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見たくないものも見る 土研 西川和廣理事長インタビュー

2020年新春インタビュー 平成の橋を回顧し、令和時代に診断AIを目指す

国立研究開発法人土木研究所
理事長

西川 和廣

公開日:2020.01.01

オープンボックスとスレンダーボックスを並行して開発、導入
 福岡高速5号線は溶射も全面採用

 ――私が最初に西川さんに取材したのは、福岡高速5号線の溶射の採用とオープンボックス(開断面箱桁)についてでした。あの時は福岡北九州高速道路公社福岡事務所に吉崎(信之)さんがいました
 西川 吉崎さんは私の言う事をよく理解してくれました。

 
開断面箱桁(日本橋梁建設協会『新しい鋼橋の誕生』より抜粋)

――オープンボックス+合成床版が印象に残っています
 西川 コンクリート桁にコスト面で負けないようにしたい、という命題があってあの形式が生まれました。当時、日本道路公団に高橋昭一さんという面白い人材がいて、「鋼橋が高いのは工場で製作する期間が長いからだ。早く工場から出して現場で箱に組もう」という発想を提唱されていました。そうすると積算上すごく安くなるわけです。技術的にも全然難しくない。保全面でも実質的に塗装の塗替えが不要になることを目指して溶射を全面採用しました。


福岡高速5号線のオープンボックス。溶射も採用した

オープンボックスの施工状況(福岡北九州高速道路公社提供)

溶射施工状況(福岡北九州高速道路公社提供)

 ――現在はオープンボックスではなくスレンダーボックス+合成床版が主流となっていますが、この変遷は
 西川 同時期に並行して研究が進んでいました。JHなどの委嘱もあって新しい鋼橋形式の提案に関する委員長を務めたのですが、そこで橋建協の若手・中堅を委員にして、侃々諤々の議論をさせた結果、同形式が生まれました。そこには志村勉さんや橘吉宏さん(両者とも当時、川田工業)、名取(暢)さんや佐々木(保隆)さん(両者とも当時、横河ブリッジ)など、そうそうたるメンバーがいました。

25t対策に知恵を絞る
 主要な道路は既にTT-43で設計 ならば床版だけ基準を上げよう

 ――その他に取り組んだ課題は
 西川 並行して起きたのが25tトラックの問題です。鋼橋に疲労損傷が発生しはじめていて、過積載トラックが原因ということは明白でした。しかし、政治的に規制緩和という美名のもとに25tまでは決まっていました。仕方がないので、新しい基準としての設計活荷重をつくらなければなりませんでした。参考になったのは、昭和31年の示方書です。それまで13tだったものが20tになり、先輩方が何をもとに基準をつくったのか、自分なりに調べました。 



 当時の道路会議の議事録などを見ると、床版などは取り替えれば良いが、アーチや桁など既存の主構造は経済性からもそのまま使いたいと考えていたようです。その中で現在よりもずっと大きな群衆荷重を用いていたことに気がついたようです。
 ――道路橋で群衆荷重を気にしていたのですか
 西川 それまでの設計活荷重では、数が少なかったトラック荷重よりも、同時に作用する群衆荷重に大きな数字を用いていました。トラックを置いて、その周りに人がびっしりという計算をします。それがいまの3倍近いくらいを載せていました。それを知って、トラック荷重を大きくする分、群衆荷重を現実的な数値まで下げればなんとかなると考えたようです。
 現行の荷重に変える前までは、TT-43という設計荷重があり、主要な幹線道路の橋の設計に適用されていました。それはトレーラーで戦車を運ぶ荷重らしいということでした。他の国と比較してみると、TT-43は世界的にも大きいほうの包絡線にほぼ一致しました。北欧には非常に大きな荷重を載せている国がありますが、基本的にアメリカを含めても包絡線です。
 これならば、世界レベルだと思い、そこに設定すれば混乱も少ないし、主要な道路はすでにTT-43で設計しているので、床版だけを基準を大きく上げました。本当はもう一段上げるべきだと思いましたが、急変が過ぎたので若干押さえました。それだけ過去の床版の基準は緩かったのです。それも、床版が壊れた一因かなと思います。
 ――TT-43はいつごろ導入しているのですか
 西川 昭和40年代の終わりに導入されています(昭和48年4月『特定の路線にかかる橋、高架の道路等の設計荷重』)。導入にあたっての議論は知りませんでした。
 ――では、古い橋でも床版も含めて強いものはあったということですね
 西川 そうです。ただ、必ず既存不適格で補強の話が出てきます。私は無駄な補強をさせたくなかったので、本当に厳しいかどうかを応力計測して確認する方法(応力頻度計)を推奨しました。計測すると応力は出ていませんでした。特に桁橋は設計モデルがかなり安全側なので、チェックすれば、補強は必ずしも必要ないという研究も行いました。
 同時に、酒田の経験もあったので維持管理のことをずっと考えていました。そもそも橋の寿命に興味をもったのは本省の国道二課にいたときです。私は異動の関係で1か月だけ道路企画課預かりで、企画課長が有名な藤井治芳氏(日本道路公団の最後の総裁)でした。藤井氏から辞令をもらったのですが、その際に宿題も与えられました。

藤井治芳氏からの『宿題』
 「橋の寿命について考えてみなさい」

 ――どのような宿題ですか
 西川 私が橋梁屋だったので、「橋の寿命について考えてみなさい」と。とりあえず1週間くらいでレポートは出しましたが、それからずっと考えていました。土研に戻り、94年に土木学会論文集に、招待論文を書く機会をいただきました。それで書いたのが、「道路橋の寿命と維持管理」でした。ネットでそのまま検索すれば出てくるほど、皆、参照してくれました。それが事実上、日本の橋梁を研究する先生方が維持管理について考えるスタートラインとなったと自負しています。夏休みに10日くらいで、約10ページを仕上げました。機会をくれた藤野先生には「式がないね」と言われましたが(笑)。
 維持管理が大変になって管理者の能力を遥かに上回ったときに放棄される――それが橋梁の寿命と定義しました。寿命には、①戦争や地震などによる破壊、②狭い、使いにくいなどの陳腐化、③管理者の放棄の3種類があると考えました。
 ――放棄は当時としては斬新だと思います。現在を暗示していますね
 西川 私が提示したのが将来の橋梁数と供用年次別橋梁数です。国土交通省も供用年次別を出すようになりましたが、最初につくったのは私です。当時(1990年代)、橋長15m以上が対象で13万橋あり、50歳以上の橋がちょうど戦前の架設に相当し、5%以下でした。そのため、今のところ維持管理に目が向いていないけれど、これから高度経済成長期につくった橋がどんどん50年以上になるよ、と警告しました。

 ――バブル時代によく着目しましたね。ただ、リサーチセンターはみんなそうで、道路公団の試験研究所もいち早く床版の保全に目を向けていました
 西川 研究機関は将来予測しないと意味がありません。いまでも絶対にはずれないものを頼りにさまざまなものを将来予測しています。それ以外はすべて希望的観測になります。
 ――見たくないものを見るということですね
 西川 そう。一番嫌なことを考えるということです。国総研の所長のときに、東日本大震災後に我々は3つの大災害に直面しているということをよく話をしました。一つ目は、いつかわからないけれど必ず起きる大災害、二つ目は、ゆっくりくるけど必ず起きる大災害――少子高齢化などがそうですね。3つ目はインフラの高齢化です。皆、賛同はしてくれるのですが、自分では動きません。
 ――先見的に物事を進めようとすると必ずストップがかかります
 西川 それでも言っておこうと思いました。手がかからなくて長持ちするのがライフサイクルコストの考え方。初期コストを少しだけ抑えて、早く壊れるのをつくるのではなくて、初期コストを少しだけ増やして耐久性に気を配れば、長持ちするし維持管理も楽になるということを、言いたかったのです。
 現在は発注時にLCCを入れていますが、技術の進歩で必ず外れます。
 ――三木(千壽)先生も、首都高速の大規模更新の委員会で取材した際ですが、点検でも補修・補強にコストをかけるのではなくて、点検時に構造物に精通した人間がきちんと点検をして、それに対して正当な報酬を与えたほうが結果的に補修・補強コストも下がるという話もしていました
 西川 でもだれも、具体的にどうすれば良いのかわかりませんでした。むしろ私が言いたかったのは、長寿命化するための予防保全をやらなければならないということです。道路局が最初に予防保全と言ったときは、橋に穴があいて事故が起きる前に修繕するということでした。それがコストがかからないうちに補修することになり、なし崩し的に長寿命化のためにとなりました。私は最初から長寿命化の予防保全と言っていました。床版に穴があく原因が見つかったら、その時点で修繕するということです。
 現在RC床版では土砂化が問題になっていますが、水が原因なのだから舗装の下に水が入ったとわかったら水を止めればいいのです。では、水が入ったことにどのように気づくか? が焦点になります。そのため、土研で電磁波レーダーで床版の土砂化を探す研究を行っていたのを、水を探すという方向に変えました。そうしたら、面白いものが出てきました。そのうちに大々的に発表します。





 ――床版防水は
 西川 床版上面に防水性能を有する層を設けるという考え方は良いと思いますし、そもそも言い出しっぺは私ですが、未だに決定版が出てこないと言うことは、現在の防水層では無理なのかもしれませんね。舗装の基層に防水性能を持たせるやり方の方が現実的かもしれません。
 ――NEXCOが開発を進めているものにコンクリート床版用のグースアスファルト防水があります
 西川 それも含めて土研でもRC床版で使用可能なグースファルトを研究中です。これからは橋と舗装、橋と土工など様々な境目が研究の主対象になると思います。


RC床版用グースアスファルト防水を研究中
(上写真、図はNEXCO総研が研究中の手法、当サイト既掲載)

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