藺牟田瀬戸架橋 トンネルを先に施工し架橋工事用道路として使用
上部工施工が大詰め
――藺牟田瀬戸架橋は国内でも有数の海上橋梁です。その現況は
島田 一般県道鹿島上甑線(延長5.1km)として整備しており、海上部が橋長1,533mの藺牟田瀬戸架橋で、PC橋では国内最大級の支間長となります。中甑島側には平良トンネル(延長1,674m)と黒浜トンネル(同587m)、下甑島側には鹿島トンネル(同497m)の3本のトンネルがあります。3本とも舗装まで完了していて、工事用道路として使用しています。
藺牟田瀬戸架橋(鹿児島県提供、以下注釈無きは同)
――トンネルが完了してから架橋に着手したのですか
島田 そうです。鹿島トンネルから資材を搬入して、桟橋などを構築していきました。
――以前に、資材搬入ではラックレールを使用するということも聞きましたが
島田 そのような検討もしたと思いますが、変更しました。A1~P3とP8~A2は桟橋施工で、水深が一番深い箇所はケーソン基礎(P4、P5、P6)で、P3~P8間は海上施工です。
――P8~A2の桟橋構築は
島田 一部海上から搬入したものもありますが、おもに中甑島側からトンネル完了後に搬入しました。
――進捗状況は
島田 下部工はすべて完了しています。A1~P3(第1橋、橋長217m、PC3径間連続箱桁橋)は上部工が完了、P3~A2は上部工施工中です。
――供用予定は
島田 2020年度となります。
――架設方法は
島田 基本的に現場打ちの張り出し架設となります。
――沖縄の泡瀬人工島連絡橋や伊良部大橋では、製作ヤードを別につくっていました。吉野川大橋では、架設ヤードをA1あるいはA2側に設けて、プレキャストブロックをそこに搬入して順々に設置していくということを行っていました。ただ、藺牟田瀬戸架橋は設計が(それらの橋梁の)前になりますよね
島田 本体工着手が2011年で、そのときには設計が決定していました。また、前後がトンネルで平地がなくてヤードを確保できないこともありました。
宮古崎トンネル トンネルで安全な道路を実現
掘進は7割、覆工は5割進捗
――ほかの事業では
島田 先ほどお話した根瀬部国直工区の宮古崎トンネルがあります。工区は奄美市根瀬部地内~大島郡大和村国直地内の延長2,870mで、奄美市と大和村の境の峠を越える位置に宮古崎トンネルを施工します。延長は、2,316mです。同区間では集中豪雨による崖崩れや路肩決壊が多く発生していて、2010~12年度では通行規制が7回(うち、通行止め3回)発生していますので、トンネルで抜くことによって、安全な道をつくっていきます。
宮古崎トンネル
同トンネルの施工状況
本体工着工は2016年度で、2020年度の本体工完了を目指しています。離島の長大トンネルで、掘削の約1,670mが完了、覆工が約1,060m完了しています(2月12日現在)。施工業者独自の取り組みで、トンネルズリ搬出にベルトコンベヤを使用し、坑内の車両走行の頻度を減らすことにより、排ガスや粉じんを減らして作業環境の改善と安全性の向上を図っています。
北薩トンネル 掘削中にヒ素を含む大量の湧水が発生
減水対策としてRPG工法を採用 超極微粒子セメントも活用
――特徴のある構造物において
島田 北薩横断道路(泊野道路)の北薩トンネルがあります。延長4,850mの県内最長のトンネルとなります。掘削中にヒ素を含む大量の湧水(トンネル全体でピーク時に1,200t/時)がありました。花崗岩と四万十層の間で、温泉地帯もあるので、もともとヒ素濃度が高いところで、そこを抜いたことにより、ヒ素を含む湧水が多くなりました。トンネル供用後も、その処理に恒久的費用がかかるため、減水対策としてRPG(Ring-Post-Grouting)工法(熊谷組)を採用しました。RPG工法は、トンネル掘削後の想定外の大量湧水や、従来のウォータータイト構造では対応できないポストグラウチングによる工法です。トンネルの湧水対策として、連成解析によるトンネル構造の設計、ダムのグラウチング技術に基づいた設計・計画・施工管理・改良効果の確認などを体系化した日本初の工法でもあります。
北薩トンネル 対策前の膨大な湧水状況
対策後は湧水が大幅に減った
北薩トンネルでは、大土被りおよび高圧水下でのトンネル構造を確保するため、トンネル壁面から3.6mの離隔をとり、その外側に厚さ3mのリング状の改良ゾーンを構築しました。注入材に新開発の極超微粒子セメント(日鉄セメント)を使用して、リング状のグラウト層を形成しています。
RPG工法によって、切羽面で最大300t/時あった湧水を40t/時以下に減少させることができました。止めることができなかった湧水は坑外にヒ素処理のプラントを設置して、処理を続けていますが、ランニングコストを抑えることができました。
標高が高い山の下で水頭が高いので、水を止めることによって水圧があがることでのトンネル本体への影響についても計測をしていきます。熊谷組が施工しましたが、グラウトの権威の先生方や大成建設などゼネコン各社に委員になってもらい、技術検討会で知恵を借りて施工していきました。RPG工法は、2017年度土木学会賞(技術賞(Iグループ))を授賞しました。
平松城橋 橋長114.5mと国内最長級の単純鋼床版箱桁
――ほかに特徴ある構造物は
島田 末吉道路の平松城橋があります。鋼単純鋼床版箱桁橋(橋長114.5m)で単純箱桁形式では国内最大長となります。県境部の大淀川を渡河する橋梁で、線形の関係上、斜橋となっています。河川の断面を侵すことができないため、結果的に約114mの橋梁を1径間としなければなりませんでした。
平松城橋の架設
――桁高が大きくなりませんか
島田 鋼床版ということもあり、桁高は4mとなっています。3月から架設を始めています。
桁高は4mに達する
――接合構造は
島田 高力ボルト接合です。発注は品薄前だったのでボルトの手配は済んでいます。
――架設方法は
島田 非出水期にベントを構築して、トラッククレーンベント工法で行います。
――河川部の橋梁架設では有馬川の落橋事故以降、NEXCOでの施工においては仮設ベントでも基礎を現地照査することになっています。また、できれば橋台側から固めて施工するようにしています。平松城橋では安全対策をどのようにされているか、教えてください
島田 現場での安全対策として、ベント基部の地耐力を平板載荷試験,SWS試験により直接確認し、併せて設置地盤のレベリングを確認しています。また、ベント基部に高力ボルトを使用し、基礎梁の浮き上がり防止を溶接で実施しているほか、ベント基部の沈下の有無や連結部のボルトの緩みの有無の点検を行っています。
――県独自の技術としてRPG工法をあげていただきましたが、橋梁に関して下部工でのシラスに対する地盤対策や塩害対策などがありましたら
島田 藺牟田瀬戸架橋での塩害対策として、エポ鉄筋の使用と鉄筋かぶりの確保により、鉄筋コンクリートの耐久性向上を図っています。
エポ鉄筋を使用し、被り厚を確保している(井手迫瑞樹撮影)
――今後の建設に関して
島田 鹿児島県は本土最南端に位置して、条件が厳しいところです。高速道路も全県でつながっていない状態で、まず県土の骨格をつくる道路整備を引き続き行っていくことが基本となります。あわせて、道路維持課とも協力して安全な生活道路を整備していきます。また、南北600キロにわたる県土に住んでいる県民の方に利便性が供与できるように、空港、港湾とも連携を図りながら、アクセスの整備も進めていきたいと考えています。
――ありがとうございました
(2019年5月16日掲載)
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