旭川開発建設部は管内に4市17町2村を包含し、岐阜県に匹敵する広大な面積の中の幹線道路(11路線773km)を管理している。2016年の台風10号を中心とした豪雨水害では、室蘭、帯広管内と並び大きな被害を蒙った。大損害を蒙った高原大橋の仮橋、本復旧をはじめ、長大橋である新富良野大橋など構造物の進捗状況、維持管理上の課題について樺澤孝人部長に聞いた。(井手迫瑞樹)
縦に細長い管理区域
100kmほどの幅の中で2000mのアップダウンを有する
――旭川開発建設部管内の地勢的特徴と道路の整備方針および構造物の整備の考え方について
樺澤部長 旭川開発建設部は、北海道の14の振興局の一つである上川総合振興局のエリアを所管しています。北海道のほぼ中央に位置する4市17町2村からなり、岐阜県に匹敵する広大な面積を有しています。管内は南北に220km、東西に100kmと縦に細長くなっています。南北220kmの距離は緯度にすると2°になるので、南北では気候に差があります。また、北海道最高峰の旭岳(2291m)を中心とした大雪山山系があり、一方では旭川や富良野などの盆地は100mほどの標高と、100kmほどの僅かな幅の中で大きなアップダウンを有しています。
上川の北部には天塩川があり、それに沿った盆地には名寄市、士別市などを拠点とする地域が形成されています。また上川中央部は、石狩川、忠別川、美瑛川などが扇状地から合流し旭川を中心とした上川盆地を形成しており、上川南部の空知川流域の富良野盆地は富良野市を拠点とした地域が形成されています。
管内人口は50.7万人と北海道の振興局では2番目に多い人口を有しています。
管内は、稲作を中心とした農業が盛んな地域であるとともに、豊かな森林資源にも恵まれ、家具、木材、木製品、パルプ・紙などの主要生産地にもなっています。また、動物行動展示で有名な旭山動物園や美しい自然・農村景観を多く有することから、国内外から多くの観光客が訪れています。
道路事業については、新たな北海道総合開発計画を踏まえ、「人が輝く地域社会の形成」、「世界に目を向けた産業の振興」及び「強靱で持続可能な国土の形成」等の主要施策を推進する事としており、それに基づき、管内の国道11路線・実延長771.3kmの改築・維持管理及び高規格道路等の整備を進めています。
2016年秋の水害 橋梁損傷2箇所、切盛土崩壊13箇所
――先の水害の被災状況と、現状復旧状況および、今後の完全復旧に向けて、被災した状況、今後の考えられる豪雨水害などを見越して、橋梁・土構造・トンネルなどの構造的改良をどのように行うか、高原大橋など個別の橋梁・トンネル・土構造についての構造概要についても教えてください
樺澤 旭川開発建設部内の状況としては、平成28年8月17日から8月23日の台風7号、11号及び9号と8月29日からの前線および台風10号の影響により、上川郡上川町及び空知郡南富良野町を中心に、4路線4区間の通行止めを実施、同区間のうち洗掘による橋梁損傷2箇所、切土または盛土の一部が崩壊13箇所の被災を受けました。平成29年12月までに一般国道273号上川町の高原大橋を除く被災箇所については復旧が完了しています。29年度中に新橋の上部架設工事まで完了しており、開通に向け鋭意工事を進めているところです。
高原大橋 台風9号で護岸が大きく損傷
そこに10号が襲い橋脚が洗掘 桁が折れ曲がる
――高原大橋について特に詳しく教えてください
樺澤 今回の災害では管内に4つの台風が襲来しましたが、高原大橋は石狩川の近い方にあるダムから流れ込む入口にあり、道路線形がカーブになっている箇所に架かる橋長124.5m、車道幅員7.5mの鋼単純活荷重合成鈑桁×4連の橋梁です。1973年に竣工し、建設後45年が経過しています。
8月23日に襲来した台風9号で護岸が相当損傷を受けました。当初は橋脚や橋台は損傷がなく、護岸の方が相当洗掘を受けていましたので、土嚢などを積むことで護岸を崩落から守るといった作業を行っていました。そこを台風10号が襲いました。地盤が緩んでいる状態の中で洗掘が進み、橋台の裏に水が回りアプローチ部が流されました。橋脚は直接基礎であり、耐震的に問題はなかったのですが、洗掘が激しく進んでしまいました。
高原大橋を豪雨が襲った
桁が折れ曲がっている
この河川自体も源流でして、大きな澪筋が4つも5つもあり、今回の水害時にはかなり暴れました。その短期間に澪筋が変化した際に、橋脚の下にも洗掘が働く影響が出て土砂が一気に持って行かれたという形になりました。実際はP1、P2、P3は全て傾斜(P1、P3はA2側に、P2はA1側)、特にP2、P3は橋脚を支持する地盤が削り取られる形でストンとピアが下に落ち(最大1.47m沈下した)ました。こうした下部工の変状に伴い桁の上部も下に折れ曲がる形になりました。また、9、10号それぞれの襲来後に上部工の変状は進んでいました。
こうした状況は今まで経験がないことですので、復旧には頭を悩ませました。ここは旭川から三国峠(1339m、国道の峠としては道内一の高さ)を経て糠平温泉に至る道路上にある橋であり、特に台風直後は紅葉のシーズンを控えており、ここが不通のままでいることは温泉街にとって大きなダメージになることが懸念されていました(通常1時間50分の行程が3時間50分まで伸びてしまう)。
そのため、早期に仮橋を架ける必要がありました。仮橋の工事は被災直後の9月の頭から始めました。課題は石狩川の川幅が広いものですから、その川をどうやって仮橋で飛ばすか、そのための仮橋入手から始まって、桁長50mの開発局が保有している仮橋(トラス橋)を使って一番長いスパンを飛ばしながら、後は様々なところから仮橋を集めてきました。ただし水量があるため、架設はなかなか困難でした。
開通した仮橋
実橋が大きなカーブを有しており、左岸側が大きく浸食を受けていました。そのため、仮橋の橋台位置は、被災後の川幅を考慮し、河川流水の影響を受けない位置で設定するため、道路線形のカーブはきつくなりますが、できるだけ河川に対して直交で施工することにしました。その際は国定公園であるため、環境省とも協議の上、線形を設定しました。結果的に橋長は現橋を超える172mの長大仮橋(52m+30m×4)となりました。
次に問題になったのは施工ヤードが少ないことです。結果的には550t+400tクレーンの相吊りで桁を架設しました。
仮橋を相吊りで架設
現場をモニタリングしながら柔軟に計画を修正
――相吊りですか
樺澤 川のギリギリまでヤードをせり出して、クレーンを設置しました。トラス橋の仮橋は、46m以上になると送り出し架設が必要になります。吊架設ということがまず、この桁を吊って大丈夫か? という構造計算から始まっています。50mの仮橋を吊っても大丈夫か? 壊れないか?ということから始まり、構造そのものを検討した後に、2台のクレーンの相吊りで一発でかけたことが最も工期を短縮できたところだと思います。現場は相当頑張りました。実はこのヤードも設置中に(施工期間中の雨で)2回ぐらい流されたんですよ。しかし、それにもめげずにヤードを再構築して再びクレーンを据え付けないと50m級の仮設桁は架けられませんでした。安全管理は勿論徹底し、何度か避難もしました。その中で何とかヤードをせり出しながら一番大きなクレーンを持って行って、それでも単発では無理なので、相吊で架けました。
仮橋は相吊り架設した
――地盤が緩いところでクレーン技術者の高い技量が要求される相吊りですか、良く成し遂げましたね
樺澤 もちろん地盤から風まで、安全を確認しながらの作業でしたが本当によくぞやってくれたと思います。
その他、仮橋基礎の施工では、当地の河川敷は玉石があるので相当掘削も難しくて、様々なところから孔をあける重機を持ってきて、24時間体制で稼働させました。本当に業者さんは頑張ったと思います。その結果、仮橋を含めた復旧道路を9月末に開通させることができました。そのことで、地域からはよくぞ紅葉シーズンに間に合わせてくれた、と評価を受けました。そこは実際施工に携わった荒井建設さんや、計画・設計に勤しんだ構研エンジニアリングさんを含めて、非常に大変だったと思います。
――構研エンジニアリングの技術者も設計しながら、何か起きたらすぐに現地情報を照査した上で設計の手直しをして、非常にしびれる現場であったと言っていました
樺澤 現場をモニタリングしながら、その情報は常に構研エンジニアリングさんと共有し、夜のうちでもその場で修正というやり取りをしていました。仮橋の損傷リスクを減らすため、仮橋とは別の流木止めを設け、橋脚側面には鉄板を設置し、流水部のA1には浸食を防ぐための設備を施しました。
もちろん監督員も現場に24時間交代で詰めて施工管理を行ったり、状況の変化を伝えて対策など決断を下したりしました。ほぼ1か月そういう状態が続きました。施工完了後は、地元の観光業者の皆さんが地元紙の半面を使って、開通を周知してくれました。
架替え橋は水衝部の影響を受けない位置に橋台を設定
A2橋台 被災した橋梁より約46mバック
――架替え橋の橋梁形式や橋長はどのようにして決定しましたか
樺澤 被災要因となる蛇行河川による流況の変化、それに伴う水衝部の発生を踏まえ、川の流れを解析できる2次元流況解析により、水衝部の影響をうけない位置に橋台を設定し、橋長を決定しています。
また、上流左岸側まで橋梁護岸工を延伸し、水衝部の影響による浸食を防ぐことで橋梁への再度の災害防止を行っています。
国立公園内にあるため、線形を変えることはほとんど不可能な個所です。その中で洗掘を受けた箇所と河川のあばれ具合を考慮して、特に左岸側が橋台の裏からもっていかれたという事もあって、その状況を想定して護岸も施工しなくてはいけませんし、今のA2位置では、同様の水害に対応することは無理であると判断し、被災した橋梁より約46m分バックさせました。これで護岸と合わせ、今後想定される水衝部の影響に対しては、問題ないと考えています。そうした判断を行うために構研エンジニアリングさんには河川の解析を行い、水の最大量も想定してもらい、基礎の形式、根入れなども決めています。
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