鋼橋RC床版の7割以上で遊離石灰を伴う漏水 10%程度で著しい損傷
コンクリート橋床版部も著しい損傷が10%程度
――床版の損傷状況と床版防水の実施率は把握していますか。またどのような床版防水を今後施工していきますか
田中 2014~18年度の一巡目の点検で確認した結果、鋼橋のRC床版の7割以上で遊離石灰を伴う漏水が確認され、5%で錆汁の混入が認められる著しい損傷が認められています。また、コンクリート橋の床版でも6割以上で遊離石灰を伴う漏水が確認されて、10%程度で著しい損傷が確認されています。損傷の多くが漏水や遊離石灰という要因ですので、進行抑制、予防保全という観点から床版防水の設置を必要に応じて行っている状況です。2020年度は、13橋約7,500m2の床版防水を実施しました。
床版防水実施状況((主)盛岡横手線天沼橋)
2021年度は、46橋約16,900m2の床版防水を予定しており、31橋約9,000m2が一般防水、15橋7,900m2が複合防水の施工を予定しています。
――「著しい損傷」を有している個所は、修繕で良いのでしょうか。床版取替など更新も必要ではないですか
田中 床版の損傷状況に応じて、部分的な修繕ではなく、打替を実施する場合もあり、現場状況に応じて個別に判断しています。
支承取替 11橋で予定
ジョイント交換は51個所
――支承取替及び伸縮装置取替の今年度の施工予定について
田中 2021年度は、国道395号猿越橋(九戸郡軽米町)等9橋で支承取替を予定しています。内訳は、ゴム支承が7橋(26基)、鋼製支承が3橋(12基)となっています(うち1橋はゴム支承と鋼製支承を併用)。
伸縮装置については、国道283号五の橋(釜石市)等47橋で取替を予定しています。内訳は、簡易鋼製ジョイントが18橋、鋼製フィンガージョイントが15橋、ゴム製ジョイントが3橋、モジュラー型ジョイントが1橋、埋設型ジョイントが10橋となっています。
鋼製フィンガージョイントの交換((一)広瀬三ヶ尻線江崎大橋)
――支承は耐震補強に伴う交換ですか。それとも先ほどお話しされていたような塩害に伴う交換が多いのでしょうか。また、塩害による損傷を未然に防止するために、支承に対して防錆対策を施すようなことはしていませんか
田中 支承の取替は、1橋が耐震補強、8橋が修繕を目的としたものです。支承の防錆は、東北地方整備局の「東北地方における道路橋の維持・補修の手引き(案)」を参考に、金属溶射(亜鉛又は亜鉛アルミニウム)を採用しています。
国道281号陣内橋の支承交換
――埋設型ジョイントはどのようなものを使っていますか。また、沓座周りの防水はどういう考えで行っていますか
田中 埋設ジョイントのタイプは、伸縮吸収型が5橋、伸縮分散型が5橋です。橋面水が伸縮装置から漏水し、支承の腐食を促進している事例が多く見られることから、損傷の状況に応じて、取替を含む伸縮装置の非排水化対策を行うこととしています。
ASR 県北部で確認
猿越橋で床版打替、瀬月内橋で亜硝酸リチウム併用型表面含侵工法で補修
――塩害、ASRなどによる劣化の有無。劣化があればどのような形で出ているか(劣化部位やその劣化程度、面積)、またその対策工法などを具体的な橋梁などを挙げてお答えください
田中 県北部でASRによる損傷が確認されています。
対策工法については、岩手県道路インフラメンテナンスアドバイザーである岩手大学理工学部の小山田准教授にヒアリングを行い、専門的な助言等を踏まえて選定しています。
国道395 号 猿越橋(九戸郡軽米町)(橋長:61.2m、全幅員:7.5m、構造形式:単純上路式トラス橋、建設年:1972 年)では床版にASRが発生しており、2021年度後半から床版打替を行っていきます。
国道340 号 瀬月内橋(九戸郡軽米町)(橋長:57.1m、全幅員:8.95m、構造形式:2径間単純合成鋼I桁橋、建設年:1972 年)では橋台(A1、A2)、橋脚(P1)でASRが見つかっており、亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントモルタルによる断面修復、亜硝酸リチウム併用型表面含侵工法等で補修していきます。
11橋16,000㎡で鋼橋塗替え
有害物含有塗膜の除去は基本湿式、制約ある場合はブラスト工法も
――2021年度の鋼橋の塗替え予定を教えてください。また塗り替えの際の全体的・部分的な用途でもいいので溶射など新しい重防食の採用などについてもお答えください。PCBや鉛など有害物を含有する既存塗膜の処理について、どのような方策をとっているのか教えてください
田中 2021年度は、国道106号腹帯上の橋(宮古市)等11橋、約16,000m2で塗装塗替を予定しています。
橋梁補修工事の素地調整(塗膜剥離)において、鉛等有害物が含有する場合は、厚生労働省通知(鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について)により、剥離等作業は湿潤化して行うこととされています。本県では、湿潤化する工法(塗膜剥離剤処理)を基本としつつ、渇水期施工による工期の制約がある場合等、現場状況に応じてブラスト工法等の別工法を採用している場合もあります。
――ブラスト工法とは通常のオープンブラストですか、それとも循環式ブラスト工法ですか
田中 2021年度に塗装塗替を予定している11橋のうち、8橋で鉛、1橋で低濃度のPCBと鉛の含有が確認されています。2橋は調査中です。
鉛の含有が確認された橋梁では、ブラストにより既存塗膜の処理を行う場合、循環式のブラスト工法を採用する予定です。
道路防災総点検 1,468個所を要対策個所として抽出
緊急輸送道路上に位置するAランク93個所の対策を優先して実施
――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、県として道路に面する斜面や、古い法面などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画などがございましたら教えてください
田中 本県では、山間部等の急峻な地形を通過する道路が多く、落石や法面崩落等の災害が頻繁に発生しています。このため、災害に強い道路ネットワークの確保と道路施設の適切な保全を図るため、定期的に道路法面等の道路防災総点検を実施しています。
直近の道路防災総点検は2016~17年度に実施しており、2,399箇所の点検を行い、落石や地すべり等の危険性が高い1,468箇所を要対策箇所として抽出しました。それを交通に及ぼす影響を考慮して、ランクA~Cの3段階に分類し、緊急輸送道路上のランクA93箇所の対策を優先して実施しています。2020年度は取り分け重要性の高い緊急輸送道路上のランクA18箇所で事業を実施し、同年度末までに1箇所の対策が完了しました。
2021年度は20箇所で事業を実施し、8箇所の対策完了を見込んでいます。
その他の箇所でも、実際に落石が確認された場合や、道路パトロールにより異常が確認された場合は、随時補修等の対応を行っています。
――他の都道府県でも、中山間地ののり面、斜面などにおける防災・減災対策は喫緊の課題としてとらえられています。橋梁やトンネルの耐震対策や長寿命化対策も重要ですが、こうしたのり面・自然斜面の対策をスピードアップさせるために予算的な傾斜も含めて考えておられることはありませんか
田中 本県の県土は広大であり、なおかつ中山間地が多いことからがけ崩れなどによる集落の一次的な孤立は、少なからず発生しています。県民生活上、のり面・斜面対策は重要であり、予算をしっかり確保していきたいと考えています。
――付言して今後の道路事業での課題について
田中 震災復興事業により、骨格的な道路の整備がずいぶん進みました。これを生かした道路ネットワークづくりというのをさらに進めていかなければいけないと考えています。道路の持つ機能は多岐にわたるわけですが、しかし、岩手県の災害に苦しめられてきた経緯を踏まえれば、災害に強い道路ネットワークの整備が最重要の課題であると考えており、6月15日に国交省の施策に基づいた(県独自の)広域道路ネットワーク計画を公表しました。既存の道路も沿線集落が存続していくには欠かせないものであり、維持管理や防災対策について予算をしっかりと確保して進めていきます。
――ありがとうございました