行状況と施工方針は
 奥山 定期点検の結果や舗装や床版下面の状態を確認して、必要に応じて防水層を含めた舗装の打替えを実施しています。
 長寿命化事業など長期の耐久性向上を期待する場合や床版の漏水が継続する場合などは、特に歩車道境界部の端部処理を重点的に対策することや、床版上面に防水層が形成される含浸材を塗布して複合防水とするなどの検討を行い、採用している事例があります。
 新設については標準で防水工を施工しています。

山間部と運河部の橋梁で塩害による劣化が確認
 綾瀬橋では断面修復工と表面含侵工を実施

 ――塩害やASRによる劣化は発生していますでしょうか。劣化が発生している場合はその状況と対策例をお願いします
 奥山 ASRによる劣化は確認されていません。塩害については、凍結防止剤を散布する山間部の橋梁や運河に架かる橋梁で発生しています。
 山間部の橋梁では、奥多摩町海沢にある綾瀬橋(第9次点検判定区分Ⅱ)があります。凍結防止剤に含まれる塩化カルシウムが橋面上から伸縮装置を通じて橋台に流出し、鉄筋腐食や被りコンクリートの剥落が発生しました。亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントモルタルで断面修復工(左官工法)を行った後、亜硝酸リチウム系含浸材とケイ酸塩系含浸材を組み合わせた表面含浸工法(プロコンガードシステム)を用いて補修を行いました。


綾瀬橋 A2橋台の塩害を伴う鉄筋露出(右写真)

 運河部の橋梁では、中央区勝どきから晴海に架かり朝潮運河を跨ぐ黎明橋(第9次点検判定区分Ⅱ)で、海風による飛来塩分の影響により橋脚梁部の鉄筋腐食や被りコンクリートの剥落が発生しています。同橋は主要幹線道路である晴海通りに架かっていることから、対策後100年間の延命化を目的とした対策を検討しています(長寿命化事業対象橋梁)。現段階では、ポリマーセメントモルタルによる断面修復工法を採用する予定です。また、橋脚内部の塩化物イオン濃度が高くなっていますので、亜硝酸リチウムを躯体に注入する対策も行う予定です。


黎明橋 橋脚梁部の塩害による鉄筋露出(中写真)とひび割れ、うき(右写真)

 ――着手はいつになりますか
 奥山 今年度に発注予定です。

耐震補強対象橋梁は401橋
 2015年度末までに全橋梁で対策完了

 ――耐震補強の進捗状況は
 奥山 1995年の兵庫県南部地震を契機として、緊急輸送道路などに架かる401橋を対象に、橋脚の巻き立て補強や落橋防止装置の設置を中心とした耐震補強事業に取り組んできました。2021年度までの完了を目指していましたが、2011年に東北地方太平洋沖地震が発生したことから、首都直下地震などの大規模地震への備えとして、完了時期の前倒しを行い、2015年度末までにすべての橋梁で耐震性能2への対策を完了しました。


耐震補強事例

 ――特殊橋での耐震補強事例を教えてください
 奥山 奥多摩町境にある桧村橋は橋長98mの鋼逆ローゼ上路式アーチ橋で、2019年度から耐震補強工事を行っていて、今年度完了しました。
 施工内容は、座屈拘束ブレースダンパーの設置および当て板併用による耐震補強のほか、アーチ中央支柱の補強を目的としたアーチリブ、補剛桁の開口部を鋼板による閉塞、アーチ沓上揚力対策としてアーチ横支材と橋座面とをPCケーブルで連結、補剛桁支承部の取替え、となっています。


桧村橋 座屈拘束ブレース取替前(中写真)と取替後(右写真)

アーチクラウン部の補強状況/アーチ支点部の補強状況

鋼橋塗替え 2021年度は15橋約6万㎡を予定

 ――2020年度および2021年度に塗装塗替え実施(予定)の橋梁数と面積は。また、塗替え時における溶射などの新しい重防食の採用の有無、有害物質を含有する既存塗膜の処理方法について
 奥山 2020年度は葛西橋など15橋で約5万㎡の塗装塗替えを実施しました。2021年度は江戸橋など15橋で約6万㎡を予定しています。
 重防食については、支承のメンテナンス軽減を図るため金属溶射を採用した事例があります。また、海水の影響を受ける支承でペトロラタム被覆を行った事例もあります。


永代橋(中央区・永代通) 塗替え前(左写真)と塗替え後(右写真)

三頭橋(西多摩郡奥多摩町・奥多摩周遊道路) 塗替え前(左写真)と塗替え後(右写真)

 鉛やPCBなどの有害物質が含有している塗膜への対応としては、工事着手前に有害物質含有量調査を行っています。そのうえで、有害物質の含有の有無や量に応じて、既存塗膜の除去ではブラスト工法や塗膜剥離剤を採用しています。施工においても、マスクや防護服などの保護具の着用、剥離作業での吸引式工具の使用などにより作業員の健康障害を防止する取組みや、シートや鋼板などで現場の密閉を行って工事箇所周辺への飛散を防止する措置を行っています。
 ――支承取替えやジョイント取替えの2020年度および2021年度の施行(予定)数は
 奥山 2020年度は青山橋など8橋で支承の取替えを実施しました。2021年度は総武陸橋など10橋で予定しています。
 伸縮装置は、2020年度は都大橋など4橋で取替えを行い、2021年度は副10号高架橋など3橋で予定しています。
 ――耐候性鋼材を採用した橋梁数と現状の健全度は
 奥山 明治橋(八王子市・高尾街道)や札の辻橋(港区)など、13橋あります。定期点検の結果などで、保護性さびが形成されず、劣化・損傷が報告された事例はありません。


明治橋(2006年架設)と札の辻橋(2006年架設)の現況

2019年の台風19号では31箇所で通行止めが発生
 要対策箇所852箇所のうち、2020年度末時点で502箇所の対策完了

 ――毎年、異常気象による土砂災害が相次いでいます。具体的な防災対策の要対策箇所と進捗状況およびその事例を教えてください
 奥山 2019年の台風19号では、土砂の流出や道路の崩落などにより、管理道路の31箇所で通行止めが発生しました。被災後、速やかに応急復旧工事に着手し、大規模な崩落が発生した一般都道184号日の出町大久野地区などで仮設道路を設置するなどして、順次交通開放を行い、2020年5月にはすべての箇所で通行止めを解除しました。
 現在は、日原街道平石橋先と新滝山街道で道路擁壁などの復旧工事を継続していて、早期の本復旧完了に向けて取り組んでいます。


一般都道184号日の出町大久野地区の被災状況/日原街道の仮設道路設置状況

 東京都が管理する山岳道路斜面は3,500箇所で、道路災害の未然防止のために日常の道路巡回に加え、5年に一度の定期点検などにより斜面の状況把握をしています。緊急度の高い斜面については、優先的に法枠工や落石防護工を設置するなどして、安全対策を適宜進めています。また、防災性の向上という観点から、河川の監視カメラの増設も行っていて、今後、河川改修にも取り組んでいきます。
 防災総点検での要対策箇所は852箇所で、2020年度末時点で502箇所の対策が完了しています。
 ――新技術・新材料などの活用事例がありましたら、教えてください
 奥山 橋梁では、長寿命化事業を実施している勝鬨橋で、橋脚に水平力分担構造を橋脚に設置しました。同橋は重要文化財であるため。既存橋脚への影響を最低限にすることや景観性に配慮する必要があったため、引張降伏強度が大きい高性能鋼材(SBHS500)を採用し、補強部材のコンパクト化を図りました。


高性能鋼材(SBHS500)を用いた支承部の水平力分担構造

 トンネルの定期点検では、三次元レーザー計測器とデジタルカメラを搭載した走行型画像計測器を活用して、トンネル内空断面を詳細に計測する技術を取り入れています。


トンネルの定期点検では走行型画像計測器を活用。右写真は、取得した画像データ

 データを蓄積することにより、点検ごとのトンネル内空断面の変形や変異が正確に把握できるとともに、構造物の状態変化を的確に捉えることができます。また、変状対策工の設計や定期点検(近接目視)のスクリーニングにも活用しています。
 ――ありがとうございました
(聞き手:大柴功治)

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