“気ままな”活動を通してインフラを身近なものに
しゅうニャン橋守隊 今井努発起人インタビュー
しゅうニャン橋守隊
発起人
(所属:周南市役所 建設部 道路課 橋りょう長寿命化推進室)
今井 努 氏
しゅうニャン橋守隊は、インフラの現状に危機感を抱いた今井氏の声掛けから始まった産・官・学・民のメンバーからなり、山口県周南市を拠点に活動している任意団体だ。一般の人にインフラに興味を持ってもらい、その維持管理の重要性を伝えるために、地域の橋の清掃や簡易点検、補修体験を行う「橋守活動」のほか、手作りイベント、勉強会などを行っている。同隊の発起人である今井氏に活動の詳細を聞いた。
管理者の立場になりインフラの現状を知る
産・官・学の7人が発足メンバー、2015年8月に第1回活動
――しゅうニャン橋守隊の発足の経緯から教えてください
今井 鋼橋メーカーに10年間勤めていて、主に設計を担当していました。当時は、定年後のボランティアで「橋守」をやるのかなと漠然と考えていましたが、周南市役所に転職して管理者の立場になってみると、想像以上にインフラが痛んでいる状況を知りました。
この待ったなしの状況に対して何かアクションしなければならないと考えていたときに、市内の高校生から「橋の耐久性」について問い合わせの電話があり、一般の方もインフラ構造物に興味を持つことが分かりました。そこで、「橋を綺麗にするだけでも橋が長持ちするので、ボランティアで橋を掃除してみませんか」と周囲の人に声をかけたのが始まりです。
――声掛けをして発足時のメンバーとなったのは
今井 まずベテランの民間技術者2人に声を掛けてメンバーになってもらいました。さらに、徳山工業高等専門学校(以下、徳山高専)の先生1人と学生1人(学生隊長)、私のほかに周南市職員1人、半年後から参加した山口県職員1人が運営メンバーです。
――いつから活動を始めたのですか
今井 2015年8月4日の「橋の日」に橋の清掃を行ったのが第1回の活動となります。土木技術職以外も含めた周南市職員、徳山高専の先生と学生、質問をしてくれた高校生、民間技術者34人で活動しました。
――具体的にはどのような橋の清掃を行ったのですか
今井 周南市役所の近くに、小さな橋が7橋集まっている地域がありましたので、それらの橋の清掃を実施しました。清掃後には、損傷箇所を探してみるという取り組みも行い、その報告を受けて、道路管理者で対応できる箇所をその日の活動の中で応急補修しました。
清掃実施後、損傷箇所を探した
第1回活動の集合写真/活動の中で行われた応急補修
――しゅうニャン橋守隊という名前の由来は
今井 「強制感なく自由気ままに! でも、やると決めたら素早くやる!」というコンセプトが猫のイメージに重なることと、幅広い世代に愛される可愛らしい名前ということで命名しました。
略称は、猫ありきで徳山高専の学生が考えてくれた「CATS-B」です。“Civilian Activity Team in Shunan for Bridges”で「周南市の橋のための市民活動団体」となり、将来的には「キャッツアイ(CATS-I)」になることを目指しています。”アイ“はインフラの”I“であり”愛“です。
――今井さんは現在も発起人として活動に関わり続けていますが、ほかの発足メンバーの方も同様ですか
今井 発足メンバーは基本的には変わっていません。民間技術者で隊長に立っていただいた貞升孝昭さんは他界されてしまいましたが、もう1人の西本忠章さんは周南市の建設コンサルタント会社から山口市の株式会社山口建設コンサルタントに転職されましたが、今も主体的に活動に携わってくれています。さらに、徳山高専の鋼構造研究室の海田辰将准教授(現・教授)と山口県職員の中越亮太さん、周南市職員の岡本知也さん、徳山高専の学生隊長1人の6人で運営を行っています。学生隊長は毎年、徳山高専生の中から選ばれています(初代学生隊長の小山諒子さんは、卒業後、宇部興産機械株式会社に就職)。
発足メンバーは今井氏を加えて7人。他界した貞升氏と初代学生隊長以外は、現在もメンバーとして運営に携わっている
――山口県職員の中越さんはどのような立場で運営に携わっているのですか
今井 県の事業としてではなく、活動に共感して参加してくれ、県の施設で活動するときに、施設管理者との調整のパイプ役になってくれるので助かっています。土木インフラに対するボランティア活動は、施設管理者が安全を最優先するあまり、結果として活動しづらくなる側面もあります。当然、安全は最優先事項です。橋守隊ではボランティア保険に加入し、インフラ維持管理を生業とする人たちで安全監視しながら活動します。また、施設管理者の心配事を理解する行政職員が参加することは、活動を円滑に進める潤滑油となりますが、参加する行政職員にとっても住民協働を体験できるだけでなく、住民の声を聴いたり声を届けることができる貴重な機会となります。
延べ600人近くの人が活動に参加
橋守活動(清掃活動や簡単な点検)を通してインフラに興味を
――活動の頻度は。また、どのような準備を運営メンバーでしているのでしょうか
今井 いつ行うという予定は決めていません。それが自由気ままにということになりますが、思い立った時に年3、4回くらい活動ができたらいいと思っています。広報的な啓発活動も行っていますので、それを含めて2カ月に1回程度、何かしらの活動をしたいなと考えているくらいです。
現在までに延べ600人近くの人が橋守活動に参加してくれています。啓発活動は、各種定例イベントに参加する形で実施することが多いので、開催時期はほぼ決まっています。前回の実績を参考にして、私が企画案を作成し、メンバーにメールを送って意見集約しています。それぞれ所属が違いますので、なかなか集まって検討する機会が持てません。
――橋守隊の活動では、産・官・学・民それぞれが集まっています。そこに期待することは
今井 それぞれの悩みとして、行政では合理的に安心・安全を確保したいが財政難と人手出不足の問題を抱えています。民間では次世代技術者の確保や自分の経験で社会貢献したいが、知る・知られる機会が少ないジレンマがあります。学校では学生へ実践の魅力を伝えたいが、現場経験や実務に触れる機会が少ない、地域住民は元気で活力のある地域にしたいが方法が分からない、といったものがあります。
橋守隊は専門家集団でもなければ素人のボランティア集団でもないところが特徴と言えます。さまざまな立場の方がその枠を越えて集まって、同じ目標に向かって活動することで、お互いが良い刺激を受けて、それぞれの悩みを解消することを期待しています。
――まさに地方自治体では構造物の維持管理において財政面と人手不足が課題になっていますが、周南市の現状と行政から見て橋守隊の活動に期待することは
今井 周南市では約800橋を管理していて、そのうちの約2割が早期措置段階(健全度Ⅲ)となっています。同じⅢ判定でも短期間でⅢ判定となった橋梁と長い時間をかけてⅢ判定になった橋梁では症状が違います。管理者が優先順位をつけながら、臨機応変に判断して対策を講じていかないと立ち回らなくなると思います。その結果、措置待ちの橋梁が発生することになりますが、それらを順番待ち・延命化させるためにこの活動は重要だと考えています。
橋守隊の活動は、最低限の清掃活動や簡単な点検など、誰でも活躍できるような活動にしています。それらを幅広くたくさんの人たちが経験することで、身近なインフラに興味・愛着をもってもらうことも重要だと考えています。実際に、活動終了後には違う構造物の損傷箇所を市に報告してくれるケースもあり、ありがたいことだと思っています。
厳しい時代ですので、維持管理の取捨選択が求められています。一方で、総論賛成・各論反対といった住民の気持ちも理解できます。理想論かもしれませんが、地域の方に活動を通してインフラの現状とそのメンテナンスの重要性が伝われば、建設的な議論も可能になると考えますので、そのためにも地道に活動を行っていきたいと考えています。
また、週末の家族で楽しめる体験型アクティビティという側面もあることから、家族連れで子供の参加者が多いのも特徴です。将来、土木業界に進んでくれる人が現れることも期待しています。