設計納期は約半分に短縮、LCC1割減が可能
メンテナンススモール橋~建設時の工夫により維持管理コストの最小限化を目指す~
関西大学
環境都市工学部 都市システム工学科
教授
鶴田 浩章 氏
現場の条件に合わせて造るのではなく、現場の地形に合わせて使う
50Nクラスの高強度コンクリートを使用
――製作・架設会社のメンテナンススモール橋を用いるメリットは
鶴田 製品を造って納めるという過程は同じなので製作上は今までと同じでメリットは特にありません。型枠の合理化という面でもプレキャスト桁はもともとそうした利点があるため、特に大きくは変わりません。将来的には3Dプリンターのようなものがもっとフィットしてくると、型枠がいらないという世界が表れてくると思います。これはもっと先でしょうが、そういったところを念頭に置いた話も含んでいます。
――今まで上部構造のことに触れてきましたが、下部構造も合わせた考え方は
鶴田 現場の条件に合わせて造るのではなく、部材を現場の地形に合わせて使うようなイメージです。効率的にプレキャスト化を行うためには、橋長や幅員を標準化し、部材形状を統一してパッケージ化することが重要です。造るものはある一定のものを造って、それで対応できるように現場の地形に合わせた使い方を調整するようなイメージです。主な成果としては、BIM/CIMを使ってプレキャスト化を徹底することにより、先ほども言いましたが現場で行う作業が減るという点です。
――ということは、このメンテナンスモール橋というシステムができれば、桁は造り置きでも施工可能ということですね
鶴田 理想を言えばそうです。地形に合わせて桁を造るのではなく、地形に合わせて桁を使えるように架設するという考えです。そうすることで設計も最小限でよく、型枠もいらないという発想の転換を行います。小規模橋ではそうした手法が使えると思います。
――構造細目や塩害に強い素材などの議論はしているのですか
鶴田 構造細目や形状のWGの中で、例えば先ほど出た高強度の材料を使って鋼材がいらない形式を使うとか、後は非鉄補強筋(FRP、ステンレスなど)を用いるとか、表面保護塗装を予防保全的に使用するなど、さまざまな知見を組み合わせることで構造物の耐久性を高めるようなことを盛り込んでいます。
形状は、風の当たり方をシミュレーションして桁などの形状を微妙に変えたりして(例:サークルハンチ)、絞り込むようなことも行います。水切り形状なども風の当たり方によって変えます。また歩車道の分離帯に境界ブロックがあると、悪影響があるのでその形状も検討しています。今回は車道のみの検討としました。いずれも3D設計であるからこそスムーズな変更が可能となります。
コンクリートは50Nクラスの高強度材料を使います。材料の選定は、構造計算でしか決めていなかった従来の考え方ではなく、塩分浸透の速さや中性化進展速度など、維持管理の考え方でも材料を選定します。セメントは高炉セメントやフライアッシュセメント、表面含浸材は塩害であればシラン系、中性化であればけい酸塩系、複合劣化は併用とケースバイケースを考えています。
――RC、PCの現場打ちや鋼製橋梁と比べてコスト及び工期のメリットはどのくらいあるのでしょうか
鶴田 材料的なイニシャルコストは良いものを使おうとしているので上がります。ライフサイクルコスト(100年)で通常のプレテン桁に比べて1割程度の縮減を見越しています。設計納期は半分以下に、上部工の現場工期は1週間程度と現場打ちに比べると大幅な短縮が可能となります。
――こうした、プレキャスト化した中小橋ではWebを使った簡易設計ソフトを提供しているものもありますが、メンテナンススモール橋は
鶴田 そうしたシステムの導入は必要になってくると思いますが、現在はまだできていません。
3D設計のRC、PC橋にも使えるソフトウェア整備が必要
鋼橋や機械は「鋼」、PC、RCは異なる素材の複合であるため計算が複雑
――研究のとりまとめの状況は
鶴田 2019年、2年間の活動の区切りで中間とりまとめを行い、関西支部の年次学術講演会の中で発表しました。2019年度までで研究活動は終わっており、2020年9月には、土木学会関西支部の行事として成果報告会を開く予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2021年度に延期して実施される予定になっています。
――メンテナンススモール橋を実橋で試験施工することは考えていないのですか
鶴田 設計面では、BIM/CIMから計算に流れるといったところで問題点も出てきています。3D設計自体、国交省は一生懸命やられているものの具体的な基準がまだできていません。現状では道路橋として3D設計の基準がなく、どのように世の中に送り出していけば良いのか、許認可を取ってやるのか、設計・製作側もどのように示方書レベルであるということのお墨付きをもらうのか、3D設計の流れになってくるときの基準を待つか、という点が課題として存在します。それを解決することが必要です
――橋梁における3Dプロダクトモデル構築システムとしては、いずれも鋼橋分野ですがSymphony(シンフォニー)やCastarJupiter、3D施工支援システムとしてはConcertoなどがそれぞれあります。3Dモデリングを2DCADに落とし込めるソフトウェアですが。そうしたものを過渡的に使うことはないのですか
鶴田 我々は3Dをわざわざ2Dに落とすことはひと手間増やしているだけだと思っています。我々が重視しているのは3D設計と計算との連動です。例えば鉄筋径を図面上替えました。そうするとそれに応じてかぶりコンクリートの厚さなども調整されて3D上で成り立つ、こういう連動をしていかないといけないと思っています。変更すれば図面も自動的に修正されるという連動性です。すごくチェックも楽になりますし、細かいところの図面もおこせるので、現場も楽になります。
――そういうソフトはだいぶ出来上がっているのですか
鶴田 もともとあるということで進めてきたのですが、他分野のものであり、それを準用していこうと考えていたのですが、やはり、機械分野と土木分野は微妙に異なりました。
――かぶりと鉄筋の連動なんて鋼材を主とする機械分野にはありませんものね
鶴田 そうです。鉄は安定した物質ですが、鉄筋コンクリートやプレストレストコンクリートは、鉄とコンクリートの複合体ですし、コンクリートそのものも混ぜ物なので、結構複雑な計算が必要になります。
――3D+時間、オブジェクトを活用した劣化の状況監視や予測は
鶴田 オブジェクトはもちろんたくさん配置します。また、各種センサーなども使ってIoTを使った管理――人が現場に行かなくても構造物の点検がある程度できる――を目指しています。
メンテナンススモール橋は、造る時点で頑張ることで、維持管理の手間を減らそうというものですが、よりよい構造にするために維持管理をしていく中でモニタリングを進め、さらなるメンテナンススモールに近づけていかなくてはなりません。当然、点検データを入力していって、どんな状態になるのか? ということにも連動させていくことが必要であると考えています。
――設計段階のオブジェクトに劣化予測データを入れておき、点検で実測したデータもそのオブジェクトに時系列的に入れられるシステムを造ればメンテナンスもわかりやすくなるような気がします
鶴田 将来的にはそのようなこともできるようにしたいですね。
――今後の研究の継続は
鶴田 NPOや研究会など、何らかの形で研究を継続していきたいと考えています。
――ありがとうございました