道路構造物ジャーナルNET

大幅な軽量化により橋梁全体のコストを3~7%縮減

東大・首都高 軽量骨材と膨張材を使った高耐久床版の開発

東京大学
生産技術研究所
所長 教授

岸 利治

公開日:2020.07.29

 東京大学生産技術研究所(岸利治教授)と首都高速道路は、現場汎用性上級床版『松’(プライム)』や最上級プレミアム床版『松』の実装及び研究を進めている。軽量骨材と膨張材による「ケミカルプレストレス」を用いてPC鋼材を用いることなく床版の耐久性を高め、軽量化により橋梁全体のコスト縮減を図っていることが特徴だ。その内容について岸教授と田嶋仁志氏(開発当時、首都高速道路)に聞いた。(井手迫瑞樹)

「松’」 高い汎用性を有する現場対応型の軽量床版
 従来のRC床版比20%位の重量減

 ――先日、当サイトでは首都高速道路の並川賢治氏(執行役員 技術開発総括、技術部、技術コンサルティング部担当)が委員長を務めて上梓した『鋼道路橋 RC 床版更新の設計・施工技術』についてインタビューした記事を書かせていただきました。そこでは岸田政彦さん(開発当時、首都高速道路)も委員を務めていますが、東京大学の岸利治教授(生産技術研究所長)と首都高速道路の田嶋仁志さん(下写真)、岸田政彦さん(当時)、内海和仁さんなどが研究を進めてきた現場汎用性上級床版『松’(プライム)』や最上級プレミアム床版『松』が実装、あるいは実装の近い状況にあると聞いています。前者は既に横浜北線で使われたと聞きますが。これらはどのようなシチュエーション、構造物で使うことを目的として開発しているのか詳細を教えてください

 田嶋 松’は高い汎用性を有する現場対応型の軽量床版です。軽量床版自体は全体で従来のRC床版比20%位の重量減となります。例えば新設の設計からだと下部工や上部工の桁の設計にも重量減によるインパクトが生じます。松’のプロトタイプは既に今言われた横浜北線の新横浜出入口付近で本線やランプを含めて使用しました。基本コンセプトとしては軽量細骨材・粗骨材を使って軽量化を図り、膨張材(20~30㎏/m3)によるケミカルプレストレスを付与し、高耐久化をはかる床版であります。北線で採用する前には、首都高内部で様々な検討をしていました。岸先生や日大の岩城先生等に加え、過去に軽量床版施工を経験したことのある首都高OBの方も参加していただき、そのお知恵を反映して現場に取り入れました。その後、軽量床版の実用化(全国展開)を目指し平成29年度に国交省の研究助成制度に応募して採択されたCART「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」研究(2年間)において松’のさらなる現場汎用化検討と新たに松の開発を進めてきました。


 松は、現時点ではプレキャストを想定した新設床版や既設床版の更新用途に開発を進めています。既設床版の更新においては、1971年(昭和46年)以前の基準で床版厚が薄い個所の床版取替などの更新事業に有効です。また、耐凍害性を確保できる仕様にすることで、寒冷地にも適用できるため、全国展開が可能となっています。膨張材を混和し、さらに鉄筋を上下端だけでなく床版上下方向に縦筋を適切なピッチで配置し、3次元に導入されたケミカルプレストレスを有効に働くよう制御し、PC床版には及びませんが床版厚を薄くしても従来RC床版と同等以上の耐疲労性を持たせました。
 ――ここでいうケミカルプレストレスはどのような手法ですか
 岸 膨張材を混和し、膨張しようとするコンクリートを鉄筋が押さえつけ、その反力としての圧力、すなわち化学的(ケミカル)にプレストレスを導入するものです。
 田嶋 膨張コンクリートは3次元方向に延びようとしますので、鉄筋はそれを拘束することでコンクリート内部に反力が自然と入るようにしています。
 岸 PC鋼材を使った機械的なプレストレスは一軸方向にしか入りません。ケミカルプレストレスは、コンクリート自体の3軸に膨張する力を利用し、それを鉄筋で拘束することによりプレストレスを全ての方向に入るようにします。鉄筋を2次元に配置しておけば主に2次元的にプレストレスは入りますし、3次元的に配置していれば3次元的にケミカルプレストレスは入ります。

低添加タイプの膨張材を使用
 ポンプ圧送条件に苦労

 ――鉄筋に覆われているところはケミカルプレストレスが入り強化されるという話は分かりました。では鉄筋に拘束されていない上下のかぶりコンクリートはどうなりますか
 岸 かぶり部分も鉄筋から5cm程度までの範囲ならプレストレスの効果が出ます。床版のかぶりは4cmなので問題ありません。
 ――投入する膨張材の種類・量は
 田嶋 松’で使用を想定しているのは低添加タイプです。
 岸 膨張材は古くからある材料で、デンカさんと太平洋マテリアルさんが出しています。
 1m3あたり30㎏混和するタイプが長い間標準でした。それを低添加タイプという標準タイプの3分の2の20kg/m3混和するだけでも同じ性能を有するというものをデンカついで太平洋マテリアルが出されて、これを松’に使用しています。一方、松は膨張材の標準混和量を5割増しして使用します。
 松’でも松でも低添加タイプの使用が基本ですが、季節による敏感性なども有しているので、昔からある標準混和量30㎏/m3のものを使いましょうという選択肢も排除していません。
 ――松’は横浜環状北線で用いていますが、その時に苦労したことは
 田嶋 現場で一番大変だったのはポンプ打設です。軽量床版に使う骨材は、もともとポーラスな骨材ですので、ポンプ圧送した時にその圧力で骨材に水が吸収され、スランプが小さくなり管が詰まる可能性がありました。
 首都高では昭和40年代から軽量骨材を使った床版はコストメリットを有しているということで、大々的に使用した例がありました。その時もポンプ圧送ができず、直接打設をしていました。施工性の面からはポンプ圧送ができるほうが良いため、圧送試験を繰り返し、何とかポンプ圧送できる条件を見出しました。さらに圧送性や施工性を確実なものとするための研究も目的の一つとして、冒頭説明したCARTという国交省の助成制度に応募して、国交省や自治体でも使えるような工法を目指して研究を進めました。


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