新思惟大橋 橋脚高93m、支間長150mでいずれも国内最大級
谷底から約130mの現場で張出架設が進む
――施工中の構造物で特徴的なものがありましたら教えてください
髙松 田野畑道路の新思惟大橋が挙げられます。橋長394m、幅員12mのPC4径間連続ラーメン箱桁橋で、村道鉄山線と松前川を跨ぐ急峻な谷地形に架橋しています。松前川の川床から路面高までは約130mで、P3橋脚高は93mと国内最大級になっています。支間長もP2-P3間が150mで国内最大級を誇っています。現在、下部工施工が完了して、上部工の張出架設を進めています。
新思惟大橋 橋梁一般図
(左写真)橋脚高93mと国内最大級のP3橋脚/(右写真)P1橋脚から張出架設が開始された
――国道45号現道の思惟大橋は上路式アーチ橋ですが、新思惟大橋の上部工形式採用理由は
髙松 現地の地形、地質、気象、架設などの条件や、将来的な維持管理、性能要求の確保、経済性などを総合的に判断して決定しました。
国道45号現道の思惟大橋と橋台位置が違うため、新思惟大橋では橋長が79m長くなり、路面高も約12m高くなっています。
新思惟大橋 完成予想図(写真手前側は国道45号現道・思惟大橋)
――急峻な谷地形の現場ということで、上部工施工にあたって苦労や工夫していることは
髙松 現場では、強風が季節を問わずに頻繁に海側からも山側からも谷を吹き抜けています。そのような中での谷底から約130m以上の高所作業となりますので、墜落・落下の災害防止を第一に架設しています。強風対策では、クレーンなどに風向風速計を設置しているほか、施工者がスマホを活用してリアルタイムで風の状況把握を行っています。
作業構台は大規模なものが必要でしたが、急峻な地形で構築できる範囲が限られています。P2橋脚の下部工施工中はP1橋脚側の構台が使えなくなることから、事前にP1橋脚側に上部工の施工ヤードを別に確保して橋脚柱頭部の構築を進めるなど、工程短縮を図る工夫も行いました。また、P3橋脚部に配置したタワークレーンは、下部工から上部工への施工においてタイムロスを失くす観点から、下部工の施工段階から上部工施工で使用できる位置や吊り能力などの規格を考慮して設置しています。
A1側からP2橋脚に向けて、SqCピア工法を採用して構築された大規模な作業構台。
右写真奥にはP3橋脚部のタワークレーンが見える(大柴功治撮影)
――柱頭部施工での工夫は
髙松 鉄筋やPCケーブルの組立精度向上のために、3D-CAD(CIMモデル)を使用して事前に照査を行い、過密配筋の鉄筋干渉などについて対策を行っています。また、鉄筋は加工ヤードの確保や保管場所などを考慮しすべて工場加工として、現地加工は一切せずに組立のみとしました。
足場は総足場より工程短縮ができる昇降式のブラケット足場を採用しています。
P2柱頭部のCIM画像
ブラケット足場を採用(左写真:手前がP2橋脚/右写真:P3橋脚)(左写真:大柴功治撮影)
380t/mの特殊大型ワーゲンを用いて施工ブロック数を削減
側径間は張出部との同時施工で工程短縮
――張出架設について
髙松 張出架設はP1橋脚から架設を開始して、P3橋脚、P2橋脚の順に始める予定です。施工長が短いP1橋脚からは200t/mの標準ワーゲンを用いて、1ブロック2.5~3.5mを10ブロック架設していきます。支間長が長いP2・P3橋脚からは380t/mの特殊大型ワーゲンで、1ブロック3.5~5mを15ブロック架設します。最大ブロック長5mの施工ができる特殊大型ワーゲンを採用することで、当初計画よりもブロック数を減らして工程短縮を図ります。また、中央閉合はワーゲンの一部を吊り支保工として施工することで、吊り支保工設置の工程を省きます。
――桁高は
髙松 最大9m(P2・P3柱頭部)、最小4m(支間中央部)です。
各径間のブロック割図
P1橋脚からの張出架設
P2橋脚(左写真)、P3橋脚(中央・右写真)からの張出架設
急峻な地形のなかで工事が進められている
コンクリート受入時に5台連続で空気量とスランプを測定
水平換算で500mの長距離圧送のため、試験施工を実施
――コンクリートの品質確保のための取り組みは
髙松 コンクリートの品質を均一に保つために、アジテータ・トラックの受入時に通常は1台のところ、5台連続して空気量とスランプの試験を行います。また、主桁側壁は過密鉄筋になっており、コンクリートの充填が難しくなるため、実物大の供試体をつくり、実際に使用する締固め機で打込みをする試験施工を行っています。
主桁側壁打設の試験施工
打込み時の課題はコンクリートの圧送距離が長くなることです。P3橋脚では橋脚下の作業構台からコンクリートを圧送しますので、垂直高が約100m+水平距離が約100mと、水平距離に換算すると圧送距離が約500mになります。施工者は過去にこれほどの長距離圧送をした経験がないことから、試験施工を行って確実な圧送によりコンクリートの品質確保に努めています。
P3橋脚では圧送距離が垂直高約100m+水平距離約100mとなる
養生については、コンクリート温度を自動で計測できる装置を設置して養生期間を決定しています。また、後打ちコンクリート部には表面保護材の塗布、打継部にはひび割れ防止対策として繊維ネットを設置しています。
さらに東北地整全体での取り組みとして、コンクリート表層部の品質を確保するために、施工チェックシートを用いて施工管理をしています。
――コンクリートの強度、混和剤の有無と、長距離圧送時のスランプ値は
髙松 主桁のコンクリート強度は40N/mm2となることから、高性能AE減水剤を使用して単位水量を低減しています。スランプは当初設計では12cmでしたが、試験施工により21cmに変更しています。
――工程短縮、コンクリートの品質確保以外での取り組みや工夫点についてお願いします
髙松 橋脚高が約100mと高くなっていますので、日射の影響等により施工時に橋脚が傾きます。そこで、橋面の高さを自動計測する装置を設置して24時間計測します。橋脚の傾き状況を把握しながら架設し、橋面高さの精度向上を図ります。また、張出床版の先端部まで有効に緊張力が導入できるように施工ブロックごとに補強PC鋼材を配置し、鋼材はPC鋼棒にプレグラウトタイプを採用しています。
将来の維持管理の観点では、大規模地震による外力や骨材収縮などによって緊張力が緩んだ場合に備えて、外ケーブルで補強対策が実施できるように側壁にブラケットを設置する設計にしています。
施工者はテレビ会議システムを使用して現場と本支店をつないで技術支援を受けられる体制を整えていることも特徴のひとつと言えます。これは結果的に、新型コロナ感染拡大防止対策にもなっています。