U-NUTなど橋梁・土木分野含め堅調に推移
冨士精密 ゆるみ止めナットを始めて半世紀
株式会社冨士精密
代表取締役社長
和田 眞孝 氏
冨士精密は、1962年に、業界で初めてメタルリングゆるみ止め機能を導入したナット「U-NUT」を開発し、ボルト・ナットのゆるみ止めに大きな変革をもたらした。以来、ユーザーニーズに合わせて「G U-NUT」、「S U-NUT」、「BL U-NUT」、「座金付U-NUT」、「CLIP U-NUT」、「フジロックボルトN型」といった新商品を開発していき、橋梁など土木・建築分野をはじめ、様々な分野で信頼を高め、採用実績を増やしてきた。今後について2年前に同社の三代目社長に就任した和田眞孝氏に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
攻めの技術営業を積極的に行う
ゆるみ止めナットも着実に進化
――社長に就任して2年たちますが、長期的な抱負と土木・建築分野における同業他社にない魅力を改めて述べてほしいのですが
和田社長 当社はゆるみ止めナットを始めてから半世紀ほどが経ちますが、創業者の頃から一貫してお客様のために仕事をするという思いで歩んできました。私も3代目としてそういう思いは引き継いでいきたいと考えています。ゆるみ止めナットも進化を重ねており、1年に1個は新しい開発商品を作っていこうと考えています。また、顧客先への攻めの技術営業も積極的に行い、当社から技術提案し、お客様の求めているものを的確に把握して製品開発につなげていきたいと考えています。
U-NUT
――製造畑が長いようですね
和田 入社してから20年弱、関連会社も含めて製造に携わってきました。営業に本格的に携わるようになったのは、ここ3年です。本当は製造が好きで、もう一度工場に戻りたいぐらいです(笑)。
前期売上高は50億円弱
新名神でも多くの箇所で採用
――冨士精密さんのここ3年の業績は
和田 当社は、48期を迎えており、間もなく50周年という節目に達します。45~47の3期にあたりましては、売上高が45億円、41億円、48億円で推移しています。土木・建築にかかわらずオリンピックを含めて、震災復興などもあり、アルミ合金めっきやステンレス鋼材を使用したナットの需要が増えてきています。特に道路関係は増えてきています。先頃、新名神が開通しましたが、そこにもあらゆる箇所にUナットを付けていただいております。
新名神での適用例①
新名神での適用例②
当社は、1962年に当初二輪メーカーなどを中心にゆるみ止めナット「U-NUT」を供給するメーカーとして生まれましたが、今日ではU-NUT、ベアリング用ゆるみ止め「FINE U-NUT」などが産業機械、土木建築用途など広範な分野で使用されています。U-NUTは標準でM3~M64まであり、特注にももちろん対応できます。
現在の分野別比率は二輪が30%、土木建築が27%、産業機械が40%となっています。土木系の中では大きく3つに分かれており、道路(60%)、鉄道(17%)、建築(15%)などとなっています。48期も堅調で前期並みの売上を達成できる見込みです。
――土木用途では道路分野が過半を超えていますが、増勢傾向にあると見ていますか
和田 そう思います。当社は20年ほど前までは売り上げのほとんどを二輪分野が占めていましたが、現在では先に述べたような比率になっています。それも二輪製造の海外移転、土木分野の拡大を見越して営業を強化したことが現在の結果に表れているものと思っています。
また、ここ数年で強化している施策としてはアフターフォローがあります。
アフターフォローを拡充
試験設備を強化し、顧客の目の前で試す
――具体的には
和田 最近はお客様の求めている水準が、以前とは比べ物にならないくらい高くなっています。それに対応するために試験設備を強化しました。採用いただける以前に試験などの依頼がかなり増えてきており、それに対応しているものです。以前まではU-NUTという名称で売れてきたところも正直ありましたが、現在は使い分けられる時代ということもある中で、より品質を保って満足いく品物をどのように供給できるかということが重要です。さらに営業をしていく上でお客様に当社に来ていただいて、目の前で試験をして、品質に納得してご購入いただけるケースが増えています。
実験の様子が実際に見れる施設もある
NAS式高速ねじゆるみ試験機/ねじ締付特性試験機
――具体的な試験設備はどのようなものを導入しているのですか
和田 ゆるみに対する性能を確認する試験機として、NAS式高速ねじゆるみ試験機をメインとして、その他、お客様の要望に応じて様々な試験を行うため、ねじ締付け試験機(JIS B 1084準拠)やアムスラー引張万能試験機(JIS B 1052準拠)などを取りそろえています。先ほど申し上げましたとおり、立会試験はかなり増えてきておりまして、数年前までは年に数回レベルでしたが、現在は月に2、3件のオーダーになっています。そのため立会試験に来ていただいているユーザーさんが見やすい環境を整えることも重要と考えており、実験時の騒音や振動に気を取られずに済むよう、防音設備を作って外側からガラス越しで見ていただけるようにしています。
U-NUTの試験状況
また、生のデータも重要ですので、試験で使い破断した部材をそのまま持って帰っていただくこともしています。
――使われるナットのサイズはどんなものが多いですか
和田 M8~16、20あたりが一番多いですね。公共工事においてはネクスコや首都高速では発注機関の方でゆるみ止めの基準を作られています。それを判断する試験として、当社でもNAS式試験機があり、ユーザーから当該工事でU-NUTを使いたいと来社された時に弊社の持っている試験データをお渡しできることは勿論、実際の試験で確認できる体制も整えているということです。その体制が製品の印象を良くすることにも繋がっています。
――橋梁用途ではどのような範囲で使われているのですか
和田 橋梁本体は勿論、耐震部材の取り付け、各種付属品の設置の際などに広く使われています。
新たな分野も積極的に開拓
メタルセーフアンカーはサンコーテクノと共同
――今後、土木・建築分野などで伸ばしていく方向性は。サンコーテクノと共同開発したメタルセーフアンカー(金属拡底式アンカーとU-NUTを組み合わせたもの)などもありますが
和田 メタルセーフアンカーも安全対策の強化に意識が高まっている現下の状況においては、ひとつの道筋を作って頂いた商品と考えており、サンコーテクノさんには非常に感謝しています。当社はゆるみ止めのみの商売で今まで来ておりましたが、U-NUT+付属品を溶接した形の商品などもお引き合いしていただいております。U-NUT+加工製品のご要望が増えてきています。こうした分野への対応は積極的に行っていますし、お客様からの評価も高くなっています。
メタルセーフアンカー実施例
その他、当社が考えているのが、20年先に土木分野を考えた時に、おそらくは今ほどの需要はなくなっているでしょうから、新しい分野として電力や医療などを開拓しようと頑張っています。
ゆるみ止めナットというものは、全世界でまだまだブルーオーシャンが広がっていると考えています。幅広く営業展開していきます。
――鉄道の話が出ましたが、どのような分野に使われているのですか
和田 車輛や線路の連結部、駅舎リニューアル、耐震補強などに広く使用されています。
熊本震災後の復興でも活躍
建築分野では意匠にも、技術にも、納期にも対応
――U-NUTを使った現場として、最近の印象的な構造物はありますか
和田 熊本震災の高速道路復旧現場です。今次震災の影響を受け、九州の高速道路は非常に大きな損傷を受けました。その復旧工事において検査路、床版取替などにかなりの量のU-NUTを使っていただきました。ただ単に使うのではなく、長寿命化の観点から特殊な耐食性能の高く、異種金属による電食が起きにくい表面処理(SGめっきなど)を施したものを納入させていただきました。
落橋防止装置取り付けの際にも使われている
――建築関係における最近の使用実績は
和田 武蔵の森アリーナやあべのハルカスなどです。外装メーカーさんなどと協力していろいろな形の特殊なU-NUT+αの製品を納めさせて頂いております。現在、多条ねじを利用した特殊な製品も提案させていただいております。避難通路を確保するため使われるようです。
建築分野ではこのような特殊加工のものを要求されることも多くあります。当社に設計会社が来訪されて、デザイン性の高い製品を作れないか? と言われます。そうした需要にもできるだけ対応しています。
建築外装での採用事例
――コストは合いますか?
和田 単体では正直合いません。納期も長くても1週間ときついです。その中で材料の手配から製造までをこなさなくてはなりません。時には次の日に送ってくださいと言われることもあります。しかし、そうした要望をこなすことで信頼が生まれますし、対応すれば逆に利益率が高い案件を発注してもらえることもあります。それは阿吽です。
海外も見据る
インフラ輸出政策に対応したい
――その他付言して
和田 当社は現在、台湾とインドネシアに海外工場を有しています。基本的には(海外移転した)二輪工場に製品を供給する工場となっています。しかし、今後は土木・建築分野を中心に日本の技術がどんどん拡張していこうとしています。私どももそうしたインフラ輸出に対応してU-NUTなどゆるみ止めナットを海外展開していきたいという思いを強く持っています。たとえば鉄道関係ではインドネシアがいま非常にホットですし、インドでは日本のJVが高速鉄道インフラを受注し、その話を当社でもいただいています。
――ありがとうございました
(2018年4月18日掲載)