2018年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑨日立造船
東南アジア中心に海外展開へ 防災分野への取り組み加速
日立造船株式会社
執行役員
社会インフラ事業本部長
嶋 宗和 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を訪ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。今回は、日立造船の嶋宗和執行役員の記事を掲載する。
――2017年度の業績をお願いします
嶋 昨年度は受注高が314億円、売上高が282億円と2016年度を上回ることはできなかったが、営業利益は14億円と増加した。ネックとなっていた不採算工事が一掃されるとともに、個別工事の採算改善が大きい。3年連続の黒字化を実現できた。
――2018年度の目標は
嶋 今年度は受注高400億円、売上高300億円、営業利益10億円を目標としている。
インフラ部門は、橋梁、煙突、水門、フラップゲート式水害対策設備、海洋構造物とシールド掘進機、風力発電から構成されている。尾道市の向島工場、堺市の堺工場に生産拠点を持ち、2工場の操業度を維持すること、つまり『工場を守ること』を大前提として、事業を展開している。昨年、日本橋梁と当社の向島工場を共同利用する業務提携を行った。日本橋梁は播磨工場から当社の向島工場に製造移管した。当社にとっては工場の操業度を確保でき、工場を守ることを具現化したといえる。
日本橋梁と共同利用する向島工場
――業界を取り巻く状況は
嶋 橋梁では、昨年度は鋼道路橋が20万tを回復、一昨年の状況からは変わりつつあるが、全般的には国内の厳しい状況は変わっていない。技術者の確保についても、ある程度の仕事量を確保していないと厳しいという声があちらこちらから聞こえてくる。すぐに改善されるわけではないが危機感を持っている。
そのなかで、技術提案方式の入札では確実に客先のニーズを吸い上げて、それに対していかに的確な技術提案をするかに尽きる。これを着実に継続していく。
水門では、橋梁同様に厳しい状況が続く。平成30年7月豪雨など大規模な水害が発生しており、対策を施さなければならない。すぐに工事に結びつくものではないので、対応する技術・製品を取りそろえて営業活動を継続していく。また、既存のダムへの設備増設工事や再開発工事などの改修工事が増加。ダム再開発工事には浮体式仮締切工法が採用されて成果を挙げた。昨年、ラオスで初受注した水門・鉄管工事では海外初となる既設ダムに仮締切工法を採用する。現在、ベトナムで水門や鉄管などを製作中で、年末くらいから現地で据え付け作業を開始する。
このほか、洋上風力発電の浮体構造物、シールド掘進機や鋼製セグメントの製作も実施していく。
――防災分野については
嶋 フラップゲート式水害対策設備「neo Rise®(ネオライズ)」は全国各地から引き合いがあり、施工実績が100件を超えた。マンション、事務所ビル、工場、地下街への出入口などでの適用が増加している。
また、岩手県大船渡市で海底設置型フラップゲート式水門を初受注した。現在、堺工場で製作を開始し、来年、据え付け工事を開始する。1号機を契機に受注拡大に向けて継続した営業活動を展開していく。
――海外事業については
嶋 今後の国内市場をみるかぎり、海外市場を視野に入れた展開を考えなければならない。具体的には東南アジアを中心にODA案件を視野に推進していく。
昨年、海外推進室を設けて海外案件の探索・調査を実施。今年から海外営業部となり、具体的な案件対応、応札に向けた営業活動を開始した。
橋梁案件についてはいくつかの候補が上がってきているが、当社に見合う案件があれば対応する。水門や鉄管など水にかかわる案件は意外と多く、台湾、タイなどで案件が散見される。採算が合えば、積極的に応札していく。シールド掘進機は、地下鉄工事を対象に台湾の台北、タイのバンコクのほか、ベトナムやインドでも引き合いがある。競合他社が多くて厳しい競争になるとみている。
(聞き手=佐藤岳彦、文中敬称略 2018年10月1日掲載)