橋面コンクリート舗装ガイドライン2020も上梓
道路橋床版の維持管理マニュアル2020を出版~同2016を大幅改訂~
土木学会 鋼構造委員会
道路橋床版の点検診断の高度化と長寿命化技術に関する小委員会
委員長
橘 吉宏 氏
対策工法の選定フローを作成
損傷段階に応じ性能保護、性能回復、性能強化、更新の区別設ける
――5点目は
橘 対策工法の選定フローを作成した点です。本書120~122Pにこの考え方のフローが書かれています。各損傷段階に応じて、性能保護、性能回復、性能強化、更新という区別を設け、橋梁定期点検における損傷度Ⅰ~Ⅳに対応する手法を示しています。
具体的に性能保護、性能回復、性能強化、更新の分野ごとに、そしてそれとクロスさせる形で劣化要因を軸として作り、それに対応する形で、どのような工法があるか、表にしてまとめています。
主な工法としては、性能保護段階は床版防水、表面処理、ひび割れ注入、橋面コンクリート舗装、性能回復がひび割れ注入、断面修復、部分打換え、電気防食、性能強化が上・下面増厚、鋼板接着、連続繊維シート接着、縦桁増設、橋面コンクリート舗装、更新が床版取替えです。
共通することですが、止水、防水全ての前提条件に位置付けています(126P)。
また、この工法だけやればいいというのではなく、性能保護と回復、回復と強化などを併用していく必要があるということもこの場を借りて強く訴えたいと考えています。実際に125P、および127Pに留意点を書いています。
複合劣化といっても塩害とASRが被った場合などは性能回復や強化などでは対応できない可能性もあります。
――塩害とASRが被った場合は、床版を更新したほうが良いと思いますか。
橘 断面修復や防水層で止水ができれば良いのですが、加速期から劣化期では難しく、更新も検討に入れる必要があると思います。例えば北陸の道路構造物では、現在、富山の方でASRによる劣化が酷い状況にありますが、それは急速膨張性を有する骨材を使ったコンクリートに顕著に出ています。最近は、遅延膨張性を有する骨材を用いた劣化も顕在化するようになっています。これらの反応性の骨材は火山が多いわが国では、全国的に分布することがわかってきました。床版には遅延膨張性を有する骨材を使っている地域も多くあり、これらは今後、塩害や凍害との複合劣化として時限爆弾のように損傷を出してくる可能性がありますし、損傷が生じている床版も出てきています。
――床版防水には橋面コンクリート舗装も入れていますね
橘 今回、選択肢の一つとして入れました。
――進歩が著しいドローン技術に関してはどのように考えておられますか
橘 文言は入れていますが、委員会で実証は行っていません。ただ、最近法律が変わるとのことで、ドローン操縦士が国家資格に格上げにされ、その資格をしっかりと取る必要があるだけでなく、保有するドローンの機体点検もしなくてはならなくなるとのことです。それをしっかり行っていけば、公共構造物の点検に使用することができるようになってきます。ハードルは上がりますが、事業者の信頼性は上がると思います。
橋梁点検の現場ではBT-400のような大型橋梁点検車が使われていますが、監視員、操縦士の2人だけでなく、規制を含めた運用中の安全管理にも多大な人と金を必要としています。ドローンはこうした点検方法に比べても人とコストおよび安全に関するリスクを低減できます。ドローンでスクリーニングした上で、橋梁点検車で詳細調査する手法でも運用コストを縮減できると思います。
今後はドローンを運用して床版の点検をする際の留意点についても委員会等で取り上げてもらったら良いなと思います。
橋面コンクリート舗装ガイドライン2020
小規模自治体では防水工が負担 コンクリート舗装に期待大
――次に橋面コンクリート舗装ガイドライン2020について、2016年度版は手引きでしたが、今回はガイドラインと1つ格付けを上げましたね。その狙いと概略は
橘 舗装の分野ではコンクリート舗装のマニュアル類はかなり整備されています。しかし橋上のコンクリート舗装というのは、橋の分野か、舗装の分野なのか明確な区分がありません。床版の上というのは特殊で、今までのコンクリート舗装の延長というのは難しいというのがありました。使いたいけれども、指針が欲しいという声が自治体を中心にあちこちで聞かれるようになりました。
実際に補修の段階で防水工を施工して舗装を施工することは、予算の制約が大きい小規模自治体では負担が大きいです。それに代わるものとしてコンクリート舗装が注目されています。また、舗装の更新時に、舗装自体の耐久性がある橋面コンクリート舗装とのことでも注目されています。
――従来の床版防水と比べてコンクリート舗装の方が安い、と
橘 工法によっては安いといえます。本委員会の中では、普通のセメント系とポリマーセメントコンクリート、レジンコンクリートを含めてマニュアル化しましたので、モノによっては従来の防水工よりイニシャルコストが高くなっています。
――レジンコンクリート系舗装とは
橘 MMA系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が含まれているコンクリートを用いた舗装のことを指します。ポリエステルなどを含んでおり防水性能は抜群です。米国カリフォルニア州で多く使われており、耐摩耗性や、防水性は非常に良いといえます。
――セメントコンクリート舗装の耐久性は
橘 富山市の実橋梁ではPP繊維補強コンクリート(超速硬化型繊維補強コンクリート)舗装による試験施工を行いましたが、特に異常はありませんでした。
セメントコンクリート舗装の模擬床版での試験施工状況
富山市新屋橋での橋面コンクリート舗装(PP混入セメントコンクリート)施工状況(井手迫瑞樹撮影)
――ポリマーセメントコンクリートとは
橘 具体的には速硬化型テックス改質コンクリートです。過去にも天王山古戦場橋などで使用しています。
速硬化型ラテックス改質コンクリート舗装の試験施工状況
――舗装と防水を兼ねる手法としてはグースアスファルト基層も出てきていますが
橘 ある程度橋長や面積のある橋梁については、それもよいと思いますが、自治体が管理する橋梁のほとんどは30m以下の小規模橋梁です。そうした箇所に手軽にある程度安価で打設できるものとして、我々はコンクリート舗装を提唱しています。
――繊維補強していないコンクリートもセメントコンクリート舗装の範疇に入れているのですか
橘 セメントコンクリートではそれは対象外としています。ただ安価であればそれもありかもしれませんが、我々はあくまで長寿命化を目的としたコンクリート舗装を提唱していますから。繊維補強だけでなく、ある程度、物質浸透抵抗性がある材料を求めています。
――要求性能はどのようなものがありますか
橘 4つあります。1つ目は床版の一部として機能して、床版の耐荷性と耐久性の向上を目指します。2つ目は物質浸透抵抗性です。塩分や水分の浸透を防ぐ性能を求めるもので、米国の基準(本書10P、2-6-1)を目安としています。もし、物質浸透抵抗性が担保できないのであれば、床版とコンクリート舗装との間にそうした物質を遮断することができ、付着性能も補強できる接着剤を界面に塗布することを推奨しています。
3つ目は平坦性や滑り抵抗性など舗装としての基本的性能です。
4つ目は、床版との一体的な付着性能を要求しています。
――コンクリート舗装と既存床版界面の付着は接着剤の塗布を義務付けないのですか
橘 義務付けません。先ほど話したように物質抵抗浸透性と付着性能があれば接着剤を塗布しなくても良いと考えています。
但し、施工目地については、実際にどのように対処すべきか考えなくてはいけないと思っています。
――目地を垂直に作らないのは鉄則じゃないかな、と思います。私がみたコンクリート舗装は、Jティフコムなどですが、同材料を使った現場では目地を凸状にして、水やその他の有害物の浸入を防いでいます
橘 そうしたことも必要になってくると思います。
――設計上の留意点は
橘 要求性能を満足させることです。設計する時に舗装厚がどれくらいまで許容できるかは確かめる必要があります。それによって適用工法が限られる必要が出てきます。薄くても頑丈なのがJティフコムだし、30mm以上必要なのが、他のセメントコンクリート系などです。工法によって最小厚さが決められているので、それは選定時の大きな制約条件になってきます。
Jティフコムの試験施工状況
――施工方法や維持管理の留意点は
橘 まだ今からの技術ですので検討はこれからです。
――最後に今後の活動について
橘 本小委員会は4月末でいったん終了しますが、活動は次期の第7期小委員会に引き継がれます。来秋以降に立ち上げる方向で、現在、土木学会とも調整・準備を進めています。
床版の長寿命化というのは、流れとしてありますが、細かい活動内容は検討中です。道示の改定や床版防水便覧の改定の動きも意識していこうと考えています。
――ありがとうございました
(2021年3月22日掲載)