岩手県は、全都道府県のうち、北海道に次ぐ面積を誇っている。沿岸部は漁業が盛んであり、内陸部では主に北上川流域で自動車産業などを中心とする工業や農業が盛んである。観光面でも、三陸沿岸のリアス式海岸の風景は目を楽しませ、三陸鉄道は震災など災害を乗り越え復旧を果たし、「あまちゃん」効果も相まって、訪れる客は増加傾向にある。内陸部では平泉の中尊寺金色堂などの観光客増は言うに及ばない。一方で県土の大半を占める中山間地では異常気象などによる災害などで、一時的な孤立が起きてしまう集落を有している。また、東日本大震災によって沿岸部は甚大な被害を蒙り、復興道路事業は概成したものの、地域の復興はまだこれからといえる。こうした岩手県が有する課題を道路事業の面からどのように解決しようとしているのか、田中隆司県土整備部長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
国内2位の県土面積であるが道路網密度は東北で最低
災害に強い道路ネットワークの構築が急務
――県内の地勢的特徴と道路網の現状(各地の道路建設の要請と必要性を具体的に)を教えてください
田中県土整備部長 岩手県の面積は15,275.01㎢で北海道に次ぐ広さであり、1都3県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)よりも広い面積を有しています。
内陸部の大部分を山岳丘陵地が占め、秋田県との境には奥羽山脈があり、これと並行して東部には北上高地が広がっています。この二つの山系の間を北上川が流れ、その流域に平野が広がっています。
沿岸部は、宮古市から北側が典型的な隆起海岸で、海食崖や海岸段丘が発達しています。宮古市から南側は国内でも代表的なリアス式海岸となっています。
一方で道路網密度は東北地方の中で最も低く、地域間の円滑な交流の妨げの要因の一つとなっています。
県内の道路ネットワークは、2本の縦軸(東北縦貫自動車道、三陸沿岸道路)と2本の横軸(東北横断自動車道釜石秋田線、宮古盛岡横断道路)を基軸としており、東北縦貫道以外の3路線は、東日本大震災による復興道路、復興支援道路として整備され、2021年内に全線開通する予定です。
この縦横2本の軸が出来上がるのは、県にとって大きな発展のための骨格が出来上がったということと同義です。
広大な県土を有する本県では、これらの基軸となる道路を補完し、又は代替する道路(復興支援関連道路など)が一体的に機能することが重要でありますが、特に内陸と沿岸を結ぶ道路は、山地部の河川と並行して道路が造られている区間が多いことから、近年の頻発化、激甚化する災害によって、冠水や路肩崩落による通行止め等が発生しており、災害に強い道路ネットワークの構築が求められています。
人とモノの移動時間を短縮
内陸と沿岸が実質一つに
――道路事業の面で、これまで進捗したこと、これから進めなくてはいけないこと、構造物の安全性の面で気をつけなくてはならないことを、震災を振り返りつつお答えください
田中 まず復興道路から具体的に申し上げますと、東日本大震災前の県内の基軸となる道路は、内陸部の東北縦貫自動車道及び東北横断自動車道秋田線の東和以西が開通していたものの、それ以外はミッシングリンクが多く残っており、平成11年に策定された県の総合計画では、「距離の壁」という言葉が使われ、「距離の壁」を乗り越え、人とモノの移動時間を短縮することが大きなプロジェクトの一つでした。
震災後、沿岸の縦軸、沿岸と内陸を結ぶ横軸の高規格幹線道路や地域高規格道路が国の復興道路、復興支援道路(県の計画ではいずれも復興道路)として整備が進められ、平成30年度に全線開通した東北横断自動車道釜石秋田線によって、県政史上初めて内陸と沿岸が高速交通体系で結ばれ、「距離の壁」が一つ克服されました。
加えて令和2年度内に横軸の宮古盛岡横断道路が全線開通し、令和3年内に縦軸の三陸沿岸道路が全線開通予定となっており、広い岩手の内陸と沿岸が実質一つになっていくと考えています。
「ワープした感覚」
仙台~八戸間の移動時間は3時間10分も短縮
――距離の壁というのは私も平成一桁台ないし十年代前半に当時の三陸国道事務所を取材した際、痛切に感じました。当時3H工法で建て込まれていた洞泉橋(国道283号仙人峠道路)を取材したのですが、1日がかりの取材工程になったことを覚えています。この距離の壁は今、どれくらい緩和されたのですか
田中 例えば盛岡~宮古間は1時間45分かかっていたのが、1時間15分で行けるようになりました。これは画期的です。バスで移動する市民の方々からは、(以前に比べて)ワープした感覚だ、と語っていただいたこともあります。釜石~花巻も以前は1時間半かかっていたのが1時間5分に所要時間を短縮できるようになっています。
三陸沿岸道路も開通後は仙台~八戸間の移動時間が3時間10分短縮されます。大部分が岩手県内域なので当県にとっては非常に大きい効果をもたらします。
――岩手県は比較的内陸部が発展しており、沿岸部は少し発展から取り残されていたイメージがありました。内陸と沿岸を結ぶ自動車専用道路の開通による目に見える効果は出ていますか
田中 出ています。自動車を中心とする工業が発達している北上川流域と重要港湾釜石港が自専道で結ばれたことにより、コンテナ取扱貨物数は右肩上がりで伸びています。併せて釜石自動車道沿線にはコロナ禍であっても企業の新規立地が増えています。
観光分野でも大船渡や宮古がクルーズ船の寄港地として重要な選択肢になっています。クルーズ船は朝に来て夜出発しますが、例えば世界遺産である平泉などへの時間的距離が短縮されたことによってツアーにおける観光地滞在時間が増えたことが一因であると考えています。
国道281号を継続的に改良していく
国道107号の白石峠もトンネルで線形を良化していく
――復興支援道路、復興関連道路については
田中 県では、東日本大震災津波復興計画の「三陸復興道路整備事業」において、縦軸・横軸の「復興道路」に加え、内陸部から三陸沿岸各都市へアクセスする道路等を「復興支援道路」、三陸沿岸の水産業の復興を支援する道路等を「復興関連道路」に位置付け、交通あい路の解消や防災対策、橋梁耐震化等を推進してきました。
例えば久慈市と盛岡市(実質は国道4号と重複している区間があるため、岩手町と久慈市)を結ぶ国道281号も復興事業で一部区間(案内工区など)の改良を進めてきましたが、さらに継続して通常事業としてトンネルなどで線形を改良する工事を進めていきたいと考えています(案内~戸呂町口工区)。また、国道107号の大船渡市と住田町の境にある白石峠をトンネルで抜こうという計画について県の事業評価の手続きを進めています。
国道281号下川井工区施工状況①
国道281号下川井工区施工状況②
緊急輸送道路の大幅な見直しを実施
引き続き橋梁耐震化等にも取組む
――これから進めなくてはいけないこと・構造物の安全性の面で気をつけなくてはならないことは
田中 震災後、県では、岩手県広域防災拠点配置計画(2014年3月)を策定し、震災の教訓を生かして、内陸部に広域支援拠点と後方支援拠点を設けるとともに、その拠点と拠点を結ぶ道路の必要性がいよいよ重要であるとみなし、緊急輸送道路の大幅な見直し(2018年3月)を実施しました。基軸となる復興道路、復興支援道路の整備が進められる一方、広大な県土を有する岩手県では、これらを代替する、又は補完する道路が一体的に機能することが重要です。今後は、災害に強い道路ネットワークを構築するため、緊急輸送道路や代替機能を有する路線の防災機能の強化などを推進していきます。
また、東日本大震災津波の翌月7日に発生したマグニチュード7.1の最大余震により、奥州市の国道343号藤橋や国道397号小谷木橋等が損傷し、通行止めを余儀なくされたことから、引き続き橋梁耐震化等に取り組んでいきます。
国道397号小谷木橋(旧橋)