道路構造物ジャーナルNET

令和2年の橋梁業界を振り返る

2021年新年インタビュー① 西川和廣土木研究所理事長インタビュー 

国立研究開発法人
土木研究所
理事長

西川 和廣

公開日:2021.01.01

毎年のごとく続く橋梁流失
 河川と道路の両方で見ることが大事

 ――球磨川の水害などで多くの橋梁が流失しました。毎年のごとく橋梁の流失が続いています。理事長は昨年の土木学会全国大会で『洗堀による洪水被害と予防保全』というテーマでお話しされていますが、その内容と今後の既設橋梁の流失防止、架け替えの際の留意点などを含めてお話しください
 西川 現役時代主に上部工に携わってきましたが、基礎についても気にしていました。橋屋は洗掘しか頭にありませんが、河川の流れや河床の状況も変わっており、いわゆる河床低下の問題があります。洗掘が進んでしまったら、橋脚の周辺だけでは何もできません。そこでひとつのアプローチとして維持管理の点から、どのようになったら予防保全をしなければならないかを考えるために、昨年9月の土木学会年次学術講演会で論文を発表しました。河川管理施設等構造令にも、将来の計画河床高にあわせて土被りを設けなければならないとあります。フーチングは河積を阻害するからですが、ということは土被りがなくなったらいずれ洗掘が生じることになります。したがって、その段階で河川管理者と相談して検討するのが適切だと思います。河川管理者と一緒に行ったほうが根固めをするにしてもうまくできますし、川幅全体のなかで局所的に洗掘されない対策ができるかもしれません。また、河川改修と同時施工で架替を行うといったことも可能になります。洗掘された橋脚だけを見て、その補強方法のみで解決しようとしてもできることは限られます。


(土木研究所提供資料、以下注釈なきは同)

 自らの縄張りだけでどうにかしようとするのではだめだと、土木研究所の河川部門にも伝え、CAESARと一緒に研究することにしています。河川管理者は流量予測や水位、流速の計測や堤防の高さや強度については気にするのですが、河床が変化していることについてはあまり関心がありません。河床が掘れたということは流下能力が増えていることになりますので、橋梁が危険かどうかは河川管理者にとっては興味がありません。しかし、橋梁は河川内の構造物ですので、一体として考えてほしいと思います。橋梁関係者にいたってはまったくわかっていません。

河床の変化に注意が必要

河川計画と歩調を合わせた橋梁の架替えが必要
 そこに住む人の利便性を考慮した位置に橋梁を架ける

 ――水害で被害が発生したのではなく、その前に劣化が進んでいて水害でとどめが刺されたということもありますね
 西川 まさにそうです。全体のメカニズムを考えずに、点検時に洗掘深ばかり気にしていますが、すでに手遅れになったものを見つけても、直接基礎でフーチングの下が洗掘されているものなどはどうしようもありません。
 球磨川の流出橋梁では、クリアランスを超えて上部工に直接流れが作用したケースが多く見られました。もっと高い位置に架けるべきだという人もいますが、そうすると市街地のはるか上を通ることになり、使い勝手が悪くなります。川沿いに発達した街に架ける橋はアーチ橋やトラス橋の下路橋にして、できるだけ両岸の街と高さを違わないように先輩方は工夫したのだと思います。だからこそ、今まで持ったのだと。

玖珠川に架かっていた新天瀬橋の流失状況(井手迫瑞樹撮影)

球磨川に架橋されていた沖鶴橋の流失状況(井手迫瑞樹撮影)

同様の天狗橋の損傷状況。桁は流失していないが橋台背面の盛土がない(井手迫瑞樹撮影)

同じく球磨川に架かっていたJR肥薩線第二球磨川橋梁の流失状況(井手迫瑞樹撮影)
 鳥瞰的に地形を見ると人吉盆地は下流側が球磨川の狭さく部になっていて、人吉市自体が天然のダム地形になっていますので、対策としては上流にダムを造るしかありません。もし狭さく部を拡げれば、今度は下流側の被害が大きくなってしまいます。そのように見ていくなかで、どのようにすればいいかを考えなければなりません。球磨川の流出橋梁の架替は川辺川ダムを含む全体設計のなかで行っていくのだろうと思います。
 ――川辺川ダムは長期的な計画として、架替えるとしたら同じ位置とはいかないですよね
 西川 違う位置では街をもう一度造り直さなければなりませんし、クリアランスを余計に取れば使いにくい橋になります。地方にいくと潜り橋(沈下橋)が残っていることからもわかるように、クリアランスが高くなれば生活に支障がでます。
 ――では、同じ位置に架替えるべきだと思いますか
 西川 街路ができているわけですから、それと関係ない位置に架けるわけにはいかないと思います。
 ――そうすると工夫が必要です
 西川 そこは知恵の出しあいですが、橋だけで考えのではなく、河川改修と一緒に行う必要があると思います。少しでも水位が下がる工夫をしながら、橋もできるだけ両側の交通とうまく擦りあうようにすべきだと思います。
 ――土木は総合力ですね
 西川 本来、土木は総合工学です。それが専門ごとに細分化しすぎてしまったのが、現在の日本です。道路と河川でも昔の技術者はある程度両方知っていたはずですが、いまは統括するエンジニアがいないのです。また、昔から道路管理者と河川管理者が、どちらの予算で行うか我慢比べをしていたようなこともありました。もうそれはやめなければなりません。このところ続いた大水害の結果、流域の治水については、河川管理者だけでなく、管理者すべてが参加すべきとの方向が示されました。ダムについても治水、利水、電力などの区別を超えて、洪水時に対応できるようになりました。だからこそ、河川にある橋梁も同じように考えるべきです。現在はスパンを飛ばせるようになっていますので、せめて河川内橋脚の数を減らすという考えはひとつあると思います。
 ――球磨川の場合は、橋脚数が少ない橋でも流出しました
 西川 橋脚数は流下能力に影響するので、1本でも減らせれば効果はあります。
 ――橋脚数を減らすことに加えて、クリアランスの問題は
 西川 クリアランスを上げて、かつ両側との擦り合わせをしなければなりません。流された肥薩線やくま川鉄道などの鉄道橋は勾配がパーセントではなくて、パーミルの世界なので擦り合わせが大変です。上げてしまうと前後何キロも線形を変えなければなりません。
 ――肥薩線の復旧も課題が多くあると思います
 西川 お金の話など、できない理由ばかりを並べますが、どうやったらできるかを考えなければなりません。

グリーンレーザー活用で水面以下も3次元データ取得
 橋台を杭基礎にしたために通常時において背面洗堀が進む可能性も

 ――橋梁流出が相次いでいるなかで、河川近傍の直接基礎は必ずしもよくないのではないでしょうか。北海道の水害事例では、直接基礎を杭基礎に変更しました
 西川 昔のお金のない時代にそうしていたのかもしれません。お金があるのなら、話は違ったでしょう。ただし、北海道のように泥炭層など地盤が悪いところでも直接基礎を採用せざるを得ない場合には当然問題が起こります。

北海道の国道の構造物の杭基礎が踏ん張った例(井手迫瑞樹)

 ――今後、地盤は耐震だけでなく岩質や水の影響も考えなければならないと思います
 西川 何十年か先の河床高想定よりもずっと下まで掘り込んで基礎を構築しているにもかかわらず、管理者の頭の中に時間軸がありません。現在、グリーンレーザー測量で、河床の3次元データが取れます。これまでは約200m間隔で河川を輪切りで測量して断面を把握することしかできませんでしたが、水面下の河床管理も3次元でできるようになります。何年かに1回測量すれば、流路や河床全体の変化がわかり、洗掘の危険性がある箇所も把握できます。3次元データは3D-CIM、時間軸が加われば4D-CIMということになり、まさに土木研究所が力を入れて進めようとしているDX デジタルトランスフォーメーションです。
 全国大会でのプレゼンの準備をしていたときに、堤防位置にある橋台を杭基礎にすると、背面が陥没する原因になる可能性があることに気づきました。直接基礎ならば洗掘を受ければ傾きますが、杭基礎だと、フーチング下が洗掘されても支持力は足りているので傾きません。しかし、フーチングの下がすべて洗掘されると橋台の背面から土砂が吸い出されてそこの道路が陥没することになります。それに気づいていませんでした。

 ――もう少し詳しくいうと?
 西川 背面土砂の流出防止策を考えなくていいのかということです。杭基礎は橋が傾きませんが、知らないうちに路面の下が空洞になっている可能性があります。洪水時には流出と空洞化が一気に進みますが、通常時にも路面陥没の危険性があります。
 (一番新しい「AIデータサイエンスシンポジウム」の論文にも書きましたが)現在、CAESARで行っている道路橋メンテナンスサイクルへのAI導入では、すべての損傷のメカニズムを紙芝居の形に表現して、AIの教師データにしていますが、それを描いているといろいろなことに気づくという効用があります。壊れ方に加え、原因や対策工法などが見えてきます。

 ――確かに洪水時のことしか考えていませんでした。河床洗掘については考えますが、橋台の背面に普段から水が回っている可能性もあるのですね
 西川 皆がまだ気づいていないことがたくさんあります。以前はそこまで思いつく余裕もなく作っていて、コストがかかる土被りの確保の意味を理解できずに、皆文句を言っていました。今になって考えてみれば、土被りを確保していなければもっと多くの橋が流出したと思います。

地滑り地形では「橋台が動く」ことも
 橋台があるところだけアンカーがないことが多い

 ――中山間地では橋台の計画・設計に地滑りの専門家の意見を聞くことも不可欠だとの考えもお持ちですね
 西川 橋台の傾斜には2通りあります。ひとつは液状化するような埋め立て地で、埋め立てた土砂自体が動く、すなわち側方流動を生じるケースです。もうひとつが中山間地の地滑り地帯で地面が動くケースです。山間地の川沿いの道の斜面には、地滑り等斜面の安定対策のためのアンカーが見られますが、よく見ると橋がある箇所だけはアンカーがありません。地滑りの専門家も、橋台があるから大丈夫だと思っているようです。しかし、橋台の設計では地滑り抑止工としての設計は行っていません。ふたつの要素が重なるところは、お互いに相手のことを知らないので、落とし穴になります。私がいた酒田工事事務所の月山周辺の道路はすべて地滑り地帯だったのですが、片っ端から被害を受けました。
 何年か前に髙木千太郎さんが出ていたNHKスペシャルで、橋のエキスパンションジョイントが衝突していることを指摘されていました。点検のコンサルタントは、エキスパンションの遊間異常という報告をして、ジョイントの交換を提案します。交換するとまたぶつかります。2回交換して、3回目を行おうとしたら桁が邪魔になったので、桁を切って短くしたとい笑えない事例も実際にあったようです。それは地山が動いているということを思いつかなかったということです。
 ――この話は非常に含蓄あるというか、今後も留意していかなくてはいけませんね
 西川 河川の河床管理と橋、中山間地の地滑り地形の中にある橋を、専門分野横断的に総合して見ていかなくてはなりません。
 ――点検の際は、橋台部の移動状況も今まで以上に見ていかなくてはいけませんね
 西川 一定以上の知見を有する人は維持管理の際に必ず見ています。しかし知見のない人は見落としがちです。橋の本体しか見ていません。その周辺も合わせて見ないといけません。俯瞰が必要なんです。橋台が勝手に動くわけはなくて、普通は地面が動くせいで位置が変わるのですから。

3D、4Dを活用すれば働き方は変わる
 橋も変えられる

 ――先ほどのグリーンレーザーの話ですが、橋梁基礎の分野にも新しい技術を取り入れていますね
 西川 DX(デジタルトランスフォーメーション)が土木分野でも言われていますが、デジタルはともかくトランスフォーメーション=仕事の仕方を変えるという方が重要です。
 3D-CIMが代表的ですが、これからは大事な情報は3次元で取得し、処理し、かつ表現されるようになると思います。3次元の情報量は今までの2次元と比べて比べ物にならないほど多く様々な判断が可能になります。さらに時間軸を付け加えることで4次元の表現が可能になります。今、老朽化で困っている橋も3次元情報が取得できるのであれば、維持管理上大きなメリットが出ます。ドローンを飛ばして2次元の写真を撮ってきても、損傷を認識することは困難でしたが、複数の写真から点群データを作成することで容易に3次元化できれば、画像認識のレベルも急速に進むのではないかと思います。

土木研究所「地すべり災害対応のCIMモデルに関する技術資料(案)(令和2年5月)」より抜粋

 既に、土木研究所では地滑りチームが3次元カラー点群データを作成して、地すべり発生現場の状況を把握するシステムを構築しました。鳥瞰してみると地滑りがどの範囲、どの方向に動いているかが分かりますし、集落付近にフォーカスすると家屋と地滑りの高低差などが現地に行ったように画像でわかるわけです。

土木研究所「地すべり災害対応のCIMモデルに関する技術資料(案)(令和2年5月)」より抜粋
 地すべり発生後、まず現場でドローンを飛ばしてデータを取得して土木研究所に送ると、半日~1日あれば地滑り部を鳥瞰するカラー点群データが作れますから、そのバーチャル現場を見ながら土研の中で議論して、指導する内容を決めてから現場に向かうことができるようになりました。場合によっては現場に行く必要がなくなり、また地震時など複数の地すべりが起きたときなどでも、限られた数の専門家で対応ができるようになりました。とにかく現場に! というこれまでの仕事の仕方が大きく変わりました。

土木研究所「地すべり災害対応のCIMモデルに関する技術資料(案)(令和2年5月)」より抜粋
 橋にも地滑りのように適用できるか否かは模索中ですが、ドローンの性能が上がり、橋の下に入れるようになったので、橋の損傷に対する技術指導にも3次元データの活用が可能になると考えています。

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