道路構造物ジャーナルNET

ロッキングピア対策は今年度に概成

2020年新春インタビュー NEXCO中日本 大規模更新・長大橋耐震が進む

中日本高速道路株式会社
取締役常務執行役員
保全企画本部長

源島 良一

公開日:2020.01.01

大規模更新 安定的な発注を模索
 重交通路線は車線数を維持しながら複数断面取替方式で

 ――大規模更新も3社あるいは阪神高速、首都高速も行っていくため、今後は不落不調が起きかねません
 源島 それは懸念しています。現在は橋梁ファブによる施工が主ですが、最近はゼネコンの皆様も入ってきておられますので、なるべく幅広い業態の皆様に参加していただけたらと思っています。新設の事業は非常に波があるのに対して、リニューアルプロジェクトは、安定的に10年ぐらい発注されるわけです。先日も日建連との意見交換会で「各社の安定的な受注計画を考えた時に一つの選択肢として、考えていただけないでしょうか?」と提案させていただきました。
 ――中日本高速道路、取り分け東名は、通常の床版取替のやり方では社会的コストが大きいと思います。現在、西日本高速道路の中国道の交通過密箇所において、桁ごと取り替えるという事も検討されていますが、東名などでそうした対応は行わないのでしょか
 源島 それは、その橋の損傷度合いとのバランスだと思います。疲労亀裂が多く出ていたり、あるいはPC桁で塩害が酷かったりして、架け替えた方が合理的な場合は、そういう選択肢はありだと思います。
 ――では交通渋滞箇所の規制対策はどのように考えていきますか
 源島 特に重交通路線が多い当社の管内では、①工事規制における工事中の安全性確保と、②お客様への影響を最小化する取組みが特に重要です。規制の仕方の工夫、工期の短期化、迂回していただく利用者の負担を軽くするため、(迂回路を通るため走行距離が増えても目的地までの)料金を同額にするなど、工夫しながら事業に臨んでいます。
 もっとも現在までは、交通量が非常に多い箇所では床版取替などの大規模更新を行っていないものですから何とかなっています。但し、今後大都市に近い箇所の床版取替を行っていくわけで、施工条件の厳しさが各段に上がっていくことは覚悟しています。その場合は、ある程度車線数を確保して施工していかないと、現実問題としてできないだろうと感じています。
 ――半断面あるいは複数断面による方式で床版取替を施工していくという事ですね
 源島 そうです。幅員が少し狭くなっても車線数は規制前と変わらないようにして運用しながら、少しずつ床版を取替える手法を採用していくことになろうかと思います。一番望ましいのは首都高横羽線のような代替路線を造ることですが、東名ではスペースの関係で難しいのです。ただ調布IC付近の大規模更新事業では同様の手法を採用しています。


例えば東名高速道路 多摩川橋

調布ICでの工夫①とそれに使ったPABRIS(右写真:大柴功治撮影)

調布ICでの工夫②

 ――工期の短縮技術という点で具体的な手法は
 源島 現在、全体的には、プレキャスト床版を設置したあとの間詰工について手間がかかるので、その施工をコンパクト化する技術について各社とも取組まれています。最近は間詰部をなくしてPCで縦締めしてしまうやり方も出てきています。間詰部という弱点がなくなる反面、プレキャストパネルの重量が重くなるため、運送する際や設計施工する際は注意が必要です。また、従来は壁高欄が場所打ちだったケースが多かったのですが、壁高欄のプレキャスト化はもちろん、壁高欄のみのプレキャスト化ではなく、床版と一体化した形のプレキャスト化を行うケースも出てきています。リニューアルプロジェクトに関しては、今年度で丸5年が経過するものですから、今まで施工した技術を一度集大成して現場に役立てるものを作成できたら良いなと考えています。


間詰部を短くする様々な継手工法(井手迫瑞樹撮影)

間詰部をなくしてPCで縦締めしてしまうやり方も

プレキャストRC壁高欄

キャップスラブ(井手迫瑞樹撮影)

 ――中央道の岡谷高架橋では、主ケーブルの損傷したPC合成桁についてリニューアルする工事も進めているようですね
 源島 岡谷高架橋(橋長594m、5径間連続PC箱桁橋)はグラウトの充填が上手くいっておらず凍結防止剤による影響を受けて、PC鋼棒の一部が断線していると見られています。現在は詳細調査を行っており、今後補強など対策工を検討していきます。



岡谷高架橋

 ――中央道の岡谷付近はこうした橋が多いですね
 源島 当時、いかにコストを下げて橋梁などの構造物を造ろうとしたか、先人の苦心の跡が見られる現場であると考えています。
 ――中央道では、以前に当社で取材した沢底川橋(PC3径間連続合成I桁)などでは合成桁の外ケーブルと床版増厚の併用により補強しました。鋼トラス橋も含め、今後対策が複雑な橋梁もありそうですね
 源島 鋼トラスの耐震補強やリニューアルはなかなか落札していただけない状況です。何とか取っていただけるよう当社としても努力していきたいと考えています。

ロードジッパーを今後も活用
 ドライブコンパスで渋滞予測を加味した情報を伝達

 ――ロードジッパーの活用は
 源島 工事中の安全確保という点では、東名の赤渕川橋などで実績のあるロードジッパーを今後も使用していきます。お客様への影響を最小限化する取組みでは、十分な渋滞予測と施工計画を立てて、専用特設サイトや各種広報チャネルにより、お客様へ情報提供を行いながらネットワークを活用した迂回を呼び掛けていくことを基本とします。当社ではホームページ上に高速道路料金とルート検索ができる『ドライブコンパス』というサービスを立ち上げていますが、その中で、工事による渋滞予測を加味したデータをお客様に伝えることができるようにしています。



ロードジッパーの活用(赤渕川橋)(上段は大柴功治撮影)

 また、テレビCMも積極的に活用し、一般利用者の方々にリニューアル工事について知っていただく努力や個々の事業の詳細を伝える2段階の広報も実践しています。

床版防水 基本はグレードⅡ
 鈍感で性能の良い床版防水が欲しい

 ――床版防水は
 源島 基本はグレードⅡです。施工に手間がかかるので、その改善が課題だと考えています。


床版防水は基本的にグレードⅡで施工

PCグラウト充填不足 岡谷高架橋でPC鋼棒が破断
 新酒匂川橋で広帯域超音波法を用いてグラウト充填状況を確認

 ――PC橋のグラウト充填不良について、どの程度把握していますか
 源島 全数把握には至ってませんが、起きやすい構造は把握しています。これまで主ケーブルにPC鋼材を使用して上面定着している橋を優先してグラウト充填調査を実施しています。損傷個所としては先ほど述べた長野道の岡谷高架橋でグラウト充填不足のPC鋼棒が破断していることを確認しています。また、東名の新酒匂川橋などで、広帯域超音波法による非破壊検査でグラウト充填不良を確認しています。現在はグラウトを再注入するための設計を実施中です。


広帯域超音波法による非破壊検査でグラウト充填不良を確認(読者提供)

 ――グラウト再充填工法としてはどのような手法を想定していますか
 源島 安全かつ効率的にPCグラウトの再注入が行える工法としては、当社とオリエンタル白石で共同開発したPC-Rev工法があります。
 PC構造物の長期間の耐久性を確保するためには、①削孔時に既設のコンクリート中のPC鋼材や鉄筋を損傷させない、②削孔時に既設のコンクリートやシース管に過大な断面欠損を与えない、③空隙量を精度良く推定し、確実にPCグラウトを注入することができる、という性能を満足させなければなりませんが、PC-Rev工法はそれらの性能を満たしています。


PC-Rev工法

 ――同工法の具体的な特徴は
 源島 削孔時にドリルの先端が鋼材に接触しても、電流計や金属センサで検知して制御システムにより削孔を自動停止できます。また、専用工具を用いることでφ15.5mmと従来に比べ飛躍的に小さい削孔径を実現し、その径で調査も注入もできます。グラウト再充填施工時は、減圧用機の圧力変化を利用して、シース管内部の空隙量を精度良く推定できるため、材料ロスを少なくすることが可能です。
 ――東日本高速道路の北陸道の万蔵川橋では、柱頭部の鉛直PC鋼棒が破断する損傷が発生しました。以前に応急対策としてPC鋼棒突出防止工を施工していたことや、損傷部が路肩であったため事なきを得ましたが、こうした損傷は今後も考えられますか
 源島 当社管内では岡谷高架橋でPC鋼棒突出防止工を施工しています。同橋は施工技術提案型で対策に臨んでおり、どのようにすれば部分的、暫定的な補修ではなく、抜本的に補修できるのか調査検討を行っています。ウエブ高は最大(支点部)で10m程度に達します。架設方法は方持ち架設です。
 ――損傷状況は
 源島 顕在化しているのは鉛直PC鋼棒は少ない状況ですが、他の鉛直材も損傷ていないとは言えません。そのため、先述の通り調査から行っています。当社の方から標準工法を提示できないため、施工技術提案型と長い工期という契約方式を取っています。
 ――中日本高速道路全体では、どの程度のPCグラウト充填不足や、PC鋼材の破断があるのでしょうか
 源島 現在までに15橋で確認されています。構造的にはPCケーブルの方が腐食や破断の影響は怖いと考えています。ケーブルの場合は、1本やられたら一気に大きな損傷を招く可能性があります。
 ――主ケーブルが損傷した橋についてはフェールセーフもかねて外ケーブルで補強することは考えないのですか
 源島 状況によります。塩害などで手の施しようのない大規模な橋については、そうした補強を行うよりは架替えたほうが良いという選択肢も出てくると思います。また、外ケーブル補強は、規模の小さい橋であれば(追加するプレストレス量も小さいため)踏み切りやすいと思いますが、長大橋とりわけラーメン構造の橋に適用する際には、相当かかる力を検討して設置しなくてはならないと思います。
 ――こうしたプレストレスロスの量を測る方法は
 源島 実荷重載荷も一つの方法だと思いますが、設計上は構造としては考えていない壁高欄が剛度の面で案外効いてきますので、工夫する必要があると思います。

ロッキングピア 2019年度内に落橋防止化は完了
 ロッカーピアは個別対応

 ――長大特殊橋およびロッキングピアの耐震補強進捗状況は
 源島 ロッキングピアの対策必要な橋梁は119橋(自治体管理のものを含まず)です。OVが約30橋で、全部で約150橋が対象となっています。まずは落橋させない構造にすることを優先に補強を行っており、2019年度末までの完了を目指し工事を進めています。



 ロッキングピアの補強例

 ――西日本高速道路が対策を始めたロッカーピアの耐震補強については
 源島 中日本高速道路管内で、ロッカーピアは少なく、ほんの数橋です。そのため個別に補強していく予定です。

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