100年の設計供用年数を考慮して維持管理方針を明確化
点検しやすい構造を
――その話は意外と大きいですね。発注者もですが、受注者も大変です
白戸 管理する側は、100年の設計供用年数を考慮して維持管理方針を明確化し、それに見合う設計になるようにしなければなりません。その過程では技術評価をする機会がこれまでよりも多く出てくるのは時代の趨勢でしょうし、また、維持管理と一体で設計するということについては、管理者の考え方が重要なので、ご指摘のように重要な改定点になります。
ただ、それを実現するための戦略、方法と勝算・リスクをよく考えていくことが求められているのであって、難しい計算が増えるとかいうことはありません。
また、新しい技術について言えば、その性能と言っても、その橋梁の環境条件や技術の使い方が大きく影響します。したがって、あらゆる条件で性能を検証することにも限界があります。新しい方法を提案する場合には、適用条件やその根拠となる知見、万が一の不具合に対しての診断や修繕ができるということの確実性が明確であることが、競争力になると思います。
長寿命化を合理的に実現するための規定の充実を図る
――塩害の話でいえば、国土交通省の塩害マップがあり、マップどおりに規定を決めています。しかし、現実には塩害マップ外の個所でも飛来塩分などで激しい損傷を受けている橋梁もあります。実際に諸規定を鵜呑みにするエンジニアですと、逆に厳しい感じがします
白戸 そのために事前調査や定期点検があるわけで、当初見込みと異なれば当然挽回するしかありません。したがって、維持管理の確実性を設計するという点が明確になったという点では、エンジニアの仕事の質が変わってくるということかもしれません。
――そのためにも新設のときは現場をみて、きちんと現場を把握しなければならないし、既設のときはいかに点検精度をあげていくか、が必要になってきますね
白戸 修繕のときに、併せて、できるだけ点検しやすい構造にするかもしれませんね。自分が修繕したものに対して、それをどうやって維持していくのかを考えないといけない。今回の示方書の改定は、既設橋にとっても、設計にあたっての思想と枠組み、考え方を与えるものと考えたいです。
――その他の改定事項。とくにPCポステン桁について触れていますね
白戸 PC緊張力の鉛直分力(腹圧力)の影響により、一部のポステン桁で橋軸方向のひび割れが散見されましたので、ひび割れ防止の規定を少し強化しました。
また、要約版では触れていませんがコンクリート部材に接合という章を作った点が大きいと考えています。
――それはプレキャストセグメントのことですか
白戸 セグメントのつなぎ方を規定しているのではなく、(母材、接合部の)壊れる順番の制御や、荷重の伝達構造、その限界状態ごとの荷重伝達メカニズムの変遷を明確にするよう求めています。今後、プレキャスト部材の提案や活用が想定されるなかで、むしろ弱点となり得る接合部について、要求性能やその検証の観点を明確化しています。
また、橋梁のケーブルについても規定を明確にしました。
例えば気仙沼湾横断橋(イメージ、当サイト既掲載)などが記者の念頭に浮かぶが
――具体的には
白戸 従来、吊り橋や斜張橋のケーブル、ハンガーケーブルなどは、その名前で安全率が変わっていました。本来はケーブルの受ける荷重特性重とかがあって、それを名前ではなくて(ケーブルに懸かる)死荷重、活荷重の比率で安全率を変え、(鋼・コンクリートという構造材料に拠らず)あらゆる部材を自由に組み合わせて橋をつくれるように変えました。荷重組みあわせの見直しと併せて、ケーブル構造の合理化が期待されます。
――ありがとうございました
(2017年12月5日掲載)
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