橋梁耐震補強 対象221橋のうち155橋で完了
くにびき大橋ではピア-リフレ工法を用いて鋼板巻き立て
――耐震補強の進捗状況は
渡部 緊急輸送道路上で耐震補強が必要な橋梁は221橋あります。そのうち2020年度末までに155橋の耐震化(耐震性能2)が完了しています。進捗率は70%です。
――耐震補強事例について教えてください
渡部 松江市内の大橋川に架かる主要地方道松江島根線くにびき大橋で耐震補強工事を実施しています。1981年に建設された橋長296mの単純鋼箱桁橋+3径間連続鋼箱桁橋+単純鋼箱桁橋+単純鋼鈑桁橋です。現在施工しているのはP1橋脚で、鋼板巻き立てと変位制限装置の設置を行います。P1橋脚以外は補強済みです。
松江島根線くにびき大橋(大柴功治撮影)/補強一般図
――河川内橋梁ですか
渡部 そうです。
――施工方法は
渡部 STEP工法で仮締切を行い、ピア-リフレ工法を採用して圧入鋼板巻き立てを行います。大橋川は、汽水湖である宍道湖と中海を結ぶ河川で汽水域であるため、河床より上部を防食として金属溶射(膜厚100μm)も行います。
P1橋脚施工の様子(大柴功治撮影)
STEP工法による仮締切工
ピア-リフレ工法での圧入鋼板巻き立て(写真はP3橋脚施工時のもの)
帆掛橋2号橋では塩害により主ケーブル端部の破断などの損傷が発生
ASRが確認された新川橋ではリハビリカプセル工法を採用
――塩害、ASRによる劣化の有無と、劣化が発生している場合はその状況と対策例をお願いします
渡部 主要地方道大社日御碕線帆掛橋2号橋(橋長43m、ポストテンション方式PC単純T桁橋)で塩害が発生しています。同橋は島根半島西端の日本海に面し、橋梁の下がすぐに海という厳しい塩分飛来環境にあり、県内の塩害による損傷の極端な事例となります。
大社日御碕線帆掛橋2号橋と鉄筋腐食状況
1977年の架設から約20年後に塩害が確認されて、表面被覆工などの塩害対策を行いました。その対策から15年後には、第2径間の主ケーブルの腐食、コンクリートの剥落、上下部工のASRの進行、下部工鉄筋の断面減少などの損傷が確認され、電気防食などの対策を実施してきましたが、対策実施中に第2径間の主ケーブル端部の破断など、想定を超えるような塩害の損傷が確認されました。その後、電気防食工と歪み観測を行いながら供用していましたが、2018年にはG4桁下端に大きなひび割れが確認されたため、耐荷力確認後、片側交互通行規制を行いながら、補修工事に着手しました。
補修内容は、鉄筋探査を行った後、モルタル充填と左官工法による断面修復をして、チタン溶剤の電気防食(面状陽極方式)を実施しています。さらに、定着部に振止装置、偏向装置を設置して外ケーブル緊張を行います。
――補修完了は
渡部 本年6月に完了しました。
施行ステップ
――その他、塩害が発生している箇所は
渡部 海沿いの路線に多いですが、山間部には降雪地帯もあり凍結防止剤をかなり散布しているので、塩害が発生している恐れがあります。
――ASRについては
渡部 一般県道益田種三隅線新川橋(橋長135m、鋼5径間単純鈑桁橋)で確認されていて、P2橋脚とP3橋脚に亀甲状のひび割れが発生しています。対策としては、ひび割れ注入工、亜硝酸リチウム内部圧入工、表面保護工を実施し、本年4月に完了しました。
益田種三隅線新川橋の補修工事概要と橋脚に発生している亀甲状のひび割れ
――亜硝酸リチウム内部圧入工の具体的な工法は
渡部 極東興和が施工しましたので、リハビリカプセル工法を採用しました。
亜硝酸リチウム内部圧入工ではリハビリカプセル工法を採用
鋼橋塗替え 2021年度は2橋を予定
――2021年度の鋼橋塗替え予定は。また、塗替え時における溶射などの新しい重防食の採用の有無、有害物質を含有する既存塗膜の処理方法について
渡部 一般県道多伎江南出雲線古志大橋など、5橋で部分塗装を予定しています。溶射などの新しい技術を採用する予定は現時点ではありません。有害物質を含有する既存塗膜の処理は、塗膜剥離剤による塗膜除去ののち、ブラストによる素地調整1種による処理を基本に、現場ごとに有害物質の種類や作業環境、周辺環境も考慮して処理方法を判断しています。
鋼橋塗替え事例(斐川一畑大社線灘橋)右:施工前/左:施工後
――既存塗膜にPCBを含有する橋梁はありますか
渡部 21橋で確認されています。ただ、橋梁補修については早期措置段階のものが残っており、2023年度までに優先して対策を完了させる方針ですので、それ以降に対応をしていく予定です。
――支承取替えやジョイント取替えの2021年度の施行予定数は
渡部 支承取替えは、主要地方道松江木次線千本橋、一般県道草野横田線宝来橋の2橋で予定しています。ジョイント取替えの今年度の予定はありません。
支承取替え事例(三刀屋佐田線鍋山橋)右:施工前/左:施工後
2016年に死者をともなう落石事故が発生
落石事故再発防止のために段階的に対策を実施
――防災対策の要対策箇所と対策事例について教えてください
渡部 島根県では、2016年5月に邑南町戸河内地内の主要地方道浜田作木線で、斜面より発生した落石が通行する自動車を直撃し、助手席に乗っていた一人の尊い命が失われました。その事故を受けて、2016年から2019年にかけてのり面の落石に関する安定度調査を一斉に行っています。これにより、対策が必要と判断された箇所が3,748箇所ありました。その要対策箇所については、県独自の取組みとしてできるだけ早く県全体の落石に対する安定度を一定程度確保するという方針で、段階的に施工を行っています。
まずは第一段階施工として、落石する頻度の多い30cm未満の石を対象にした対策を最優先で取り組んでいて、現在はそれに注力している状況です。2020年度末までに98箇所で第一段階施工が完了しました。
防災対策事例
産官学でひび割れ抽出技術の共同研究を進める
現場研修や講習会を開催して職員の技術力向上に取り組む
――新技術・新材料などの活用事例がありましたら
渡部 2019年度から点検と修繕の効率化に向けて、東北大学とインフラストラクチャーズ(東北大学工学研究科インフラ・マネジメント研究センターの研究開発から生まれたベンチャー会社)と島根県の三者で共同研究を進めています。ドローンなどを活用して対象物の画像を撮影し、それをAIで分析して、ひび割れの状況を把握する技術の開発となります。さらに、診断結果から過去の補修類似事例を抽出できるデータベースの検討も行っています。今年度は、ドローンの撮影画像とAIを組み合わせた診断を本格稼働させるための実証をする予定です。
三者による点検・修繕の効率化に向けた取組み。左は、点検・診断・補修設計・補修工事のデータベースイメージ
技術力向上に向けた取り組みでは、現場研修や講習会を開催しています。新技術の導入も大切だと思いますが、島根県では職員の技術力向上に積極的に取り組んでいて、まずは橋梁点検や補修技術の向上を目指した研修と講習会を行っています。これらの取り組みにより、点検、診断、措置の段階で職員の技術力が上がり、最終的にコスト縮減につながると考えています。また、橋梁点検では、橋梁調査会のみなさんに技術的なアドバイスをいただきながら、県だけでなく市町村も含めて行政技術者の技術力向上にむけた取り組みも行っています。
橋梁直営点検講習会。県職員だけでなく市町村職員も参加
――ありがとうございました
(聞き手=大柴功治)