護岸上の道路 本復旧でも埋め殺す形で復旧
日田市天瀬町赤岩地区で実際に施工
――両岸の道路を見ると、仮復旧は進んでいますが、仮復旧の段階で河積阻害ギリギリまで護岸を出して、道路を作っています。本復旧に際して、再度道路をいじめて復旧しなくてはいけないことが非常に現場で頭を悩ます要因になっていますが、何か手立ては考えていますか
沓掛 河川計画と連携しながら施工しなくてはいけません。仮復旧でトンパックを積んでいるところはありますが、それを本復旧でも埋め殺す形で復旧していくことを検討しています。そうすることで早く、河川への影響も少なく本復旧を進めることにつながります。
仮復旧でトンパックを積んでいる個所も
――玖珠川流域の道路復旧状況は
沓掛 天瀬温泉地区の道路は、国交省は権限代行を行っておりませんが、むしろ直轄道路が大きな被害を受けており、国道210号全体で57個所が被災し、延長50㎞で通行止めなどを余儀なくされました。中でも一番ひどかったのは、日田市天瀬町赤岩で、100m以上にわたり護岸が崩壊し、道路が流されてしまいました。玖珠川が蛇行している個所にあたるのですが、水位上昇による水衝突によって100m以上が流失しました。同じことが起きないようにするため41日間で瀬分けを造って、応急復旧しました。現在は本復旧のための発注を行っています。先ほど話したように仮復旧部を埋め殺す形で施工できないか検討しています。
赤岩地区の被災状況と応急復旧状況
――うまくいけば球磨川流域の護岸復旧にも適用できますね
沓掛 そう思います。損傷範囲が広いため、実際の発注は2つの工区に分けています。受注したのは西松建設と錢高組です。
今次の水害は様々な教訓を含んでいます。一つは並行して4車線区間(高速道路)があったため助かったということです。球磨川の方でいうと、九州縦貫道も上り線に浸水が起きましたが、それでも2車線中1車線は使用できる状態で、10時間後には緊急車両を通すようにしました。玖珠川の方では大分自動車道も被災しましたが、これも4車線あった関係で、片側2車線を対面通行にして被災地のう回路として使うことができました。ダブルネットワークおよび4車線の大切さというのは非常に大きいと考えています。
――他の被災箇所は
沓掛 赤岩地区のように大規模な被災箇所はないため、最初から本復旧で対応しています。
――天瀬温泉のある天瀬地区の道路や河川復旧は大分県の対応なんですね
沓掛 そうです。同温泉は川沿いに宿泊施設などが林立しており、復旧・復興は街づくりと密接にかかわります。また、泉源に影響する可能性があることから河床掘削は慎重を要すると聞いています。
主要改築事業 今年度は東九州道志布志IC~鹿屋串良IC間19.2kmが開通予定
日南志布志道路(延長3.7km)と油津夏井道路(延長20.5km)を整備
――次に主要改築事業についてお答えください
沓掛 九州地方整備局管内の令和3年度道路予算は、直轄が1591億3100万円、補助が977億円となっています。また、令和2年度の補正予算として直轄408億円、補助429億円が別途組まれています。
国土強靭化の予算は5年間で15兆円の規模が閣議決定されましたが、それに伴い事業がどれだけ進捗しているか透明化していく必要があるということで、見通しが立った事業については工事着手時期や進捗状況、開通予定などを適宜周知しています。
九州管内は高速道路を全体で8路線計画しており、計画総延長1,513km中1,300kmが現時点で供用しています。86%供用している状況です。比率的には全国平均と変わりません。
主な事業を東九州道から申しあげますと北九州から宮崎市内までの延長361kmが開通し、現在はその南側の事業を進めています。今年度は志布志IC~鹿屋串良IC間19.2kmが開通予定です。元々昨年7月に開通予定だったのですが、令和2年7月豪雨で、排水設備を整備する前にあれだけの豪雨に見舞われたため、一部が崩れてしまい、追加の用地買収などが必要になったことから1年遅れの開通となりました。来年度には清武南IC~日南北郷IC18.5kmが開通予定です。また日南志布志道路(延長3.7km)と油津夏井道路(延長20.5km)の整備を進めています。日南志布志道路は用地買収を6割完了させるともに橋梁下部工の施工に入っています。油津夏井道路は調査設計を推進しており、今年度用地買収に着手しました。
高千穂雲海橋道路を新規事業化
長大トンネルあり、岩戸川渡河部で長大橋も
――九州横断道延岡線(嘉島~延岡)は
沓掛 現在、計画95km中29kmが開通しています。九州山地を突っ切る箇所にあるため、勾配差も大きく地形も厳しい箇所ですが、横断軸としては非常に重要な路線といえます。本事業の今年度開通区間は日之影深角から平底交差点の延長2.3kmです。また、昨年度には蘇陽五ヶ瀬道路7.9km、今年度には高千穂雲海橋道路(3.3km)を新規事業化しました。
――雲海橋というのは名前からしてすごいですね
沓掛 現道の218号に架かっている橋の名前です。鋼中路式ローゼ橋で橋長は199mです。この岩戸川を渡る橋が現橋に並行して必要なことと、トンネルの設置が必要な箇所があります。この2つだけで延長の約6割程度を占める見込みです。ただ今年度事業化したばかりですので、現在は測量及び地質調査を行っています。
――蘇陽五ヶ瀬道路の進捗状況は
沓掛 昨年度は調査設計業務を行っており、今年度は地元協議に着手します。
――山都中島西~矢部間延長10.4kmの進捗状況は
沓掛 令和5年度の開通を目指して工事を全面展開しています。
――西九州道(福岡市~武雄市間は)
沓掛 計画延長150kmの内、115kmが完了しています。平成30年3月には唐津伊万里道路が全線開通しました。現在は今宿道路、伊万里道路、伊万里松浦道路、松浦佐々道路の事業を直轄で進めています。現在のところ開通予定が明確になった事業はありません。
――南九州西回り(八代~鹿児島)自動車道の進捗状況は
沓掛 計画延長140kmの内、103kmが開通しています。
芦北出水道路の水俣~出水間16.3kmと阿久根川内道路の阿久根~薩摩川内水引間22.4kmの事業を進めています。芦北出水道路は熊本県内区間の津奈木~水俣間5.6kmが平成31年3月に開通しています。
芦北出水道路、阿久根川内道路とも今年度、橋梁及びトンネルの設計及び工事発注が行われる予定です。
鹿児島東西道路 地整初のシールド工法
有沿道 諸富IC付近で大規模な地盤改良工を実施
――鹿児島東西道路の進捗状況は
沓掛 鹿児島東西道路は、九州縦貫道の鹿児島ICから鹿児島市内に向けて進み、先線は鹿児島港に至る事業です。ここは九州地方整備局の道路トンネルで初めてシールド工法を採用するトンネル(鹿児島東西トンネル下り線)が主構造物となっています。シラス台地を抜くトンネルで、延長は2.3kmに達します。同トンネル近傍は鹿児島県内でも1、2を争う渋滞ポイントであり、非常に重要な道路です。現在は立坑(右写真)の構築とシールドが安全に発進できるように立坑前面の地盤改良を行っています。
立坑もほぼ出来てきたので、施工概要や工事の進捗予定を地元の方々に周知するため、インフォメーションセンターをオープンしました。
鹿児島東西道路概要図
――中九州自動車道の進捗状況は
沓掛 計画延長120kmのうち、供用済は25kmとなっています。熊本の九州縦貫道~大分の東九州道を結ぶ地域高規格道路です。
現在は両脇で動きがありまして、熊本側の大津熊本道路の合志~熊本間(延長9.1km)は、令和2年度に新規事業化され、昨年12月に中心杭打式を行いました。今年度は地元設計協議に着手します。
大分側では大分~犬飼間(延長約16km)で計画段階評価に入りました。
熊本・大分県境の竹田阿蘇道路(竹田IC~波野IC(仮称)、延長22.5km)は平成31年に事業化し、工事を進めています。また、熊本県内では滝室坂道路で延長4,834mの滝室坂トンネルを施工しています。
――有明海沿岸道路の進捗状況は
沓掛 計画延長55kmの内、34kmを供用しています。同道路も地域にとって非常に重要な道路です。ちょうど今年の3月に大野東IC~大野島IC間3.7kmが開通し、福岡県内の27.5kmは全線供用となりました。
――供用区間内に早津江橋まで入っていますか
沓掛 構造物としてはその手前の筑後川橋までです。早津江橋は、橋本体はできているのですが、令和4年度の同橋を含む大野島IC~諸富IC間延長1.7kmの開通を予定しており、それに向けて土工や舗装工事を進めています。
早津江橋を下流から望む
――今後の有明海沿岸道路の工事の進め方は
沓掛 佐賀空港へのアクセスを向上させることが非常に大事ですので、佐賀JCTに向かって東からどんどん整備を進めています。佐賀県さんが整備する区間であり、佐賀福富道路、福富鹿島道路の事業が進んでいます。
――一方で国が施工する大川佐賀道路の諸富~佐賀間は
沓掛 現在は用地買収を進めつつ、一部工事に着手している区間があります。例えばボックスカルバートを作っておいたほうが良い個所は先行して工事を進めています。
――矢部川橋(PC斜張橋)、皿垣連続高架橋(RC連続アーチ)、早津江川橋、筑後川橋(いずれも鋼中路式アーチ橋)など、有明海沿岸道路は様々な橋種が建設されました。残る区間でもこうした構造物は作られるのでしょうか
沓掛 基本的には盛土構造で所々に中小規模の橋梁を配置する予定です。
――有明海沿岸道路の佐賀県域は、有明海沿岸道路に接続する佐賀道路もそうですが、地盤が非常に軟弱であると聞いています。その対策はどのように行いますか
沓掛 地盤が悪いのはおっしゃる通りです。諸富ICではものすごい地盤改良を行っています。何百というドレーンを設置し、水抜きしながら地盤改良を行っています。これは今までの教訓を生かしています。先線も用地買収をしながら調査をし、地盤の状況を把握しながら工法選択していきたいと考えています。
諸富IC付近での地盤改良状況
――都城志布志道路は
沓掛 計画延長44kmの内32kmを供用しています。
九州縦貫道の都城ICと国際バルク戦略港・志布志港を直結する道路であり、この道路事業の効果により、志布志臨海工業団地は完売している状況です。
2月には有明東IC~志布志IC間3.6kmが開通、3月には金御岳IC~末吉IC間5.8kmが開通しました。さらに横市IC~乙房IC(仮称)間3kmも今年度内に開通が予定されています。今後は残る乙房IC(仮称)~都城IC間5.7kmの整備を国で、志布志IC~志布志港の区間の整備を鹿児島県でそれぞれ進めていきます。
熊本天草幹線道路 宇土三角道路が新規事業化
――熊本天草幹線道路の進捗状況は
沓掛 計画延長70kmの内、17kmを供用しています。熊本市から天草市に至る道路です。平成30年に熊本県さんが施工する三角大矢野道路の3.7kmが開通しました。
一方、東側の宇土三角道路が直轄事業として今年度新規事業化されました。宇土市と宇城市を跨ぐ区間でトンネルを予定しています。三角側は浸水区域もありますので複数の高架橋を予定しています。天草市側の本渡道路(延長1.3m)は令和4年度に開通する予定です。
今年度100m以上の橋梁27橋、トンネル15個所を施工中あるいは発注予定
滝室坂トンネルは東西とも二期工事の段階へ
――次に施工中の主要橋梁・トンネルについて
沓掛 今年度上部工を施工あるいは発注する100m以上の長大橋は27橋あります。施工中あるいは発注予定の橋梁で最長は国道3号古城第2橋の298mです。
同様に施工中ないし発注予定の100m以上のトンネルは15本です。最長は滝室坂トンネルです。
――滝室坂トンネルは未だ道半ばですね
沓掛 滝室坂トンネルは東西両側から進めており、西側の一期工事は完了し、現在は東側の一期工事を進めています。さらに西側については二期工事を昨年発注し、東側の二期工事も今年度発注する予定です。
主要橋梁及びトンネル一覧表
西工区 坑口と本坑の掘削
東工区 坑口と本坑の掘削
芦北出水道路古城第2橋でJR跨ぐ個所に架設
黒崎BP春の町ランプ橋は相吊り架設を実施
――特徴的な橋梁は
沓掛 南九州西回り自動車道の芦北出水道路の中にある古城第2橋は、九州新幹線を跨ぐ場所に架設が予定されています。橋梁形式は鋼3径間連続鈑桁+鋼2径間連続箱桁でJR九州に委託して架設を進めていく予定です。架設時期は未定です。
また、黒崎バイパスの春の町ランプ橋ではA1~P3の市道交差部において多軸式特殊台車により運搬し、360tクレーンで相吊りして架設するというダイナミックことを行っています。
黒崎バイパス春の町ランプ橋の夜間相吊り架設
――今後、特殊橋梁などを予定している箇所はありますか
沓掛 球磨川に架ける橋をどういう風に形式を決めていくかが課題です。トラスやアーチなど様々な形式を選定されることが予想されますし、決め方も含めて考えなくてはいけません。水害時の濁流で流木などが引っ掛かって桁が引きずりおろされたことを考えれば、シンプルな桁橋のほうが良いのかもしれませんが、昔からなじみのあるトラス橋やアーチ橋、特に道路橋もそうですが、鉄道橋の赤いトラスはアメリカのニューヨークから運んできた歴史があります。そうした色々な思いや長い歴史も考慮に入れながら、決めていくことが大事であると思います。