当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。3回目は、川田工業の川田忠裕社長の記事を掲載する。
――まず、業界を取り巻く環境について
川田 長期化するコロナの影響は飲食業などに比べれば現状は軽微だが、出始めていると感じる。
公共事業中心の橋梁に関しては、おおむね順調に発注されていると思う。
民間工事ではコロナの影響を受け、設計の再検討による期ずれや延期、案件中止などが中小物件で見受けられ、当社が建築鉄骨のターゲットとしている大型物件は計画通りに進められているが、凍結、延期の案件もあり、コロナの影響は避けられないと感じる。
――今年度の状況は
川田 橋梁の発注量は3年前と同水準に回復、建築鉄骨の発注量は中小物件が徐々に回復し、全体的には昨年よりは少し上向くとみている。収益は民間で元請間での受注競争激化、鋼材価格の急騰や先行き不透明感などからファブの原価率の悪化が懸念されるため、減少すると見込んでいる。
――橋梁については
川田 新設橋梁は依然、受注競争が激しい情勢にあるが、期初に高速道路会社発注の大型工事や鉄道関連の工事を受注でき、昨年度並みの受注を見込んでいる。ただ、詳細設計を行うため、今年度の工場の操業度には寄与しない。さらに、橋建協の受注実績の傾向のように、保全・改修工事の割合が増えており、今後もこの傾向が続くとみている。
新町川橋(平成30-32年度 新町川橋上部工事) 発注:国土交通省四国地方整備局/施工:川田・横河・MMB JV
――建築鉄骨について
川田 東京五輪後も端境期が続くとみていたが、コロナの長期化に伴い想定以上に端境期が続いている。大型再開発計画がまた始動してくるのは早くて今年度末か来年度からではないか。首都圏中心の出件だが、名古屋、大阪、福岡などの大都市圏でも計画されている。ただ、今年度の当社の受注はよくても昨年度並みと見込んでいる。
――システム建築は
川田 システム建築は当社の中ではコロナの影響を一番受けている。全国で物流センターなどの需要はあるものの、受注競争の激化により厳しい状況が続いている。
――設備投資については
川田 栃木工場では生産性向上、生産品種の拡充を図るため、生産ラインをはじめ全体レイアウトを見直し、サブマージ溶接機の増設や溶接ロボットの更新などを実施している。これにより、作業効率がアップすると考える。
――DXの取り組みについては
川田 DXのキーとなるアプリケーションなどを提供している川田テクノシステムをはじめ、川田グループ全体で先進的に取り組みを行っている。
具体的には、BIMやCIMなどの活用や、ロボット技術開発ノウハウの活用により、作業の効率化、生産性の向上を図る。さらに、何らかの理由により家から出ることができない社員などがリモートでアバターロボットを遠隔操作し、工場や現場で検査やアドバイスなどを行えるようなシステムの研究開発をグループの力を結集して進めている。
また、事務処理面では社内文書の電子決裁システムなどのデジタル化を推進している。一方、セキュリティー面については今後も継続的に強化が必要と考えている。
(左写真)東京ミッドタウン八重洲(八重洲二丁目北地区第一種市街地再開発事業)
(右写真)GUNDAM FACTORY YOKOHAMA
――新分野への進出について
川田 新分野というわけではないが、工場の操業度を維持していくことからも、取り扱う鋼構造物のレパートリーを広げられるよう、風力発電設備の鋼構造物などの製作への進出に向けた準備を開始した。すぐに広がるわけではないが、徐々に受注につなげていきたいと考えている。
――このほかには
川田 カーボンニュートラルへの推進、工場をはじめとした現業のエコ化推進、SDGsについては、川田グループ全体で積極的な取り組みを推進している。
特にSDGsに関しては、オリィ研究所が主催するALSなどの難病や重度障害で外出困難な人々が分身ロボット「OriHime」「OriHime-D」を遠隔操作し、サービススタッフとして働く「分身ロボットカフェ」常設実験店に協賛・技術協力することを通じ、社会課題の解決を目指している。
また、土木・建築とICTのそれぞれの技術をグループ内で協力できる当グループならではの強みを生かした研究開発を進めている。まずは開発段階でグループ内に適用し、ブラッシュアップしながら実用化する形で進めていきたい。
(聞き手=佐藤岳彦、文中敬称略)