道路構造物ジャーナルNET

設計納期は約半分に短縮、LCC1割減が可能

メンテナンススモール橋~建設時の工夫により維持管理コストの最小限化を目指す~

関西大学
環境都市工学部 都市システム工学科
教授

鶴田 浩章

公開日:2021.04.06

 土木学会関西支部のメンテナンススモール橋梁共同研究グループ(委員長:鶴田浩章関西大学教授)は15m以下の中小コンクリート橋の架替えを対象としたメンテナンススモール橋の研究を進めている。「使用材料や構造細目の工夫によって供用期間中の致命的な劣化損傷の発生を回避することで、維持管理を最低限に抑制した橋」を3D設計により効率的かつ視覚的に分かりやすく合理的に設計・製作・架設・維持管理していくことを目指すもの。プレキャスト形式であり、高欄や地覆なども含めてできるだけシームレスでワンパッケージ化された橋梁形式であり、中小橋であるため、地形に合わせて桁を造るのではなく、地形に合わせるように桁を使うことで、桁の製作コスト縮減や施工工期の短縮、LCC縮減を目指す。その内容について鶴田教授に聞いた。(井手迫瑞樹)

供用期間中の致命的な劣化損傷を回避
 i-Conや3D設計も取り入れ、設計~施工を立体化で一気通貫

 ――メンテナンススモール橋が立ち上がったきっかけは
 鶴田 土木学会の関西支部で研究グループが立ち上がったのは、橋の長寿命化を実現する技術が、塩害、中性化、疲労など様々な分野で独立して行われておりうまく集約ができておらず、それをうまく集約して劣化を抑制する構造物が作れないのかと私を含めた有志が感じたことがきっかけです。
 橋というハードだけではなく少子高齢化による担い手不足も顕著になっている中で、維持管理の手間を減らすために材料選択や構造細目の工夫などで大きな劣化を生じさせない橋梁が作れないか? というのが、狙っているところです。即ち維持管理の労力(質量や頻度)を減らせる橋梁ということでメンテナンススモール橋と名付けました。正式には「使用材料や構造細目の工夫によって供用期間(100年)中の致命的な劣化損傷の発生を回避することで、維持管理を最低限に抑制した橋」と定義しています。
 一方、国交省の進めるi-Constructionの深化やそれに伴う3D設計も取り入れて合理的に設計から施工にうまく流れていくようなものができないかということも模索しています。実際に機械分野では3Dデータから解析やシミュレーションを行い、設計して造るというところまで流れていくようなものができています。橋梁でも、3Dデータを使って同様のことを行い、維持管理までを一元管理すれば、メンテナンススモール橋が実現できると思います。 
 現段階では、実現するための課題を抽出して、それらを今後改善検討していくことを委員会で行おうと思い活動してきました。

対象は15m以下の小規模コンクリート橋梁の架替え
 3D設計が基本 強度だけではなく塩害や中性化などの進展速度も反映

 ――維持管理の手間を減らすには、どんな橋梁を目指しているのですか。PCファブもかかわっているのでPC構造だとは思うのですが。また施工面をどのように簡易化するのか、3D設計の話が出ましたが、どのようにやろうとしているのでしょうか
 鶴田 対象としているのは橋長15m以下の小規模コンクリート橋梁です。委員会の中でも議論が出ましたが、地方自治体が管理をしている中小橋梁は数が多くメンテナンスが難しくなっています。そのため、とりわけ数が多い15m以下の単径間のRC、PC橋の架替えを対象にしました。

 ――3D設計を取り入れるということですが、下部構造も構造を決めていくのですか
 鶴田 今のところ下部構造までは範疇に入れていません。上部構造のみが対象です。
 ――構造細目や設計の手法は
 鶴田 基本はプレキャスト構造です。工場製作したものを運んで架設するイメージです。既存橋梁は、現場施工の品質が耐久性に影響している可能性があります。そのため、極力現場施工を無くしたいと考えています。構造細目的な点では飛来塩分が飛んできた時に塩分が付きにくい形状であるとか、雨で洗い流されやすい形状であるとか、風の巻き込みを生じにくくするなどの知見を有するメンバーが居ますので、その知見を反映させていきます。3D設計を用いて、解析的なことも絡めて設計と一連でできるというのが理想です。その中で様々なパターンを試して、一番良いものを現場に合わせて使えるという流れができるといい、と考えています。
 ――この橋を推進することでどのように設計を省略できるのか、設計会社のメリットは。また型枠の合理化も図られるのか。斜角や勾配など現地条件も様々に変わるが
 鶴田 現在は2Dでやっている設計を3Dで設計できるようになれば、斜角や勾配の影響の反映も、3Dで視覚化しながら分かりやすく検討できるようになります。3Dデータを使うことで設計にすごく近いところでシミュレーションが可能になるわけです。現状の2Dは設計、3Dで解析、と別々にしていますが、3Dデータをうまく使うことで、簡素化できるのではないかと思います。これは設計の簡略化にもつながります。
 メンテナンススモール橋というのは少し理念的なところもあって、CAE(computer aided engineering)を使って、コンピューター内でシミュレーションして設計を進めていきたいと考えています。例えば疲労に関しても、今の計算上では部分的に物事を決めているのを、橋梁全体でシミュレーションして物事を決めていきます。そういったものがまずベースにあって、それで合理化を図っていきます。実際には設計上そういう仕様を守ったうえで構造計算するしかないわけです。それを、3Dデータを使用したシミュレーションで、維持管理に関する因子を入れて、きちんと検討したものを世に送り出して、メンテナンススモールにつなげたいと考えています。

 ――それは疲労だけじゃなく、塩害や中性化なども加味して?
 鶴田 そうですね。
 ――ということは時間軸も加えて4D的な感覚とも言えますね
 鶴田 そうですね。そういう理念に基づいて設計していく橋梁です。具体的にどう造るかというと、現場の継ぎ目を無くす、一括で架設する、あるいは現場に移動式の工場を持ってきてそこで造ってしまう、メンテナンススモール橋に見合う非鉄補強筋や高強度コンクリートなどを選択していくなど、いろいろなタイプの橋梁の基礎検討も委員会の中で行っています。それを予め設計に組み込んでおきます。
 設計の省力化ですが、3D設計になるということは、BIM/CIMと設計計算が連動するということと同義です。今回はそれにトライしてみたのですが、国内のソフトではなかなかうまく連動できなくて結局別々になってしまいました。将来的には1パッケージにして、条件を与えることで設計を自動化できる、と考えています。さらに、プレキャスト部材を用意して、管理者が入力すれば3Dデータが出力され、それを製品として発注し、工事現場で架設されるという流れを目指しています。
 ――委員会メンバーにはコンサルタント会社の方もおられますが、今の業務の流れや売り上げとして、詳細設計があって、ファブが桁を製作・架設して、付属品を設置した後に舗装をかけて終わるわけですが、設計会社はどういうメリットがあるのですか? 図面を渡して対価をもらうのとは別の。この場合は3D(BIM/CIM)データが設計成果になるわけですか
 鶴田 そうです。設計成果になって発注の際の図書になります。コンサルタントは計算ソフトの維持及びバージョンアップを行い、ソフトウェアライセンス契約という形でフィーを頂き、3Dの中で目に見えて設計が完了できるというのが将来的な理想です。
 ――実現のためには発注者を巻き込まないといけませんね
 鶴田 そうですね。i-Constructionも将来的にはそこを目指してやっているものだと思いますので。設計者が製作したBIM/CIMのデータが発注者に渡り、3Dデータが発注図書となって施工者に流れるというようにしていければ、上流から最下流までの連動性が出てくると思います。それがまた維持管理にフィードバックできると思います。

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