愛媛県は、南は石鎚山など四国山地が広がり、西は佐田岬半島が豊予海峡に突き出し、宇和海のリアス式海岸が広がる。藤原純友が根拠地にした日振島もこの海にある。北は瀬戸内海が広がり、冬でも暖かい日差しが広がる。松山は言わずもがな夏目漱石、正岡子規、秋山兄弟など文武の名士を輩出した土地で、神代から続く道後温泉は至福の名湯だ。今治や新居浜、四国中央市には工業地帯が広がり、段丘には糖度の高いみかん、最近では「紅まどんな」が茂っている。一方、山岳地帯が多いことから、道路におけるトンネルや橋梁・高架など構造物の割合は高く、道路整備費は高水準を維持しているものの整備率は全国的にも低い水準だ。橋梁やトンネルの経年劣化も進んでいるが、補修費には橋梁だけで毎年20億円余を投じ、一刻も早く予防保全サイクルへ移行できるよう努力している。昨夏の豪雨水害への対応も含めて向井恒好道路維持課長にインタビューした。(井手迫瑞樹)
200以上の島々がある島嶼県
256路線3,501kmを管理
――愛媛県の地勢的特徴から
向井課長 当県は四国の北西部に位置しています。県南部には石鎚山地の非常に急峻な山々があります。北は瀬戸内海、西は豊後水道・宇和海に面しています。また県内には大小の島が200程度あり、海岸線延長は全国5位(1,695km)に及びます。総面積は5,676km2、人口は約135万人となっています。そのうち松山市が約51万人と4割弱を占めます。
県土の約7割が山林で、平地は3割に過ぎません。そのほとんどが松山地域と東予(新居浜市、西条市など)に集中しています。宇和島など県南は、山が海の目前まで迫っているような地形で、海岸線はリアス式の形状を有しています。
――地質は
向井 四国には中央構造線、御荷鉾(みかぶ)構造線、仏像構造線の3つの構造線が東西に走っております。その構造線に挟まれる形で三波川変性帯、秩父帯があり、全部で5つの地層があります。非常に地形ももまれており、風化、剥離、褶曲などを起こしており、非常に脆弱な地層・地質をしております。地滑りや土砂災害も非常に多い県と言えます。台風や梅雨期には大きな土砂災害を受けやすいという特徴があります。全般的に雨量が少ない(松山地域で年間1400mb程度、1994年は大渇水も話題となった)のですが、災害が生じやすくなっています。南部は比較的雨量は多いのですが、それでも高知県や徳島県と比べると少なくなっています。今次の7月水害の雨量も、宇和島より高知や徳島の方が多くなっています。
四国の地質分布(愛媛大学発表資料より抜粋)https://www.ehime-u.ac.jp/post-80828/
――道路網の現状は
向井 2017年4月1日現在で県管理道路が256路線(実延長3501km)、改良率71%(全国41位)と低く、全国平均で言えば25年前の水準と非常に遅れています。道路予算の投資が少ないわけではないのですが、急峻な地形と脆弱な地質が距離当たりの整備費用を高くしています。それが道路整備の遅れにつながっています。
ちなみに現在、愛媛県が進めている道路整備事業は大きく3つあります。
まず1つ目は高速道路ネットワークの3つのミッシングリンクの解消です。高速道路の南予延伸、しまなみ海道と今治市間を結ぶ今治小松自動車道の整備、県内の市で唯一高速道路から外れている八幡浜市への高規格道路を延伸させるための大洲八幡浜自動車道の整備です。
2つ目は都市部の渋滞解消のための環状道路、立体交差などの整備として、松山外環状線および、JR松山駅付近立体交差事業を進めています。
3つ目は離島架橋です。最近では2016年に宇和島市からの権限代行事業として九島大橋を供用しました。現在は、上島町の生名島と岩城島間に岩城橋を建設中です。
建設中の岩城橋(井手迫瑞樹撮影)
線状降水帯が南東から北西に伸びて被害を助長
県管理道路は合計219箇所が被災 小規模橋梁の橋台洗掘は2箇所
――2018年7月の水害における被災状況は
向井 大きくは呉など広島地域の被災状況と似ています。宇和島市、西予市など南予方面や松山市の一部、今治市や島嶼部では、自然斜面の崩落が顕著でした。線状降水帯が宇和島市、西予市野村町、松山市北部、今治市島嶼部に南東から北西に伸びた関係で、それぞれの地域が土砂災害を被りました。特にみかん畑の被災が深刻で、その土砂が人家や道路に押し流されてきました。
南予地方の集中的な斜面崩壊(愛媛大学発表資料より抜粋)https://www.ehime-u.ac.jp/post-80828/
斜面災害状況(愛媛大学発表資料より抜粋)https://www.ehime-u.ac.jp/post-80828/
県管理道路では地滑り4箇所、小規模橋梁の橋台洗掘が2箇所、崩土落石が154箇所、路側の崩壊が41箇所、河川沿い道路の吸出しによる崩壊が18箇所、合計219箇所が被災しました。被害額は約74億円に上りました。
河川も大きな損傷を被った(愛媛大学発表資料より抜粋)https://www.ehime-u.ac.jp/post-80828/
市町村の橋梁被災は10橋程度
肱川に架かる大成橋(大洲市)の桁が流される
――橋梁の被災は市町村も含めて少なかったのでしょうか
向井 合計でも10橋程度です。一番大きいのが肱川に架かる大成橋(大洲市)の被災です。同橋は117.7mの3径間連続非合成鈑桁橋でした。同橋は橋脚が2本とも段落としの部位で折れて桁が流されてしまいました。車道部は1972年完成で、横に側道橋として独立した歩道(1988年完成)も付けていたのですが、歩道橋も一緒に流されてしまいました。異常降水により完全に潜り橋のごとき状況になっていたようです。水量や流失土砂などに耐えられなかったのでしょうね。
今後は、県の受託事業として復旧を進めていきます。
大成橋は段落としの部位で橋脚が折れて桁が流された
愛媛大学災害調査資料より抜粋 http://www5.cee.ehime-u.ac.jp/saigai/
損傷を被った門田橋
愛媛大学災害調査資料より抜粋 http://www5.cee.ehime-u.ac.jp/saigai/
――橋梁の復旧は格上げですか、原形ですか?
向井 おそらく原型復旧にはならないと思います。肱川の河川改修の見直しの動きもありますので。
中小河川で河床の堆積も大分ありましたので、河床掘削も行う予定です。砂防ダムも堆積した土砂を取り除いていく予定です。今回は山林の荒廃が主因ではなく、果樹園が水害により損壊して崩土などの被害が拡大した印象があります。果樹園は人がきちんと手入れしているのですが。みかんを中心とした果樹栽培は当県の一大産業だけに周辺道路も含め一日も早い復旧を行うべく努力しています。具体的には柑橘樹園内の市道のうち比較的規模の大きいところで大型ブロックを積んだり、補強土壁やアンカーを設置するなどの対策を進めます。