2019年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑧日本鉄塔工業
連系送電線工事の受注を目指す 高度な鉄塔長寿命化技術を活用
日本鉄塔工業株式会社
代表取締役社長
有田 陽一 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。今回は、日本鉄塔工業の有田陽一社長の記事を掲載する。
――業界を取り巻く環境・現状について
有田 当社の主力事業の一つである鉄塔事業は、国の電力システム改革によって、発電と小売の自由化が行われ、来年4月には送配電部門の法的分離が予定されている。こうした動きが鉄塔業界にどのような影響を与えるかを、真剣に見極める必要がある。
橋梁事業は、国内道路橋の近年の年間発注量約20万tを今年度は大きく下回ることが予想され、これまで以上に厳しい受注環境が続くと考えている。また、高力ボルトの納期長期化を受け、受注工事において工期延期協議が行われているため、技術者の配置や全体工程の見直し等をせざるを得なくなる見込みだ。
一方、中期的に本州と九州をつなぐ『下関北九州道路』の建設計画が実現すれば、関門橋と関門国道トンネルの代替機能の確保や下関市・北九州市間の循環型ネットワークの強化が図られる。当社は地元企業であり、動向に注目している。
――2018年度の業績は
有田 2018年度の受注高と売上高は、鉄塔事業、橋梁事業ともに計画を上回り、全体として、受注高、売上高、営業利益すべてにおいて、前年度を上回る業績を達成できた。
主な受注案件としては、鉄塔事業では、北海道北部風力送電向けの送電鉄塔が挙げられる。橋梁事業では、東北地整『大橋上部工工事』、中国地整『岡山環状南道路大福高架橋鋼上部工事』を年度末に受注し、鋭意製作中にある。
北海道北部風力送電鉄塔(186kV・2回線)
――今年度の需要環境見通しと業績目標は
有田 鉄塔は、総発注量は4万t強となる見通しだ。連系送電線工事の受注を目指しつつ、新規建て替え工事、長寿命化のための補修工事にも対応していく。
橋梁では、4月に福岡県『新北九州空港線苅田工区橋梁上部工(2号橋)工事』、7月に沖縄総合事務局『数久田ICオンランプ橋鋼上下部工事』(JV工事)を受注した。下期もWTO案件を含めて受注を目指していく考えだ。
九州地整『阿蘇大橋取付部上部工』が今年11月に完成を迎える。熊本地震で被災した阿蘇大橋のアプローチ部で、早期復旧を目指して、一日も早い完成に向け努めている。また、同地整『早津江川橋上部工工事』(有明海沿岸道路)は、アーチ部締結を目指して施工中にある。こうした取り組みを通じて、全体の売上高は、昨年度の実績を上回る計画としている。
早津江川橋
――設備投資計画など
有田 設備投資面では、工場の生産性向上、省エネ化の推進および品質向上に向けた取り組みを継続中である。今年度の主な設備投資としては、新溶接装置の導入による生産性向上やコンプレッサー更新による省エネ化、めっき釜の更新を計画している。
新技術開発では当社は、『NT-鋼構造物の長寿命化システム』を保有している。さらに、部材取り替えが困難な鉄塔の部材取り替えを可能とする独自工法である『日塔工法』を開発し、多くの問い合わせを頂いている。こうした高度な鉄塔長寿命化技術を活かすとともに、技術力のさらなる向上を通じて、引き続き、お客様の保全要望に応え、送電鉄塔のメンテナンス需要にしっかりと対応していきたい。
また、橋梁のメンテナンス技術では、都市部の高速道路に対する保全要望に応えて独自開発した伸縮装置交換工法の『低騒音撤去工法』の引き合いが、最近非常に増えている。今後も各現場にあわせた工夫を提案していく。また、PRのために九州地整主催『平成30年度「新技術・新工法説明会」』などのイベントにも積極的に参加し、展示やプレゼンテーションを行った。
人事労務面では社員の高齢化や働き方改革に対応するため、新卒採用、中途採用を活発に行っているものの、人手不足の中で、計画人数を確保することが非常に困難となっている。このため、新卒学生向けに奨学金返済の一部支援を行うなどの施策を通じて、人手の確保や若手の定着に取り組んでいる。また、女性が出産後も働きやすい環境を構築するため、育児休業制度や復職制度を完備している。設備面でもトイレのリニューアルなどを行い、女性活躍社会の実現に積極的に貢献していく。
(聞き手=大熊稔、文中敬称略 2019年10月7日掲載)