GAFAに負けないインフラAIを作る
ジャパン・インフラ・ウェイマーク 柴田社長インタビュー
株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク
代表取締役社長 CEO
柴田 巧 氏
ジャパン・インフラ・ウェイマークは、NTTで保全業務に携わっていた柴田巧氏が、関係各社の同意を得て昨年4月に創業した。26都道府県でおもに橋梁、鉄塔、のり面を中心にドローンを用いたインフラ点検サービスを展開し、高齢化する技術者を支えるスクリーニングを行う会社として、なくてはならないものになりつつある。ドローンというハードだけではなく、GAFAに負けないインフラAI造りを目指す同社の設立経緯と、現状、今後の技術及び事業展開について、柴田社長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
NTTグループだけで年間1万箇所の橋梁添架管を点検
点検ノウハウは、土木や電気、通信、水道の分野で共通提供できる
――会社設立の目的と現在までの実績を教えてください。また、御社はNTT西日本グループで同グループのインフラ関連業務ならば理解できるのですが、なぜ土木構造物の維持管理業務を行おうとしているのでしょうか
柴田社長 2019年4月1日の設立から1年が経過して、26都道府県でおもに橋梁、鉄塔、のり面を中心にインフラ点検サービスを展開しています。NTTはITやAIを前面に出していますが、100万人にいると言われる社員の大半は現場で作業をしている技術者であり、インフラ点検サービスは我々が持つ設備管理ノウハウで展開できる領域であると考えています。
NTT西日本では、橋梁に添架させていただいている管路が約3万橋あります。NTT東日本を含めれば5万橋以上となり、それらの点検業務を行っています。橋梁に添架している管路であっても、道路管理者の方々に5年に1回提出する占用許可には、行政の橋梁点検要領に基づき同等の点検を行うとありますので、我々も管理者と同じような点検をしているわけです。構造物を点検しているというノウハウは、土木や電気、通信、水道の分野で共通して提供できる価値であると考えています。
さらに、NTT社員が高齢化で減少していて、2021年には業務量を維持できなくなるというデータがあります。そのための対策として、生産性向上を図る新技術の導入に尽力してきましたが、調査をしてみますと電力もガスも水道も、そして自治体も、つまり日本全体が同じような状況になっているとわかりました。社会課題の解決に貢献できる素晴らしいテーマをいただいたと思い、NTTグループの維持管理という枠からでて出て、一般のお客様への展開をめざすこととしました。
事業展開にあたって賛同を得られたのが、各事業者が共同で行うAIの強化と保全という大きなテーマでした。橋梁の添架管路は電力、通信、水道、ガスすべて設置されています。管理者まで入れると5事業者で、毎年あるいは5年に1回、同じ橋梁を橋梁点検車などで点検しています。これほど非合理的なことはありません。ドローンでデータを取って事業者間で共有できれば、現場に派遣するコストは5分の1になります。
――通信や電力、ガスなどの添架管路のドローンでの点検に加えて、橋梁自体の点検も行うわけですね
柴田 そうです。点検したデータをオンラインによって事業者で共有できればAIをつくるスピードは非常に早くなります。
NTTは、東日本と西日本の2社で全国をカバーしていますから、日本で一番設備を持っている事業者かもしれません。電力会社は10社なので、10分の1の設備です。ゆえに電力会社が単独でAIを強化しようとすれば、おのずと半比例倍だけ手間がかかります。
関係する事業者が出資して、全員で「ジャパン」という枠組みでデータベースをつくり、インフラを守っていくことを提案して賛同してもらい、各社が出資するジャパン・インフラ・ウェイマークを設立しました。
すべてのインフラ事業者が関わるドローンの点検とAI会社として、世界でもさきがけとなる会社にしていきたいと考えています。
――出資するインフラ事業者は
柴田 電力、ガス、通信、プラントエンジニアリングの会社になります。
――高速道路会社や鉄道会社はいかがですか
柴田 現在、議論をしています。道路橋の点検では大手のコンサルタント会社が大きな役割を果たしていますし、ゼネコンもメンテナンスを担当している場合がありますので、そのような会社や鉄道会社にお声がけをしています。今後、50社、100社と増えていく際の大きなプレイヤーになると思っています。
――NTT内の業務も御社で行っていて、さらにほかのインフラ事業者にも声をかけているわけですね。26都道府県での業務展開のなかで、添架管路に加えて道路橋や鉄道橋自体の点検を行っているケースはありますか
柴田 ありますが、ほとんど発表していません。管理者様などが発表したら、当社からも発表することになっています。
――点検の実績は
柴田 NTTグループだけで500橋以上の点検には携わっており、そのほかにも多くの実績があります。
――社員数は
柴田 社員は28人で、外部委託している方が12人います。
「絶対ぶつからない」小型ドローンを所有
GPSを使わず50㎝の至近距離で撮影可能
――保有するおもな技術と、現在のドローンやAIと比較してどのような優位性があるのか教えてください。まず、ハードからお願いします
柴田 ハード、ソフト、ノウハウで優位性を分けています。
ハードでは、世界で唯一、絶対にぶつからない小型のドローンを所有しています。5mm以上の物体ならば認識して避けることができますので、例えば、のり面に茂っている草の葉も障害となりません。橋梁でもトラス構造や横構があるところでも問題ありませんし、補強材がある鉄塔の空間内に入っていけます。
携帯のタッチパネルで操縦できる/点検作業中
狭隘な個所でもこのようにドローンで撮影できる
ドローンはアメリカの会社と共同開発をして、このような性能のものは、世界で当社しか持っていません。また、日本と東南アジアでは当社が独占的に提供するという契約を締結しています。
当社はインフラを支える人のための道具をつくる会社ですので、さまざまな方と提携をさせていただいて、共同でビジネスを行っていきたいと考えています。
――NTT時代には独自で開発も行っていたのですか
柴田 現在の点検ドローンの開発という点では約3年になります。しかし、それ以外の用途では、NTTグループでは2011年の東日本大震災のときに中継ケーブルが切れて、その早期復旧のために中継ケーブルを捲くドラムを搭載するドローンを開発しています。ドローンという言葉が普及する前に、全国に配備した唯一の事業者ですので、ドローンのことは我々が一番よく知っています。
――現在では鋼橋架設のリードロープを張るときにドローンで行っていますね。10年前にできなかったことが簡単にできるようになっています。のり面も斜面ぎりぎりまで近づいて撮影できるのですか
柴田 50cmまで近づいて撮影できます。経路を入力すると、自動的に枝なども避けていきます。
――ドローンはGPSで制御しているのですか
柴田 GPSは使用していません。人間と同じようなインテリジェンス機能が搭載されていて、障害がわかります。センサーカメラは180度のものが6個ついているので、人間の目以上の正確さで飛行します。
――橋梁の陰に隠れたらロストするドローンもありました
柴田 そのような課題を継続して研究してきました。そして、アメリカの会社のドローンを見つけて、改良したものが現在のドローンです。
――ロストすることはあるのですか
柴田 無線が届く限り、ロストすることは考えられません。
――無線の届く距離は
柴田 Wi-Fiの電波が届く距離となります。直線距離では約200mですが、電波が弱くなりますので、市街地などを考慮し、平均的に対応できる距離としては約100mです。
――それはWi-Fiの基地局をつくれば、ということですか
柴田 そうではなくて、ドローンに搭載したスマホと通信しているだけです。
――操縦者は動きながら操縦するのですか
柴田 動く必要はありません。
GAFAに負けないインフラAIを作る!
2、3年後には確実に熟練点検技術者に代わるAIにする
――次にソフトについては。土木研究所では橋梁の損傷診断AIをつくっています。ディープラングでは説明ができないから、説明ができるAIとしてエキスパートシステムを使っていると聞いています
柴田 まず、点検レポートのことからお話します。当社では、点検レポートを書類でお客様に納めていますが、ウェブでも納めています。そのウェブはアイデアにあふれているもので、2025年のBIM/CIMの本格導入に向けて、いいアイデアを提示していると思います。普及活動を一生懸命行っていますが、あまり競争力があるとは言えません。なぜならこれまでの商習慣により紙レポートの需要がまだまだ高いからです。
次にAIですが、一管理者として日本で一番設備を持っているのがNTTであると先ほどお話しました。その膨大なデータがすべて当社に入ってきていて、それでAIの教育をしています。
アメリカのGAFAがインフラAIに進出しようとしたら、日本の25倍の面積があり、そこに日本と同じくらいの数の橋梁しかありません。それでは日本と比べて25倍のコストがかかります。つまり、我々は25倍の生産性で、同様のデータ量をNTTからもらっていますので、GAFAを凌ぐようなインフラAIができると思います。
すでに90%の橋梁添架管路の錆を見つけられるところまで研究開発は進んでいます。我々の先輩である熟練した点検技術者の方に人間の目での評価を数多く行ってもらっていますが、そのデータをコンピュータに入れればすべて覚えていきます。今後もそのようなデータをさらに入れて、2、3年後には確実に熟練点検技術者に代わるAIにしていきます。
――どのようなAIをつくっているのですか
柴田 ディープラーニングによるものです。特許に関わる部分がありますが、点検対象物を認識するAI、認識後に点検対象部位を選別するAI、最後は部位に対する変状の有無を見つけるAIの3つに分かれています。
健全度判定については現段階で行う必要があるのかな、と思っています。ある構造物では構造上の問題でここにたくさん変状が出ている、と点検技術者は判断しています。そのようなものをアシストするAIをまずつくっていく必要があります。テストで100点を取るのが学校の勉強じゃなくて、社会に役立つのが学校の勉強だと考えています。
――スクリーニングをするということですね
柴田 そうです。損傷しそうな箇所を管理者の方に早く教えてあげるというアプローチで行っています。