俵山トンネルルートは2019年9月に全線復旧
桑鶴大橋 シミュレーションとモニタリングを活用して復旧
――県道熊本高森線(俵山トンネルルート)は
大榎 熊本県からの要請を受けて、大規模災害復興法に基づく国の権限代行事業として、延長約10kmの災害復旧を進めてきました。大きな被災を受けた構造物は、2つのトンネルと6つの橋梁です。
これまでの災害復旧の取り組みにより、被災から8ヶ月後の2016年12月24日には復旧が完了した俵山トンネル(延長2,057m)、南阿蘇トンネル(延長757m)と一部旧道を活用して開通しました。
2017年12月14日には復旧完了した扇の坂橋(橋長128m、鋼3径間連続鈑桁橋)、すすきの原橋(橋長43m、ポストテンション方式PC単純T桁橋)および俵山大橋の仮橋(SqCピア工法採用)による鳥子地区の開通、2018年7月20日には復旧完了した桑鶴大橋の開通、2019年8月3日には復旧完了した俵山大橋の開通と、復旧事業の進捗に合わせて段階的に開通を行ってきました。
俵山大橋はまず仮橋での復旧を行った
2019年9月14日に、最後の不通区間であった大切畑大橋の復旧が完了したことにより、俵山トンネルルート全線で被災前のルートでの通行が再開しました。
俵山トンネルルート全線開通式典
――主要な橋梁について、被災状況と復旧方法を教えてください。桑鶴大橋は
大榎 橋長160mの鋼2径間連続斜張橋で、支間長が99.4m(A1~P1)+59.4m(P1~A2)と不等径間になっているのが特徴です。平面線形はR=350mの曲線橋で、X型の主塔を有しています。不等径間のためA1~P1側の重量が大きく、死荷重が作用する状況では常時A2側の支承に上向きの力が働いていました。
上部工の被災状況としては、P1橋脚上で99cm、A2橋台上で85cmの下部工との相対差である平面ズレが確認され、A1橋台を支点とした反時計回りの回転が生じていました。また鉛直方向にもA1-P1径間で最大40cmのたわみが発生し、A2橋台部では平面曲線外側となる谷側では64cm、山側では39cmの浮き上がりが生じていました。概略的な挙動としては、まず地震の影響を受け支承が破断したことによりA2側の桁端部が浮き上がり、更には桁の横移動も発生し、これにより斜ケーブルのたわみや各支承の連結部の損傷、桁との衝突による胸壁・変位制限装置の損傷が発生したと想定されています。
桑鶴大橋の被災状況
特殊な構造をした斜張橋の復旧であり、既設道路橋の斜張橋としてケーブル交換を行うのは、鋼道路橋では国内初の事例となることから、設計や施工方法に関する知見は少なく不確実性も潜在しました。よって、不確実性を補完するため、立体的なシミュレーション(骨組解析)により、被災前の状況から復旧完了に至るまで、各施工プロセスで部材の応力状態を予測するとともに、現場においても施工の各段階でモニタリングを行って、想定通りの応力がかかっているかを確認しながら施工を行いました。
その他、復旧にあたっての大きな特徴は、A2橋台の支承部構造について水平力の支持機能と鉛直負反力の支持機能を独立して確保できる構造としたことです。今回の被害はA2橋台側の支承が鉛直支持および水平支持機能を併せ持っていたため、支承の破断が起因となり、連鎖的に損傷が拡大したと想定されます。そこで復旧に当たっては、水平力と鉛直正反力に抵抗する「支承」を設置した上で、浮き上がりの鉛直負反力に抵抗する「負反力対策工」として橋台と桁を4本のPCケーブルで連結しました。さらに、万一これらの部材が破壊しても、桁端部が容易に浮き上がらないように、別系統の「上揚力対策工」をフェールセーフ機能として設置しています。
A2橋台 支承部の復旧概要
復旧後の支承部。右写真の右側が別系統の「上揚力対策工」
――ケーブルのよれの復旧は
大榎 4段(16本)のうち上2段(8本)の交換を行いました。ケーブル直下にベントを建てて、施工していきましたが、その際にもシミュレーションとモニタリングを活用しています。
そのほか、上部工の横ずれは桁受けベントの設置により対応し、下部工ではA1、P1の増杭補強を行っています。
道路橋の斜張橋でこれだけの被災を受けた事例はおそらくないと思いますので、特殊な橋梁への復旧事例としては貴重なものだと思います。
ケーブル交換作業
2019年11月末時点の桑鶴大橋(大柴功治撮影)
俵山大橋 上部工架替えをケーブルクレーン(直吊り)工法で実施
――俵山大橋は
大榎 俵山大橋の場合は、橋梁周辺の地盤が大きく北東方向へ移動しました。移動量が最も大きいA1橋台では約2.6m、最も小さいA2橋台では約0.9mでした。
橋台周辺の地山が緩んでしまい、橋台自体が動いてしまっている状態でしたので、今後同様の地盤変状が生じても影響の受けにくい堅固な地盤まで橋台をセットバックしました。A1橋台が既設橋台よりも19m、A2が6m後方での再構築となりました。橋脚については調査した結果、増厚や増杭で補強しました。
俵山大橋の被災状況
復旧概要
上部工は橋台に衝突したことにより座屈をしており、橋台を後方に再構築することで支間長も長くなるため、架替えを行いました。俵山トンネルルートで被災した6橋のうち、唯一架替えを行った橋梁です。
――上部工形式と既設および架替え後の橋長は
大榎 鋼3径間連続非合成鈑桁橋で、橋長は復旧前140m、復旧後165mです。ケーブルクレーン(直吊り)工法により架設を行いました。
――上部工の架設開始および完了時期は
大榎 2018年9月から開始し、11月には架設完了しています。
――ケーブルクレーン工法を採用した理由は
大榎 深い谷間であり、ベントが不要な工法として採用しています。
――架設設備について教えてください
大榎 A1側、A2側ともに約38mの鉄塔を配置して、ケーブルクレーンを設置しました。ケーブルクレーン鉄塔間長は195m、バックステイは最大約35mです。
俵山大橋(新橋)架設基本計画図
架設状況
2019年11月末時点の俵山大橋(大柴功治撮影)