大切畑大橋 ジャッキ50基を使用して上部工を移動
――俵山トンネルルートとしては最後の復旧となった大切畑大橋は
大榎 橋長265.4mの鋼5径間連続非合成鈑桁橋となります。上部工全体に最大で約1.1mの横ずれが生じるとともに、主桁の座屈、床版のひび割れ、支承の損傷、橋脚ではおもにP2に損傷が発生しました。
横ずれに対しては、桁と床版など全体で約4,000tとなる上部工をジャッキアップして元の位置に戻しています。
大切畑大橋の被災状況と復旧計画
――桁受けベントを設置した位置と使用ジャッキは
大榎 ベントはすべて橋台と橋脚の位置に構築しました。下に河川などがある箇所もあり、ベント構造や設置位置の決定に非常に苦労しました。下から構築できない箇所ではブラケット方式で対応しています。
ジャッキは200~300tのものを全部で50基用いています。
――約4,000tの上部工を移動させるのは大変だったと思いますが
大榎 横ずれをしていますので、一様に上げていかないとなりませんでした。約140ステップのストローク分割でのジャッキアップを行い、ジャッキアップ量は最大で約2m(A1橋台(B1ベント)G2桁)になりました。
桁受けベントの構築
約140ステップのストローク分割でのジャッキアップを行った
――主桁の座屈に対しては
大榎 P1~P2間とP3~P4間で主桁の座屈が発生しました。ここでも、桑鶴大橋と同様に事前解析と施工時のモニタリング技術を活用して、追加主桁による復旧を行っています。P1~P2間では座屈した主桁の変形矯正などが難しく、地震後の残留応力が不明であったため、座屈主桁の撤去を行った場合に他の部位に変形を生じる可能性がありました。そのため、座屈した主桁を撤去せずに残置させたまま、追加主桁を設置することで応力を分担させる復旧方法としました。P3~P4間は当て板補強を行っています。
追加主桁の設置
――支承やP2の復旧では
大榎 支承はすべて取替えを行いました。P2下部工については、増杭と底版拡幅、増厚による補強をしています。
2019年11月末時点の大切畑大橋(大柴功治撮影)
――今後、俵山トンネルルートを県が管理するにあたり、維持管理のうえで工夫された点はありますか
大榎 まずは復旧することを第一に考えました。もちろん維持管理も大事ですので、これまでの施工の記録やモニタリングの結果を維持管理に生かせるようにとりまとめを行っているところです。
大切畑大橋・桑鶴大橋・俵山大橋の設計・施工会社
――最後に、村道栃の木~立野線(長陽大橋ルート)の復旧状況について教えてください
大榎 長陽大橋ルートは、南阿蘇村中心部と同村立野地区を結ぶ延長約3kmの村道で、地域の生活道路であるとともに、国道325号阿蘇大橋の代替路として阿蘇観光の玄関口としての役割を担っており、一日も早い復旧が望まれていました。
阿蘇長陽大橋では、沈下した橋台を、線形を見直した上で耐震性に優れる5径間連続ラーメン構造で再構築を行いました。また、上部工と橋脚については炭素繊維補修を行うとともに、貫通ひび割れが生じた中空断面橋脚はコンクリート充填により断面充実化を図りました。
戸下大橋については損傷した桁の架替えを行い、傾斜した橋脚は増杭をして、既設橋脚と一体化させて復旧を行いました。そのほか、崩落した斜面の対策を行うとともに、斜面崩壊の影響を受けにくいように道路線形を見直し、2017年8月27日に応急復旧を完了して開通しました。
戸下大橋。仮復旧のため山側に拡幅(左)/崩落斜面の対策(右)(井手迫瑞樹撮影)
復旧後の阿蘇長陽大橋(手前側)と戸下大橋(奥側)
現在は、恒久復旧に向けて、栃の木側の下部斜面対策や上部斜面の法面緑化工事、一部仮橋区間の架替えなどの事業を進めています。
――ありがとうございました
(2020年1月1日掲載 聞き手=大柴功治)