首都高速道路は7月末、鋼橋塗装設計施工要領を改訂した。主な改訂点は、水性有機ジンクリッチペイントの採用、ミストコートの廃止、循環式ブラスト工法の採用、IH式塗膜剥離除去機、塗膜剥離剤(塗料と同じく非危険物化を図るため、消防法の危険物あるいは指定可燃物に指定される物品に該当しない材料に限った)の採用、素地調整3種の廃止、超厚膜無溶剤系セラミックエポキシ樹脂塗料の採用の6点。さらには火災事故や鉛中毒事故などの発生を踏まえ、安全性についての配慮も細かく記載している。押並べて安全性について高く意識した改訂内容となった。その内容を中心に開発中の技術動向や平成29年道示への技術的対応などについて大塚敬三技術部長に聞いた。(井手迫瑞樹)
※インタビュー中の写真は注釈がない場合は首都高速道路提供、図表は全て改訂された鋼橋塗装設計施工要領からの抜粋です。
※※資料のローマ数字は鋼橋塗装設計施工要領の各編(Ⅰ共通編、Ⅱ新設塗装編、Ⅲ塗替塗装編、Ⅳ参考資料編、Ⅴ塗装資料編)を指し、ハイフォンの後のアラビア数字はその資料が掲載されているページを指します。
新技術 防災・減災、交通運用、維持管理の3分野85件
センシングやモニタリング技術など
――新技術の開発について
大塚部長 首都高グループ全体での今年度の技術開発は昨年度からの継続案件を含めると 85件となっています。具体的には、防災・減災(道路啓開に資する技術、雪凍対策に資する技術) 交通運用(情報提供に資する技術、二輪車安全対策に資する技術) 維持管理(点検・調査・評価に資する技術) を中心に技術開発を進めています。
特に今後、発生することが懸念されている首都直下地震や、最近では大雪等の自然災害に対して都市インフラとしての機能を維持していけるよう、それに備えた防災・減災に主眼を置いた研究には注力しており、道路啓開や雪凍対策に資する技術開発等を進めているところです。
道路啓開に資する技術としては、地震時の損傷状況を検知するセンシング技術、CCTVによるモニタリング技術(画像処理)に関する研究を実施し、事故や逆走車を検知する画像処理技術について、新たな手法(AI等)を含め、首都高での適用が可能か最新動向を調査し、地震時及び大雪時におけるモニタリングの開発を行っています。
また、ドローンの長距離自律飛行により、リアルタイムに首都高構造物の被害状況を確認可能なシステムの開発や、標識柱や照明柱といった附属物に対する耐震補強方法の開発を推進しています。さらに、地震後の通信手段やエネルギーの確保のための研究開発も進めています。
雪凍対策に資する技術としては、ロードヒーティング技術の開発や塩水プラントの性能向上に関する研究に取り組んでいます。また、上記の研究開発においては、内容に応じ民間共同研究により、他社と共に創造的かつ先駆的な技術開発を推進しています。
床版取替技術や床版の軽量化・高耐久化の研究も進める
――最近の成果は
大塚 供用下で車線を運用しながら床版取替を行う技術や、床版そのものの軽量化、高耐久化を進めています。
――阪神高速道路はUFC床版を現場適用していますが、首都高速では
大塚 阪神高速道路と当社の違いは、阪神高速道路は路線を1週間程度、全面通行止めして大規模に修繕工事を行うことが定着しているのに対し、当社では一般交通への影響から、現状ではそれが困難という事です。床版取替にしても、最低上下ともに1車線を運用しながら短時間で施工する技術を開発する必要があります。
素地調整1種に循環式ブラスト工法を採用
素地調整1種相当をIH、塗膜剥離剤など3種類に分類
――鋼橋塗装設計施工要領の改訂について
大塚 大きな改訂点は、新たに素地調整1種に循環式ブラスト工法を採用したこと、前回の要領から採用している素地調整1種相当を3種類に分類し、採用優先順位を明確化して、新たにIH式塗膜剥離工法および塗膜剥離剤を用いる方法を採用したこと、素地調整2種は建設時に防食下地として無機ジンクリッチ系塗料が塗布された塗膜以外での使用を制限したこと、素地調整3種(旧要領における3種Z)を廃止したことです。素地調整の選択肢が増えて、現場での適用性や塗装作業効率が改善される見込みです。
――素地調整1種の種別内容と優先順位を具体的に
大塚 循環式ブラスト工法を素地調整1種【乾式工法】と定義しました。IH塗膜除去工法+電解質アルカリイオン水によって塗膜を除去し、ブラスト面形成動力工具+電解質アルカリイオン水によって1種相当のケレンを行う工法を素地調整1種相当IH【湿式工法】、塗膜剥離剤(1回の塗布で塗膜を除去可能な場合に限る)と電解質アルカリイオン水で塗膜除去し、ブラスト面形成電力工具+電解質アルカリイオン水によって素地調整する工法を素地調整1種相当W【湿式工法】としました。また、集塵機能付きダイヤモンドホイールや集塵機能付きディスクサンダーで塗膜を除去し、ブラスト面形成動力工具+電解質アルカリイオン水でケレンする工法を素地調整1種相当D【乾式&湿式工法】と定義づけました。
優先順位ですが、錆もしくは塗膜の除去が必要な場合は、まず循環式ブラスト工法を用いた素地調整の採用を検討をしています。
素地調整のグレード選定フロー(Ⅲ-6)
循環式ブラスト 安全対策を徹底した上で施工面を湿潤化せず施工
騒音やヤードという課題も試験施工でクリア
――循環式ブラスト工法はいわゆる乾式工法ですが、施工する上での法令上の根拠や作業員への安全性はどのように考えますか
大塚 鉛中毒予防規則第四章管理第四十条で含鉛塗料を塗布した物の含鉛塗料のかき落としは、著しく困難な場合を除き、湿式によることとされています。その解釈例規では、「著しく困難な場合」とは、サンドブラスト工法を用いる場合又は塗布面が鉄製であり、湿らせることにより錆の発生がある場合等をいうこととされています。循環式ブラスト工法を採用する場合についても、鋼材面の発錆を避けるためにサンドブラストと同様に施工面を湿潤化しないで施工することにしました。
サンドブラストでは、粉じん障害防止規則において、作業区域に進入する全作業員が送気マスク(エアラインマスク)を着用する義務があり、鉛中毒予防規則(※編注 に記載されている湿式によること)の適用から除外されます。循環式ブラストにおいても、サンドブラストと同様に粉じん障害防止規則を遵守することから、全作業員が送気マスクを着用するため、浮遊する有害物質から作業員の隔離が可能です。但し、有害物質を含む塗膜の除去に用いる装備や設備などの安全対策は、所轄の労働基準監督署に説明して、その上で指導を受けることにしました。
環境負荷の低減や処理費用の削減といった観点では、産業廃棄物や特別管理産業廃棄物の減量が非常に重要です。循環式ブラスト工法は作業効率がオープンブラストと変わらないにも関わらず、金属系の研削材と塗膜片を分別し、研削材は再利用するため、塗膜片だけを廃棄物として処理することが可能な工法です。そのため廃棄物の量を大きく削減することが可能です。首都高ではこれまで素地調整1種を要領に標準工法として規定していませんでしたが、今回の要領改訂で素地調整1種として循環式ブラストを採用することを明記し、廃棄物を縮減させることにしました。
――騒音やヤードなど設備面での課題は
大塚 騒音に対する懸念は確かにありました。そのため、民間共同研究において後方設備のコンパクト化や、吸音パネルでの騒音を抑制した施工方法を確立し、横浜高島町および東京大手町において試験施工を行いました。その結果、現場での適用性が確認されたことから、今回の改訂で鋼橋塗装設計施工要領に採用することとしました。
循環式ブラスト工法の車載式工法設備、施工中の防護服、施工状況など(Ⅲ-9)
循環式ブラストの構成例(Ⅲ-10)/車載式のブラスト工法設備配置図(Ⅲ-29)
呼吸保護具例(Ⅲ-36)
――ブラスト設備とノズルまでの長さはトラックに車載するタイプで水平距離100m、直下ヤードなどに設備を展開できるタイプで同400m程度が限界と書かれていますが、どのように考えますか。NEXCO各社では桁上の車線を1つ規制して、そこに設備を展開して大規模に施工することも行っていますが
大塚 首都高速においても、桁上に設備を展開することは物理的にはできますが、路肩が狭く交通量が多い高速道路上を規制して機材を配置することは、実際にはなかなか難しいです。そのため高架下等のヤードを使うしかないのですが、可搬性の高い、4tトラックに収納するタイプやヤードを限定できるタイプを用いることで施工範囲は大きく広がったと考えております。
循環式ブラストで約半分をカバー
――循環式ブラスト工法の規模感はどのように考えていますか
大塚 今後の塗装工事の発注見込みである6万~8万m2/年の施工面積のうち、概算で 約半数程度である3~4万m2/年の施工を目標として考えています。