管内橋梁は574橋、15m以下が49%
コンクリート橋が8割を占める
――次に保全について橋梁とトンネルの現況から
安部 福岡国道事務所が管理する道路延長は311.7kmに達しますが、構造物は橋梁が約9%、トンネルが約1%で、あとは土構造となっています。橋梁は有明海沿岸道路が属する国道208号が一番多く、橋梁数は142橋、橋梁延長は約12kmです。トンネルは国道202号に集中(6本4km)しており、他の路線にはありません。
所管路線別の橋梁・トンネルの管理数・延長
――橋梁についてもう少し詳しく
安部 当事務所の橋長2m以上の橋梁は574橋あり、そのうち15m未満の橋梁は46%とほぼ半数を占めます。その一方で100m以上の橋梁も92橋と16%に達します。
管内橋梁の橋種別・橋梁別割合
橋種別ではPCが258橋、RCが148橋、PC・RC複合橋が37橋とコンクリート橋の割合が8割弱となっています。
管内橋梁の平均年齢は45歳となっており、建設後50年を経過した橋梁は、現在で221橋(39%)に達していますが、10年後には304橋と過半(53%)に達し、20年後には401橋と7割に達します。
建設年度別橋梁箇所数分布
――トンネルについては
安部 トンネルは6本あり、施工方法は在来工法が4本、開削工法が2本となっています。供用年次は在来工法の4本が昭和56、57年度、開削工法の2本が平成17年度です。
所管するトンネルの概要
C判定は主桁の割合が比較的高い
損傷要因は鋼橋が腐食、コンクリート橋がひび割れ
――構造物の損傷状況は
安部 橋梁の点検結果では137橋(24%)がC判定とされ、速やかに補修などを実施する必要があります。S判定(調査の必要がある)は17橋(3%)、M判定(維持工事で対応する必要がある)は83橋(14%)、B判定(状況に応じて補修を行う必要がある)は304橋(53%)となっています。
所管橋梁の対策区分
C判定の割合は鋼橋が比較的高く、鋼橋全体の4割に達しています。また、部位別では主桁の割合が高くなっています(全体の約15%)。損傷内容は、鋼橋が主に腐食、コンクリート橋が主にひび割れが多い結果となっています。
橋種別・部位別のC判定割合
トンネルは定期点検の結果を踏まえ、定期的に監視を行い、必要に応じ措置を行っていきます。最近では損傷が顕著に出ていた立花トンネルで平成28~29年の2カ年をかけて、裏込注入、先導水工、剥落防止工、内面補強などを行いました。
立花トンネルの損傷状況と対策
――対策状況は
安部 平成26年に策定された定期点検要領に基づき、平成26~28年度の3カ年度で574橋中395橋の点検を実施した結果、早期措置段階とされるⅢ判定は37橋(9%)であることが確認されました。現在はその37橋のうち、12橋について対策を実施しています。
対策の進捗状況
――上部工の補修補強の実績は
安部 補修については平成26~28年の3カ年度で約100橋、29年度で約40橋対策を実施あるいは予定しています。補修方法の多くは、ひび割れ補修、断面修復となっています。疲労損傷等で補強が必要な橋梁は見つかっていません。
――支承の取替えやノージョイント化について、今年度の施工予定個所数は
安部 支承取替やノージョイント化の予定はありません。ジョイントについては13橋で更新する予定です。
今後10年で約80橋を耐震補強
――耐震補強の進捗状況は
安部 管内574橋のうち、耐震補強の対象となる15m以上かつ、緊急輸送道路(本線)の橋梁は256橋となっています。このうち、今後10年で対策が必要(耐震性能2へのグレードアップも含め)な橋梁は82橋となっています。今年度は、国道3号の針摺高架橋(橋長187m、10径間(PC単純プレテンT桁橋+PC単純ポステンT桁橋2連+PC単純プレテンT桁橋4連+PC単純プレテン中空床版橋3連))と国道202号の深江第一高架橋(橋長100m、(PC3径間連結プレテンT桁橋+PC2径間連結プレテンT桁))の耐震補強を行っています。
耐震補強の進捗状況
針摺高架橋では落橋防止装置を14基、増設横桁工(水平力分担構造)を18基設置し、橋脚のRC巻立工も2基で施工しています。
針摺高架橋で実施した耐震対策など
――塩害やASRによる構造物の損傷は
安部 管内の構造物で、塩害やASRに起因する大規模な損傷はありません。
鋼橋の塗替えは端部・部分塗り替えが基本
全体塗替えは塗膜剥離剤なども考慮
――2016、17年度の鋼橋塗り替え予定および実績(橋数と面積)を教えてください。また、塗り替えの際の全体的、部分的な用途でも良いので、溶射など新しい重防食の採用などについてもお答えください。また、PCBや厚生労働省・国土交通省から2014年5月30日に出た文書を受けて、鉛など有害物質を含有する既存塗膜の処理について、どのような方策をとっているのか教えてください。
安部 今年度は3橋90㎡で部分塗替えを行う予定です。当事務所が管理する鋼橋塗装の内訳は、確認済みの99橋のうち、現況の塗装は塩化ゴム系が3橋、フタル酸系が33橋、ポリウレタン系が14橋、フッ素系が20橋、その他2橋となっています。また耐候性鋼材を採用している鋼橋は8橋です。
使用している既設塗装種類も把握
部分塗替え
新しい重防食の採用事例としては、鋼製支承の腐食に対し、塗布することで安定化した皮膜を鋼材表面に形成し、鋼材を錆から長期的に守るNKさび安定化防錆工法を採用しています。
鉛など有害物を含有している塗膜については、「鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について」の文書を受け、塗装塗り替え工事の受注者への周知を行うとともに、施工箇所をシート防護することによるケレンカスの完全回収、作業員のエアラインマスク着用などによる有害物質の飛散防止や作業員の健康障害防止に努めています。
――新設・補修補強問わず、橋梁・トンネル・法面など構造物を中心としたNETIS登録技術の活用について具体的な活用技術と採用理由を教えてください
安部 例えば、支承補修において、エポガードシステム(CB-080011-V)を採用しています。素地調整3種ケレン程度で防錆・防食処理が可能な工法として用いています。
九州北部水害など災害への対応
――異常気象時における災害対策について
安部 5年前の話になりますが、平成24年7月の九州北部豪雨では、当事務所が管理している国道210号うきは市三春地区で法面の崩落が発生しました。平成25年12月までに復旧しました(下写真)が、その経験を踏まえ、日常の管理の中で、防災の観点から法面の点検を行い、梅雨前には側溝の清掃をするなど、地道ですが安全の確保に励んでいます。
――今次の九州北部水害も大きな被害が生じました。中山間地がかなり危険な状況になっていることは全国的なもので、特に河川内の橋脚や堤防上にある橋台、橋台背面の構造が大きな損傷を受けました
安部 私は、東日本大震災後の福島で事務所長をしていました。そして今回、熊本地震、九州北部豪雨等を経験しました。振り返ると、災害が発生している時に「災害の規模や原因はこれだ」と決めることができません。ですから、災害が起きた時は相当規模の災害が発生しているに違いないと想定して対応するしかありません。我々は、災害が起きるたびに様々な可能性を前提に、現場に急行し迅速な調査や応急復旧等を実施しています。そして、これら経験を通じ、我々の対応能力も少しずつ改善しています。次にどのような災害がいつ起きるかわかりませんが、起きた瞬間の初動によりその後の応急復旧等が決定づけられるように思います。早ければ早いほどその後の対処も選択肢が広がりより良い対応が可能になるということです。それを常に心がけています。
――老朽化対策における事務所の役割は
安部 現在、福岡県道路メンテナンス会議において、その会長の職にあります。ですから、県内のすべての橋梁等構造物の老朽化の状況や点検等の対応状況を把握しなければなりません。その中で、自治体は様々な悩みを抱えています。
――例えばどんなことですか
安部 自治体が管理する道路構造物は自治体が点検等を実施する必要があります。しかし、計画どおりに進まないこともあります。そこにはお金の問題と技術力の問題があります。補修等にはお金がかかります。自治体という一つの組織でみた場合、厳しい予算状況の下、教育や福祉等他の分野と天秤にかけ、どの分野にどの程度優先度をつけるか決定するのは当然、首長や議会の役目です。その中で老朽化にどの程度予算を配分するか等厳しい決定に直面することも多いと聞きます。法定点検は当然実施しなければならないので、予算を確保する必要があります。ある種固定費になってしまうのです。次に技術者の課題もあります。福岡国道でも自治体の職員と一緒に、橋梁点検セミナーを行っています。先頃は篠栗町(糟屋郡)にある田中橋で行いました。事務所には技術力の高い職員も多く、そうした職員が自治体の橋を直接点検する試みを実施しています。そのような形で、なるべく自治体の点検業務をサポートしています。自治体も規模が様々です。技術者の少ない自治体も多く、どうしても必要な人材を確保できない状況もあります。
――非常に厳しい課題ですね。福岡県や福岡市、北九州市はなんとかなると思いますが、河川がたくさんあり、橋も多い大牟田市や久留米市は大変だとは思います。久留米市では、過去に筑後川に架かる橋でゲルバー部から水が漏れていた事例がありました。そういう橋を持っていて、しかも橋長が長いので、市としてどのように管理していくか、逆に聞かれたこともあります。頭の痛い問題ですね
安部 地元の方々にとって、橋は生命線であり、利用出来なければ生活も大きく変化してしまいます。国が管理している橋梁は、規模が大きいものの橋梁数は全橋梁数の5%程度しかありません。自治体には小さな橋が山のようにあります。これら小規模橋梁の管理の手助けが必要です。経験を積むことで技術者の技術力も向上しますので、自治体の支援を前向きにとらえています。
――ありがとうございました
(2018年3月16日掲載)
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