奥瀞道路Ⅲ期 3橋、2トンネルを施工
1号橋のニューマチックケーソン製作は台船を用いて施工
――次に奥瀞道路Ⅲ期について
川尻 奥瀞道路Ⅲ期(右図、国土交通省公開資料)は、和歌山県東牟婁郡北山村下尾井から同村小松間延長3.4㎞区間で整備を進めている道路事業です。既にⅠ期区間6.3㎞とⅡ期区間6.2㎞は整備を完了しており、奥瀞道路としては最後の区間となります。2016年度に事業化され、現在は同村役場に近い、現道の拡幅およびかさ上げなどの改良を行っています。次いでその西側の北山川と下部には1号橋(橋長178m、PC3径間連続箱桁橋)、その西の山岳部には1号トンネル(481m、NATM)を計画しており、現在はトンネルを施工するための仮桟橋の施工と1号橋のP1に着手しています。その先線の2号橋(58m、鋼単純非合成箱桁橋)の下部工および2号トンネル(1,620m)も契約済みで、これから工事に入っていくところです。
現道のかさ上げ(井手迫瑞樹撮影)
トンネルを施工するための仮桟橋の設置状況(井手迫瑞樹撮影)
1号トンネルの坑口付近(井手迫瑞樹撮影)
――3号橋の進捗状況は
川尻 3号橋は橋長237mの3径間連続鋼逆ローゼ橋で下部工の一部を2020年度末に契約したところです。川が鋭角に曲がっているところの西側の橋台だけが先行して施工できるので、そこだけ着手したところです。ローゼの直下は北山川観光の筏下りが潜る形になりますので、シンボル的な景観になります。急峻な谷間に位置しているため、本橋梁が最後まで残ってしまう形になります。2号トンネルを掘り終わった後にしか(同トンネルを利用した)架設が行えないためです。
3号橋架設予定地
――1号橋の下部工は、このような山岳地にあるにも関わらず、台船を用いた施工を行うと聞いていますが
川尻 そうです。当初は仮桟橋を用いて施工する計画だったのですが、地盤が悪く、桟橋基礎に手間がかかることが判明したため、その代替策としてニューマチックケーソン基礎の構築、据付けに台船を利用することにしました。台船はトラックに小割にして運び、現地で組み立てます。台船は大きく2つ組み立てる予定で、一方を組立て用200tクレーンの据付け、一方をケーソン製作用ヤードとして構築します。
台船組立状況
台船上に200tクローラークレーンを組立て
さらに鋼殻製作用台船を組み立てて、鋼殻を製作している
――1号トンネルおよび2号トンネルの地盤的な状況と湧水状況、補助工法はどのようなものを用いる予定ですか
川尻 1号トンネル、2号トンネルとも地盤が特に悪いというわけではありませんが、起点側終点側の坑口部に補助工法を行う予定です。
田辺西BP 2022年春の開通を目指す
――田辺西バイパス事業の進捗状況は
川尻 同事業は国道42号のBP事業で、田辺市稲成町から同市芳養町を結ぶ3.8㎞が事業区間となっています。すでに南側2.2㎞は完成4車及び暫定2車で開通しており、現在は最後の区間1.6㎞の整備を進めています。2022年春の開通を目指しています。
構造物は橋梁が37%に達しています。JRを跨ぐ芳養高架橋(382m、鋼8径間連続非合成箱桁橋)が最も長く、これが2019年度に架設完了したことで、供用のめどが立ちました。茨谷高架橋(114m、PC3径間連続2主版桁橋)、大屋谷高架橋(113m、PC3径間連続2主版桁橋)も上部工までを完了しています。
現在はボックスカルバートおよび改良を進めており、これから舗装工、付属物工を施工していきます。
――串本太地道路は
川尻 和歌山県東牟婁郡那智勝浦町八尺鏡野から同郡串本町鬮野川間に計画している18.4㎞の自動車専用道路です。現在用地交渉中で、工事にはまだ入っていませんが、今年度改良工事に着手する予定です。
――特徴ある橋梁形式、施工上の特徴は
川尻 熊野川河口大橋下部工のコンクリート打設については、台船上にコンクリートを一度仮投入し、曳舟にて台船を曳航して運搬した上で打設を行う必要があり、生コン打設の待ち時間短縮とコンクリートの品質管理のため、厳格なコンクリートの打設サイクルタイムの管理をおこないました。
台船を用いた施工(井手迫瑞樹撮影)
――熊野川河口大橋及びすさみ串本道路(凍結防止剤散布地域)の諸橋梁)エポキシ樹脂被覆PC鋼材やエポキシ樹脂塗装鉄筋の採用、シラン系含浸材やケイ酸塩系改質剤の採用の有無は
川尻 熊野川河口大橋にて、コンクリートの長寿命化のために、鉄筋のエポキシ樹脂塗装を行っております。
――ハイピアの施工に関する前述以外の工夫についてお答えください
川尻 現道から橋梁施工予定箇所への進入が困難なため、別の箇所に設けた工事用道路から本線をパイロット形式で施工することで進入し、仮桟橋を設置することで仮桟橋上から橋梁下部及び上部工を施工する計画としております。
――(奥瀞道路3号橋)施工の工夫について
川尻 未着手のため、施工の工夫について具体的にお示しできるものはありません。
橋梁363橋、トンネル61個所を管理
50年以上経過が約110橋 供用年次不明の構造物が多く存在
――次に保全について聞きますが現在の管内の橋梁、トンネルの内訳は
川尻 当事務所では363橋の橋梁と、61個所のトンネルを管理しています。
橋種別では鋼橋103橋、PC98橋、RC143橋、その他19橋です。トンネルは矢板が24、NATMが37個所などとなっています。
供用年次別を橋梁から申し上げますと、1930年代が1橋、50年代が20橋、60年代が87橋、70年代が36橋、80年代が35橋、90年代が7橋、2000年度が24橋、10年代が78橋となっています。2010年代の大幅な増加は紀伊半島一周道路の供用増加によるものです。そのほか、供用年次不明が75橋あります。
――不明な理由や推定年次(古いか否か)を教えてください)
川尻 供用年次不明の橋梁は、溝橋(横断BOX)で新設時の橋梁台帳が無いためです。1960年代施工と推定されます。
トンネルの完成年次は、1930年代が1トンネル、60年代が20トンネル、70年代が2トンネル、80年代が1トンネル、90年代が2トンネル、2000年代が5トンネル、2010年代が30トンネルです。
延長別では、橋梁から申し上げますと15m未満が154橋、15m以上20m未満が29橋、20m以上30m未満が31橋、30m以上50m未満が42橋、50m以上100m未満が34橋、100m以上200m未満が40橋、200m以上が33橋となっています。トンネルは100m未満が6個所、100m以上500m未満が39個所、500m以上1,000m未満が8個所、1,000m以上3,000m未満が8個所です。
PCケーブルで劣化が生じている橋梁も
鋼橋では塗膜劣化による損傷が散見
――点検を進めてみて劣化状況はどのように把握しておられますか
川尻 鋼橋では塗膜劣化の進行が見られます。また、ジョイントからの漏水や飛来塩分による影響があると思われる部位、主桁の下フランジなどに損傷の進行が見られます。PC橋に関しては、おそらく飛来塩分の影響により、主桁PCケーブルで劣化が生じている箇所があります。RC橋は塩害や中性化による鉄筋の腐食によるひび割れが見られます。また古い年代に作られた橋梁で、現基準に比べると鉄筋かぶりが不足しており、さらに(かぶり不足を補うための)保護塗膜を施していないRC橋で損傷が見られます。
――特に桁や床版、地覆高欄、支承、橋脚、橋台など部位別の損傷状況はどのようになってますでしょうか
川尻 桁や床版には(ひび割れ、漏水、遊離石灰、鉄筋露出、浮き、剥離)地覆には(ひび割れ、うき)、橋脚には(ひび割れ、漏水、遊離石灰)、橋台には(ひび割れ、漏水、滞水)、支承には(腐食、防食機能の劣化)が発生しています。
――同様にトンネルの損傷状況は
川尻 目地や打継ぎ目付近での漏水を主因とした浮きや剥離、温度収縮による損傷や、補修した個所のモルタルが再劣化して剥落するような損傷も起きています。
――矢板トンネルの背面土圧などを主因とした道路軸方向のひび割れは生じていますか。またある場合、どのような補修補強を施していますか
川尻 背面土圧を主因としたひび割れは生じていません。
耐震補強 3橋を残して対策完了
――橋梁耐震補強の進捗状況は
川尻 対象となる64橋のうち、対策済みは53橋となっています。対策不要が8橋あり、現在対策を進めているのが2橋(新熊野大橋(鋼アーチ橋)と港橋)、未対策が1橋(御坊陸橋)となっています。
古座大橋耐震補強(2019、20年度の2年間で補強した)
――現在施工中の2橋の橋長及び橋梁形式とどのような補強を行っているのか教えてください。未対策の御坊陸橋についてもどのような対策を行うのか教えてください
川尻 新熊野大橋(橋長444.80m、単純鋼箱桁橋、単純鋼ランガーアーチ橋、3径間連続鋼箱桁橋)では上部工落橋防止システム(変位制限装置、粘性ダンパー)を設置します。
耐震補強中の新熊野大橋
港橋(橋長32.00m、単純RCT桁橋3連)では、上部工落橋防止システム(落橋防止、支承補強構造、縁端拡幅)を設置し、さらに橋梁下部工の巻立補強を行います。
御坊陸橋(橋長67.4m、RC橋単純桁×3橋、RC橋3径間連続桁×2組)では、上部工落橋防止システム(変位制限装置、縁端拡幅)を設置します。この3橋でH8道路橋示方書レベルの耐震補強は完了です。