国土交通省九州地方整備局北九州国道事務所は、日本の近代鉄鋼業の誕生地である北九州市、自動車産業の中心地のひとつである苅田町などを中心とした福岡県北東部の4路線177.3kmを管理している。事業中路線としては国道3号黒崎BPの春の町ランプ橋上部工が最盛期に差し掛かり、岡垣BPもトンネル本体工や橋梁上部工の架設に入ろうとしている。2014年に無料化した国道201号八木山BPは交通量増加が顕著なため、有料道路事業も活用して現在4車線化工事を進めている。また、香春拡幅でも橋梁の工事が進捗中だ。耐震補強など維持管理の内容も含め谷川征嗣所長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
国道3号黒崎BP 橋梁上部工が全面展開
春の町ランプ橋 国道上の鋼桁を相吊り架設
――管内の地勢的特徴と道路の整備方針および構造物の整備の考え方について
谷川所長 北九州国道事務所の所掌範囲は福岡県の北東部に位置し、九州と本州を結ぶ関門海峡から、東に周防灘、西に玄界灘を望む福岡県の北九州市、筑豊地域、京築地域にある国道2号(0.3㎞)、国道3号(50.9㎞)、国道10号(55.2㎞)、国道201号(70.9㎞)の合計177.3kmの道路を管理しています。
当地域の内陸部は、近代日本の黎明期を物語る旧産炭地域に培われた生産基盤が拡がるとともに、苅田町などには九州有数の自動車産業工場群が集積しています。また、北九州は官営八幡製鉄所以来の鉄鋼を中心とした産業があり、近年は安川電機などのロボット産業も発達しており、「モノづくり」が盛んな地域といえます。そうした地域を道路により有機的につなげるため、現在は4つの改築事業を進めています。
――ではまず国道3号黒崎バイパス(BP)から事業内容と進捗状況を教えてください
谷川 同BP事業は、黒崎及び八幡周辺の交通混雑の解消、交通安全の確保を図るとともに、北九州都市高速道路などと一体となって自動車専用道路ネットワークを形成し、地域の活性化に寄与することを目的としています。
これまでに東田ランプ~陣原ランプ間延長5.2㎞が開通しています。2021年度は春の町ランプの改良工事や橋梁工事、黒崎西ランプの橋梁工事などを推進していきます。春の町ランプ~前田ランプ(延長1.5㎞)および陣原オンランプは、2022年度に開通を予定しています。
――現状を春の町ランプ付近から
谷川 下部工はすべて完了しており、上部工を全面展開しています。春の町ランプ橋はA1-P3が橋長126m、幅員11.6mの鋼3径間連続非合成箱桁橋、P3-P8が橋長165m、幅員同のPC5径間連結ポステンT桁橋、P8-P9は橋長60m、幅員13.3m(On、Off分岐のため幅員が広い)の鋼床版箱桁橋(上り線:鋼5径間連続、下り線:鋼4径間連続)となっています。
既にP1-P2間の桁架設が始まっており、P1-P2間(約60m、国道3号西本町1丁目交差点の上を跨ぐ)の桁はA1の背面で地組み、G1桁は、5月17日の夜間に多軸移動台車で引き出し、相吊りで架設しました。G2桁については、6月21日~23日の夜間に架設を予定しています。
春の町ランプ橋(一部架設前の写真)
夜間相吊り架設状況
――かなりの鋼重でしょうね。相吊りした理由は
谷川 鋼重は103t/1主桁で550t吊りオールテレーンクレーン2台による相吊り一括架設です。
架設方法については、交差点部での架設となることから、交差点の通行止めを最小限とするため、クレーン+ベント架設ではなく、交差点内にベント設置を行わない相吊りによる一括架設としています。
もっとも、その手前の(JRなど)鉄道を跨ぐ部分(P9- P10、オンランプ99m、オフランプ81m )では日本に数台しかない3,000t級のクローラークレーンで約400tの鋼桁を一括架設しています。
――他は
谷川 P3-P8はプレキャストセグメント桁であり、クレーンでの相吊り架設を行っており、現在はP3-P6間の3径間の架設が完了し、残るP6-P8間は6月に架設完了予定です。P8-P9の鋼桁は八幡駅付近の国道3号上り線を跨ぐ箇所にトラッククレーン+ベント架設で施工します。
――隣接する東田高架橋は
谷川 下部工は完了しており、上部工の製作を進めています。橋長243m、幅員8.98mの鋼5径間連続非合成鈑桁橋です。架設はクレーン+ベントにより6月より架設を行う予定です。
黒崎西ランプ 下部工・上部工の一部をこれから施工
上部工は工場製作中 架設はクレーン+ベント架設や送り出し架設
――黒崎西ランプは
谷川 本線に並行するOnランプおよびOffランプの建設を進めています(左写真)。
OnランプはRP6-RP11(橋長153m、幅員5.85m、鋼5径間連続非合成鈑桁橋)とRP11-P15(橋長85m、幅員5.85m、鋼2径間連続非合成鈑桁橋)の桁を工場製作中です。Offランプも、RP6-RP8(橋長132m、幅員5.85m、鋼2径間連続非合成箱桁橋)とRP8-P15(橋長85m、幅員5.85m、鋼2径間連続非合成箱桁橋)の桁を工場製作中です。架設は2021~22年度にかけて順次行う予定で、基本的にはクレーン+ベント架設工法を用いますが、JRに近接し、軌道施設上にかかるOffランプのRP6-RP8は送り出し架設にて施工します。ただし、施工の際は鉄道の運行に支障が出ないように鉄道施設を移設します。
JRなど鉄道を跨ぐRP3-RP6についてはJR及び筑豊電鉄に委託する形での施工になります。
下部工は一部完了しており、現在、RP1の基礎工事、RP2の鋼製門型ラーメン橋脚を施工中です。いずれも供用中の平面道路にかかるため、RP1は張出し式の鋼製橋脚、RP2は県道本城熊手線を跨ぐ形で鋼製門型ラーメン橋脚を構築します。
――陣原ランプ部は
谷川 橋梁本体工は完了しており、2022年度の開通に向けて、舗装工事などを発注する予定です。
陣原ランプ
岡垣BP 城山トンネル本体工を推進
上畑高架橋はプレキャストセグメント桁を採用 一部ガーダー架設
――次に国道3号岡垣BP事業について
谷川 同事業は、北九州市と福岡市を結ぶ国道3号の2車線(対面通行)区間を4車線化することにより、交通ボトルネックを解消し、信頼性の高いネットワークを構築するとともに、対面通行区間を解消し、安全・安心の確保を目的とする4車線拡幅事業です。対象となる区間は、遠賀郡岡垣町山田~宗像市武丸間の延長4.0㎞です。2021年度は城山トンネルの工事や橋梁工事、トンネル舗装工事を進めていきます。
――岡垣バイパスの個別の構造物について
谷川 城山トンネル(延長462m、幅員10.75m)がこれから施工に入ります。施工方法はNATMであり、補助工法としてAGF工法を用いる予定です。
橋梁は上畑高架橋(橋長202m、幅員11.15m、PC6径間連結ポステンT桁橋)の桁を工場製作中です。プレキャストセグメント桁による施工であり、架設は既に貫通している岡垣トンネルの中を通してガーダー架設にて施工する予定です。
岡垣トンネル/城山トンネル
上畑高架橋
野間高架橋(橋長279m、幅員9.25m、PC単純ポステンT桁橋+PC4径間連結プレテンT桁橋+PC3径間連結ポステンT桁橋+PC3径間連結プレテンT桁橋+PC単純ポステンT桁橋)は、P5-P8間の上部工を除いて発注済みです。未発注のP5-P8間も含め全てプレキャストセグメント桁により施工します。プレテンT桁橋は、クレーン架設にて施工し、ポステンT桁橋はガーダー架設にて施工します。
合わせて現在ハーフランプである山田ランプと野間ランプのフルランプ化に向けた改良工事も発注済みで今年度から施工に入ります。
野間高架橋(全景)
野間高架橋の架設状況
国道201号 八木山BP 13.3㎞を4車線化
延長1.3㎞の筑穂トンネルは片押し施工
――国道201号八木山(やきやま)バイパスは
谷川 八木山BPは、一般有料道路として整備され、2014年秋に無料化されました。しかし、交通量が増大するとともに、渋滞や重大事故が頻発するといった課題に対して、スピード感ある事業展開が必要となったため、2019年度に篠栗IC~穂波東IC間13.3㎞の4車線整備にあたり有料道路事業を導入することとし、NEXCO西日本と直轄で施工しています
現在は篠栗IC~筑穂IC間5.6㎞を先行して工事を進めています。同延長区間のうち、糟屋郡篠栗町・飯塚市境付近にある筑穂トンネル以東を当事務所が施工し、それより西は福岡国道事務所が担当しています。本事業は、舗装・付属物工事をNEXCOが担当し、それ以外を国土交通省が担当する形で進めていきます。同延長区間は2024年度内の開通を予定しています。
――北九州国道事務所が所管する部分の構造物建設の進捗状況は
谷川 筑穂トンネル(延長1,311m、幅員9m)は、篠栗町側からの片押し施工を行っています。地山はCパターンが多く、安定した土質です。施工方法はNATM工法であり、坑口部は、AGF工法を補助工法として使います。
筑穂トンネル(写真上端)
久保山橋の下部工施工状況
筑穂トンネルの東側には久保山橋(橋長117m、幅員8.15m、PC3径間連結ポステンT桁橋)があります。同橋は下部工を施工中で上部工を発注済みです。既設橋と比べてスパンを飛ばし、橋脚の数を減らすなど構造の合理化に努めています。上部工はここもプレキャストセグメント桁を活用し、現在工場製作中です。
筑穂IC以東は8橋を計画 福ヶ谷橋の中央径間は鋼トラス橋
2橋の下部工を施工中
――筑穂IC以東の区間は
谷川 筑穂ICから穂波東IC間延長7.7㎞については、当事務所で事業を進めていきます。現在は赤松尾橋(橋長122m、幅員8.2m、鋼3径間連続非合成鈑桁橋)の下部工と、本谷高架橋(橋長149m、幅員8.2m、PC7径間連結+単純プレテンホロー桁)の下部工(P2、P4、P6)の工事を進めています。
――同区間のほかの構造物は
谷川 ほかに福ヶ谷橋(既設:RC・鋼複合)、舎利蔵川橋、津原橋、椿橋、弁分高架橋(既設:PCおよびRC)、弁分跨道橋(既設:鋼)の6橋を計画しており、いずれも設計中です。
基本的に供用中の構造を基に橋種を選定することになろうかと思います。とりわけ福ヶ谷橋(既設)の中央径間は鋼トラス橋を採用しています。
香春拡幅 新朝倉橋(下り線)の工事が最盛期 切替後、新朝倉橋も架替えへ
鏡山跨線橋(下り線)は下部工施工中、上部工製作中
――国道201号香春拡幅の事業内容と進捗状況は
谷川 同事業は田川郡香春町大字鏡山の延長2.1㎞の区間で現道2車線を4車線化すべく工事を進めています。2021年度は呉川渡河部およびJR日田彦山線を跨ぐ箇所に計画されている橋梁の下部工及び上部工等を進めています。
――具体的には
谷川 呉川渡河部の新朝倉橋(下り線)(橋長58m、幅員11.9m、鋼単純鋼床版箱桁橋)は下部工がほぼ完成し、鋼桁の工場製作を進めています。
新朝倉橋の施工状況
――既設の新朝倉橋はいわゆる護岸橋台で斜角もかなりありますね。昨今の多発する水害を考えると厳しい橋梁であるような気がします
谷川 既設の新朝倉橋は、1966年3月に竣工した橋で、供用後50年以上が経過しています。仰る通りのことも感じており、下り線側への車線切替を行った後に、既設の新朝倉橋の架け替えも予定しています。
――JRを跨ぐ部分もありますね
谷川 JR日田彦山線を跨ぐ部分では鏡山跨線橋(下り線)(橋長58m、幅員14.13m、鋼単純鋼床版箱桁橋)のA2を施工中です。また、鋼桁についても工場製作中です。隣接する既設の鏡山跨線橋も1966年11月に竣工した橋で供用後50年以上が経過しています。
鏡山跨線橋(既設)とその隣で建設中の新設橋/鏡山橋
新仲哀トンネルはリニューアルして利活用
――今後の香春拡幅事業より東側の残る2車線区間の4車線化については
谷川 国道201号香春から行橋間の4車線化については計画段階評価の手続きを進めており、今年4~5月にかけては沿線自治体や住民の方々へのアンケート調査など意見募集を行っています。ルート帯案としては3案をすでに提案しています。①案は既設の計画を踏まえて国道201号北側で通過交通を分離する案、②案は遺跡・古墳などの文化財を可能な限り回避するとともに、町の主要施設へ最短で結び通過交通を分離する案、③案は国道201号を4車線に拡幅し、交通容量の拡大を図ることで交通混雑を緩和する案です。
――地図では新仲哀トンネルより東側が示されていますが、トンネル部分はどうするのですか
谷川 現在、新設の新仲哀トンネルの開通に伴い、既設の新仲哀トンネルは閉鎖されていますが、これをリニューアルして利活用する方針です。新仲哀トンネル(既設)は昭和40年に供用され、供用後実に46年が経過しています。詳細な調査を行った結果、補修・補強対策工法等の調査検討を行い、利活用が可能であることが確認できたため、今後再補修の検討を進めています。