2018年新年インタビュー③ エキスパートシステムを用いたAI開発に着手
土木研究所・西川理事長インタビュー 新規採用を国家公務員資格者以外にも開放
国立研究開発法人
土木研究所
理事長
西川 和廣 氏
エキスパートシステム方式のAIを橋梁などに採用できないか
損傷状況ではなく、その過程等の説明も重視
――最近表明したAIへの取り組みについて、失礼ながら西川さんはAIには否定的であった気がしましたが
西川 そのとおりです。しかし国土交通本省上層部からインフラメンテナンスに関するAIについて早急な取り組みを求められていまして、最初は断る理屈を考えるために、少し勉強してみました。するとAIには今話題のディープラーニング以外に何種類もあることが分かった。
――どの方式に注目したのですか
西川 エキスパートシステムと言われるものです。
その前にまずディープラーニングから申し上げますと、あれはどんなに精度が高くても基本的にブラックボックスです。過程を示さずに診断結果だけがⅡとかⅢとか出てくる。最近、招かれて青森県道路メンテナンス会議で講演してきたのですが、11月13日号の日経コンストラクションの「点検はしたけれど」という記事を取り上げて、なぜうまくいっていないのかと言う話をしました。結局、診断結果は出たけれど半信半疑、画一的で選択肢が示されていないために次に進めないのではないでしょうか。
さて、エキスパートシステムというのは、少々古い言葉のように聞こえますが、今でもAI御三家の一つとされていて、主に医療現場で使われているようです。医療現場では、患者へのインフォームドコンセント(アカウンタビリティ)を重視していますから、個別の症状を膨大な症例を根拠にどのように判断し、現在どのような病状に至っているか、そしてどんな投薬や手術が必要かをわかりやすく説明できなければなりません。これが専門家の判断のノウハウを蓄積するエキスパートシステムを採用している理由だと思います。そしてこれならば橋梁を中心とした土木にも使えると気付いたわけです。
――症状から補修補強方法までを論理的に示せる、というわけですね
西川 そうです。作られた年代、適用示方書、補修履歴などのデータを踏まえ、点検で上がってきた損傷状況を総合的、論理的に判断した上で、補修して延命するのか、補強するのか、架け替えが必要なのか等色々な処方箋を示すことができます。すなわち「この病気(損傷)は歳(供用期間)のせいなのか、元々の体質(適用示方書、使用材料など)のせいなのか、はたまた食生活(飛来塩分)や働き方(交通量)に問題があるのか、なぜそのように判断されるのか」など、具体的に筋道を立てて説明することで、診断が説得力のあるものになります。この論理(Logic)の出力ができるAIこそ土木に合っていると思いました。そしてそのアップデートこそ土木研究所が担うべき業務であるとも思っています。
もう一つ、このAIを研究していて可能性を感じたことがあります。
膨大な診断技術者の暗黙知をAIに入力
それを使うことで技術継承がスムーズにいくのではないか
――今までの話でなんとなく分かりました(笑)。西川さんの膨大な暗黙知を含めた技術的遺産をAIに入力しようという腹ですね
西川 そうです。私の後継はAIにしよう、と。もちろん私だけでなく、日本中の信頼できる診断技術者の暗黙知をAIに学習させることによってシステムを育て、若手はそれに助けられながら業務を行うことで、技術を継承していく。その方が何倍も効率的であると感じた次第です。
今年度はAIを熟知しているコンサルタントの力を借りて研究の枠組みを検討し、来年度から官民共同研究を開始する予定です。将来的にAIのアップデートは外部に専門の組織を設け、CAESARが関与した形で行っていきたいと考えています。
――点検手法のAI化は
西川 もちろん取り組みます。これこそディープラーニングが適していると思います。点検から調書作成までを自動化することが目的で、あまり高度なものは望みません。人間に代われるレベルまで精度を上げていければ十分と考えています。
これらAIについては、多くの診断技術者を擁する橋梁調査会などの協力も仰いで研究にあたっていく必要があると思います。また、点検手法や補修補強技術、材料などについても含めた周辺技術の研究も同時に進めていきたい、と考えています。
――ありがとうございました
(2018年1月1日掲載)