バランスを考えつつ保全へシフト 海外市場へ積極展開
横河ブリッジ 髙田和彦社長インタビュー
株式会社横河ブリッジ
代表取締役社長
髙田 和彦 氏
横河ブリッジは2018年度までの前3か年計画を無事達成し、今年度から新3か年計画の下、事業を展開している。「社長としての勝負は今年度の新計画から」と話す髙田和彦社長は、技術・設計畑を中心に歩み、横河ブリッジの技術を支えてきた。同氏が、今後どのように会社の舵を切っていくのか、そして漸減傾向にある国内新設、漸増傾向にある保全、ブルーオーシャンともいうべき海外市場にどのように取り組んでいくのか、その方針を聞いた。(井手迫瑞樹)
昨年度売上高は約780億円、受注トン数は約46,000t
直近年度の経常利益は約9%を確保
――社長就任から1年余りが経過しました。感じていることは
髙田 昨年度は、3か年改革の最終年度でしたが、受注残もあり無事に目標を達成することができました。社長としての勝負は、今年度から始まる新3か年計画の下で試されるのだと気を引き締めています。しかし基幹となる橋梁事業のうち新設橋梁を取り巻く環境は厳しさを増しています。橋梁事業については、環境の変化に合わせて①新設橋梁をメインとしつつも大規模更新事業も含めた保全分野へのシフトについてバランスを考えていく、②海外事業の積極拡大、③『cusa』や『KERO』など橋梁関連製品事業の拡充――などを図っていきます。また、セグメント(トンネルの六面鋼殻セグメント、横河NSエンジニアリング製)などの生産も横河ブリッジホールディングスのグループとして補完していく必要があると考えています。
六面鋼殻セグメント 阪神高速大和川線現場(井手迫瑞樹撮影)
――さて、昨年度の完成工事高および生産トン数と中期的な経営目標は
髙田 昨年度は売上780億円、営業利益70億円、受注t数は総計約46,000tでした。t数内訳は橋梁が35,000t、その他セグメント、システム建築、精密機器架台などが11,000tとなっています。今年度は売上約800億円を目指しています。総じて次期中期経営計画では、年あたり売上800億円程度を目標としています。
――経常利益の状況は、以前は5%ほどでしたが、ここ3年の状況は
髙田 16年度が売上665億円、経常利益39億円でした。17年度は772億円、93億円、18年度は780億円、70億円となっています。17年度から18年度の利益額の差は設計変更協議などの差によるものです。
――転じて経営目標は小幅な増収を計画されていますが、経常利益率の高さを考慮するともう少し積極的でもいいのでは
髙田 今年度は、新設を中心に鋼橋の発注量が落ち込んでいることが懸念材料です。継続する課題としては人手不足です。
――現在の分野別比率は
髙田 新設が50%、保全が20%、その他30%となっています。今年度までは受注残が多いためこの比率は変わりませんが、来年度以降は高速道路の大規模更新や特殊・長大橋の耐震補強も含めた保全事業の比率が増える傾向にあります。
――保全分野は難易度が案件によって大きく変わってきますが、どのように受注していきますか
髙田 工事内容や人員等との関係を踏まえて応札判断していきます。
――その他30%の内訳は
髙田 海外、セグメント、橋梁関連商品(耐震デバイス、・アルミ合金製検査路・足場)、建築などです。
楽しみにしているのは耐震デバイスやアルミ合金製検査路・足場などの橋梁関連商品で、今年度は20億円を見込んでいます。また、海外事業は昨年度に約110億円を受注し、今年度は40億円の売上を計上できる見込みです。安定的に40~50億円の売上を見込んでいます。また、精密機器の架台などを製作するAE(アドバンスドエンジニアリング)事業は、昨年度40億円弱、今年度は30億円の売上を見込んでいます。同事業に関しては、この6月に岸和田市に工場を新設するなど注力しています。
建築事業では50億円程度の売り上げを見込んでいます。主な工事としては、新国立競技場の屋根工事や栃木県スタジアム新築の建方工事などがあります。ゼネコンさんの下請として携わり、鋼構造建築のマネジメントを行っています。鋼橋で培った技術を使って、大空間を含む特殊建築をはじめ、総合的に携わる会社へ発展していきたいと考えています。
保全はアライアンスが重要
アルミ合金製検査路および常設足場に期待
――今後の橋梁を取り巻く環境はどのように変わっていくと考えていますか
髙田 今年度の国内橋梁新設事業は、端境期の状況にあり20万tを大きく割り込むことが予想されています。ただ、その後は回復し20万t前後で推移するであろうと考えています。また、今後大阪湾岸道路西伸部の事業もあります。4車線化区間の新規着手もあり、業界全体としてはむしろ来年度以降に停滞期を脱せる状況にあるとも言えます。
転じて保全は大規模更新事業を含めると、市場規模が拡大すると見込まれており、積極的に応札していきます。保全分野は自社だけで完結できる分野とは考えていません。東名裾野IC~沼津IC間の床版取替工事や、東北道宮城白石川橋の床版取替工事をゼネコンとのJVで受注していますが、異業種だけでなく同業種でもこうしたアライアンスを組んでいくことが重要であると考えています。
最近ではNEXCO東日本の小樽ジャンクションCランプ橋工事でゼネコン、PC会社とJVを組んで工事を受注しています。大規模な案件を施工していくには技術を相互補完できる会社と組むことが大切です。
閉合直前の天城橋(熊本県)(井手迫瑞樹撮影)
供用された天城橋(横河ブリッジ提供)
小仁熊橋の床版取替(横河ブリッジ提供)
――重点的な営業項目および製品とは
髙田 アルミ合金製検査路「KERO」、アルミ合金製足場「cusa」などに期待しています。KEROは、既に塩害環境の厳しい橋梁で100件以上の実績があります。cusaは、主桁間の下フランジに配置するタイプと、現場の朝顔足場のように外桁を全て覆うタイプを用意しています。本州四国連絡高速道路の櫃石島高架橋で塩害対策を兼ねた常設足場として採用されている他、首都高速道路の恒久足場の1つとして採用されており昨年度に鶴見つばさ橋のアプローチ橋で採用されるなど都市内高架や、跨線橋・跨道橋などで引き合いが増えています。
cusaの適用状況(内部)(横河ブリッジ提供)
cusaの適用状況(外面)(横河ブリッジ提供)
――KEROやcusaは既存の検査路や常設足場と比べて何が違うのですか
髙田 通常の亜鉛めっき製検査路と比べれば、防食性能で優れています。また、常設足場としても剛性の面、価格の面で競争力を有していると自負しています。ただし、検査路や常設足場の市場はまだまだこれからであり、当社のアルミ合金製も含め、現場状況に合わせて採用していただけるものと考えていますし、それだけの市場規模を有しています。
――cusaの実績は
髙田 採用事例はある渡河橋とNEXCOの跨道橋があります。加えて本四高速では坂出管内の櫃石島高架橋でも採用されました。現在までの契約面積は15,000m2に達しています。
――制震デバイスの実績と開発状況は
髙田 制震デバイスの年間売上規模は数億円程度です。従来からある製品のほか、落橋防止機能付きパワーダンパーを首都高速道路・オックスジャッキと共同開発し、首都高速道路の橋梁構造物設計施工要領 V 耐震設計編平成27年6月に掲載されました。売上は他の製品より少ないですが、この技術を有していることが重要と考えています。
IHによる塗膜剥離技術を開発
関門橋の塗膜剥離に活用
――今後投入予定の技術および製品は
髙田 まずIHによる塗膜剥離技術があります。鉛やPCBを含んだ既存塗膜は鋼橋の効率的なメンテナンスにおいて妨げになっています。当社ではNEXCO西日本の関門橋の補剛桁でIHによる塗膜剥離を行い、安全性は勿論、作業性や効率面でも従来の剥離剤と比べて優れていることを認識しました。
IHを用いた既設塗膜の剥離(横河ブリッジ提供)
――これはRPRでもなく、首都高メンテナンス東東京が開発した技術とも違うのですか
髙田 基本となる原理は同じと思いますが、島田理化工業、コジョウテックスと協力して独自機器を開発しました。
IHで軟化した塗膜の掻き落としの際の独自技術も開発しています。IHや塗膜剥離剤は、有機塗膜の除去はできますが、下地の鉛丹や無機ジンクリッチペイントは軟化せず、搔き落としの際に鉛を含む粉じんが発生します。それを防ぐためスクレーパーの先端にスチームクリーナーの噴射ノズルを取り付け、スチームを噴射しながら掻き落とす方法を開発し、特許を出願しています。この方法を用いることで、スチームの当たる先端付近は、一時的に湿潤状態となり、平成26年5月の厚労省からの健康障害防止に関する通達を遵守でき、かつ粉じんや鉛を労働安全衛生法で定められた作業環境の管理濃度値以下に抑制して剥離することができます。また、事前にIHを用いているため、鋼板は高温となっており、結露はすぐに気化するため、廃棄物量が増えることもありません。加えて、IHで剥離された塗膜は、時間がたつと再硬化しますが、それをスチームの熱で再軟化させ、掻き落としし易くすることが可能です。
再軟化させて掻き落とす(横河ブリッジ提供)