スレッドローリングねじの技術動向
鋼橋におけるワンサイドボルトの研究②
関西大学
教授
坂野 昌弘 氏
鋼橋をはじめとした鋼構造物への片側施工ボルトの需要は年々増加している。その発展系の1つであるスレッドローリングねじについて、紀の国大橋などの実橋を使って、研究を進めている関西大学の坂野昌弘教授に詳細を聞いた。
TRS アンカーを作らず止められる
鋼床版上部の防水層や舗装を傷めない
――スレッドローリングねじ(TRS)の技術的特徴から教えてください
坂野 1つは片面からの施工ができることです。従来の摩擦接合タイプのワンサイドボルトと異なる点は、同ボルトが裏側に突き抜けて背面にアンカー(ボルト頭)を作って止めるのに対して、TRSは向こう側に突き抜けず、アンカーを作らずに止められることが特徴です。鋼床版や上フランジを下側から補強する場合、上面に突き抜けて舗装や床版、枕木等を傷める方法はあまり取りたくありません。TRSはそうした状況で舗装等を傷めず補強することができます。
TRSの施工状況(井手迫瑞樹撮影)
――なぜそうしたことが可能なのですか
坂野 基本的に支圧接合であるためです。従来型のワンサイドボルトやハイテンボルトは摩擦接合であるため、相手側にナットもしくは頭がないと締められません。しかしTRSは支圧接合なので――孔と密着すれば、継手としての機能を発揮します。
――リベットのような類ですか
坂野 そうですね。リベットは片側から打ち込んで頭をつぶしますが、TRSは頭を潰さなくて良いリベットといえます。
――ということは孔径φよりもTRSは大きいということですね
坂野 そうです。例えば、Φ16mmのTRSは15.5mm径の孔に挿入します。先ほどから申し上げている通り、裏側の表面は平になるため、例えば鋼床版の疲労亀裂対策に使う場合、防水工や舗装を傷めません。
――つまりねじ長を板厚に合わせて作ることができるということですね
坂野 そうです。ワンサイドで裏側に出ないというのが力学的なメリットです。
もう一つは密閉性が保てるということです。Uリブやボックス部材に補強材を取り付ける際に普通の摩擦接合であると径が大きいため、そこから水や湿気が入ることがあります。TRSは小さな孔にねじ込むために水も空気も入りません。6気圧でも水が入らず。0.1気圧でも空気の漏れを阻止できました。つまり水深50m、上空1万mであっても水も空気も入らないということです。防食の面でもメリットがあるということです。
以前、デッキプレート上面に補強鋼板を摩擦接合高力ボルトで留めたところ、路面からボルト孔を通って漏れた水が桁下に落ち問題を起こしたとことがありましたが、TRSはそれがありません。かしめなくて良いリベットと言えます。
インパクトレンチで締め付けるだけ
目視とトルク管理で支圧状況を確認
――TRSはどのような方法で入れるのでしょうか
坂野 市販のインパクトレンチで締め付けるだけです。特殊な工具はいりません。
――支圧状況の確認はどのように行うのですか
坂野 基本的に目視とトルク管理です。適切なトルクで締め付けが完了するとそれ以上入りません。
――現状、土木で使うサイズは
坂野 φ16mmです。M20のF10Tと同等強度とみなせます。Uリブ補強に使う場合は十分な強度です。
――F11TやF14T同等品などはすぐに開発できる状況でしょうか
坂野 すぐできるかどうかは分かりませんが、ニーズがあれば、開発は可能と思います。
疲労強度の面ではハイテンボルトと変わらない性能
姫路大橋、門崎高架橋でも採用
――研究の進捗状況は
坂野 鋼床版の下面補強に関しては、疲労試験も行い、疲労強度の面ではハイテンボルトと変わらないことを確認しています。(土木学会論文集、Vol.73, No.2, 456-472, 2017)
当て板の接合詳細図(一番下がTRS)および補強状況写真(本四高速提供)
今後は、RC床版や枕木直下の上フランジでも、垂直補剛材上端部やウエブギャップ板上端部の疲労損傷に対して補強する際にアングルなどを設置します。その時に床版や枕木に損傷が生じないように上フランジ下面からアングル材を押し付けて補強する際の接合方法としてもTRSは使えると思います。実際に国道2号線姫路バイパスの姫路大橋でも試験的に採用しています。ここは橋全体で4,000箇所も塗膜割れがあり、垂直補剛材やウエブギャップ板上端部の損傷が1,200箇所を超えていました。
――TRSは所定の効果を発揮しましたか
坂野 3日間応力計測しましたが、損傷部に架かる応力を3分の1程度まで軽減できる結果が出ました。疲労寿命を計算すると、2割ぐらい応力が減れば数倍以上寿命が延びます。そのため十分な補強効果があったといえます。(鋼構造年次論文報告集、第24巻、693-700, 2016、下図写真は同論文から抜粋)
姫路大橋の対象範囲
同橋の損傷パターン/予防保全対策位置
予防保全対策(対傾構取り合い部)/同(横桁取り合い部)
対策前後の寿命比率
――本四にも適用したと聞きました
坂野 2年前に使っています。大鳴門橋の鳴門側にある門崎高架橋(鋼床版箱桁橋)の鋼床版ビード貫通亀裂への補修です。疲労試験で耐久性を検証した後、工場で施工試験を行い、施工できそうだということで実橋でも試験施工しました。これをやるとデッキ貫通亀裂対策にもなります。ビード部を切って、添接板でつなげますから、デッキ側に亀裂が進展することもなくなります。(高速道路と自動車、第60巻、第10号、20-24, 2017)
鋼床版上面のSFRCはデッキ貫通亀裂対策にはなりますが、ビード貫通亀裂を阻止することはできません。