保全分野を中心とした事業拡大と地方自治体への貢献に取り組む
IHIインフラ建設 森内昭新社長インタビュー
株式会社IHIインフラ建設
代表取締役社長
森内 昭 氏
IHIインフラ建設の新社長に森内昭取締役が昇格した。同社は保全分野の昨年度の売上高が橋梁部門の半分近くを占め、同分野へのシフトが加速している。20年前から保全工事に携わってきた森内新社長が今後、どのような取り組みを進めていくのかを聞いた。
首都高速道路の耐震補強工事や鋼製橋脚隅角部補強工事を手掛ける
対象橋梁数が多い工事で計画の重要性を学ぶ
――大学院では航空宇宙学を専攻されて、石川島播磨重工業(現 IHI)に入社されました。入社の経緯からお願いします。
森内社長 個人的には「大きくて動くもの」がつくりたいという思いがあり、ゼミの先生が石川島播磨重工業出身だったことも縁となり、入社しました。「大きなもの」をつくることにはなりましたが、「動くもの」をつくることは叶えられていません。
――入社後の経歴と印象に残っている業務は
森内 入社後は技術研究所の流体燃焼研究部に配属されて、構造物の耐風部門に所属しました。レインボーブリッジや名港中央大橋、さらに本州四国連絡橋のいくつかの長大橋に携わりました。りんくうゲートタワービル(泉佐野市)や大阪ワールドトレードセンター(現 大阪府咲洲庁舎)などの高層ビルの風洞実験も何件か行った経験があります。
印象に残っていることは、本四公団が土木研究所に大型風洞実験施設を建設しましたが、入社4年目に海洋架橋調査会に出向し、そこで多々羅大橋と来島海峡大橋の実験に携わったことです。
主に多々羅大橋を担当しましたが、地形を入れた模型で実験を行ったことが記憶に残っています。また、多々羅大橋では台風の影響を回避するために架設時期を早めました。しかし、一番危険な最大張出し状態に台風が来てしまい、当時の設計部会長に「ひと晩付き合え」と言われて、オフィスで待機していたことも今となってはいい思い出です。
その後、沈埋トンネルの計画やニューマチックケーソンの鋼殻の設計に従事し、2000年からは橋梁の保全工事を担当しています。その関係で、イスミック(現 IHIインフラ建設)に2007年から2年間在籍しました。
――どのような保全工事を担当していましたか
森内 (1995年に発生した)阪神・淡路大震災後でしたので、首都高速道路の耐震補強工事です。その後は、当時問題になった鋼製橋脚隅角部の疲労損傷に対する補強工事をかなり行っています。
イスミック時代に施工した首都高速道路の鋼製橋脚隅角部補強工事
――イスミックでは
森内 当時の保全工事は工費的にも工期的にも厳しいところがありました。そのなかで、おもに計画や発注者との交渉を担当しました。
――印象に残っている出来事は
森内 石川島播磨重工業時代から手掛けていた鋼製橋脚隅角部補強工事をイスミックでは4工事行いました。設計もしましたが、保全工事の場合、設計だけとはいかないので現場調査や施工の立合いも行って、体力的に大変だった記憶があります。
――当時、条件的に厳しかった保全工事を担当されたことで、現在の仕事に影響を与えていることはありますか
森内 首都高速道路の保全工事を担当してから、仕事のやり方が変わりました。耐震補強工事も隅角部補強工事も首都高速道路さんの場合、1発注で20橋、30橋の工事を行わなければなりません。そのためには、まず様々な施工条件を考慮した全体計画が必要で、そこに時間をかけなければなりませんでした。保全工事を手掛けだした頃は、現場のことは考えず端から順番に行っていけばいいという思いでやっていましたが、全体を見て攻めることを考えるようになりました。
また、保全工事はお客様のものを扱います。ボルトの孔をひとつ開けるにしても、お客様のものですし、供用中であれば車両も走行しています。それに対して、ひとつひとつ慎重に、ミスは許されないということを心掛けるようになりました。もちろん、それは新設でも同じですが、保全工事ではとくに重要と意識しています。
――新設の橋梁設計は
森内 設計で携わったのは、アクアラインの生産設計と地方自治体の橋梁2橋です。
床版取替工事や特殊橋の補強工事で強みを発揮する
地方自治体・地元企業をサポートする仕組みやソフトを検討
――社長としての抱負をお聞かせください
森内 当社は来年度、統合して10年目を迎えます。初代社長の小島治久さんが基盤をつくり、德山貴信前社長が事業を充実させてくれたのと同時に、橋梁部門では新設から保全へとかなりシフトしていただきました。その路線の継続となりますが、さらに保全分野を中心に事業を拡大していきたいと考えています。
現在、当社のお客様は国土交通省や高速道路会社が主流となっています。しかし、保全で一番困っておられるのは地方自治体だと思いますので、どのような貢献ができるのかも考えていきます。
――保全分野のさらなる拡大のためには
森内 高速道路の大規模更新・修繕事業や高難度工事に力を入れていきたいと思っています。当社はPC橋と鋼橋の両方の事業を行っていますので、その利点を十分に発揮して、お客様の意向に応えられる形にしていきます。
たとえば、高難度工事であるトラス橋やアーチ橋といった特殊橋の耐震補強工事や床版取替工事では、お客様と協議をしながら、安全で確実な施工をして、いいものをつくっていきたいと考えています。
――地方自治体への貢献ではどのようなことを考えていますか
森内 地方自治体の保全事業は地元中心で進めていく必要があると考えていますが、特殊橋梁の補修・補強工事は地元企業のみでは難しい部分もあると思います。また、枠組みや仕組みなのか、ソフトウェア的なものになるのかはわかりませんが、地方自治体や地元企業をサポートすることも進めていきたいと考えています。
とくに、地方自治体は限られた予算のなかで多くの保全に取り組んでいかなければなりません。技術者不足といった問題や工期短縮といった課題もあると思います。そこで点検や診断、補修技術などでそういった課題や問題の解決を図れる技術開発を考えています。また、点検結果に基づく補修・補強方法の選定や費用算出をサポートするシステムを検討しています。
――具体的な進め方は
森内 地方自治体に活用して頂けなければ意味がありませんので、お客様と対話をしながら提案をしていく形を考えています。
――社内体制はどのようにするのですか
森内 全国に支店と営業所がありますので、そこを中心に営業活動を行い、店社の技術部隊がバックアップする体制を考えています。お客様と対話を行い、その解決策の立案のためには技術者の増強が必要であり、IHIインフラシステム(IIS)とともに人員の充実を図っていきたいと考えています。
――地方自治体の工事実績は
森内 昨年度、3橋の工事を受注、現在、工事を行っています。うち2件は鳥取県の県道如来原御机線・南大山大橋(橋長125m、下路式鋼アーチ橋)、宮崎県の槙峰大橋(橋長330m、鋼アーチ橋)の上部工耐震補強工事です。もう1件が群馬県の国道254号・16号橋(橋長107m、鋼製方杖ラーメン橋)で、床版取替前の補強工事となります。
南大山大橋
槙峰大橋
16号橋(ISパネルを支持材として採用している)