発注者も要求性能をより明確に伝えなければならない
抵抗係数、部材・構造係数、調査・解析係数の3つに集約
――これはイン・アウトともにエンジニアの力量を相当問われそうですね
白戸 従来通り設計する分には、それほど変わりません。変わるのはあくまで新しい構造や材料に挑戦した場合です。
――発注者も要求性能を明確に伝える力を今まで以上に持つ必要がありますね
白戸 そうですね。橋梁毎に求める性能をより明確化していく必要があります。ある意味、発注者がどのような橋を整備したいのかという、性能を説明する能力を求める厳しい道路橋示方書になっています。
――部分係数設計法についてもう少し詳しく聞かせてください。例えば支承はプレート板や支承本体、その中間にある接着剤、橋脚や橋台と繋がるアンカーなどの様々な部材から構成されています。部分係数は個々の部材に与えていくのでしょうか。それとも接着された部材など2つ以上のものにも係数を与えていくのでしょうか
白戸 安全率をどのように振り分けるかについては、理論的な決まりはありません。積み上げ方式もあれば、一体構造として係数を与える方法もあります。但し基本的には各部材、製品ともある一定の管理方法で施工、製作するわけですから、各ステップに安全率をふりわけるのか、結果論で評価するのかは、理論的にはどちらでもよいわけです。
今回の示方書では材料や製作、施工、耐荷力の評価式といった直接に部材強度を計算することに関連する部分係数が一つ立ちました。これは抵抗係数と呼ばれています。さらに従来、曲げとせん断で、緩やかに壊れるものと急に壊れるものとは安全率に差をつける考え方があったと思いますが、そのような部材挙動の特性を必要な安全性に反映させようとするための部分係数が一つ立ちました。これは、部材・構造係数と呼ばれます。この係数において急に壊れたり、強度が落ちたりする部材に求める信頼性を補正するわけです。3つ目は、調査や構造モデルに係わる応答の評価の信頼性に係わる部分係数です。部材の応答を算出するにあたって、例えば地盤調査をすることで地盤乗数の精度が変わりますよね。精度が変わればより良い応答が求まりますよね。その分不確実性が減る分を考慮できるようにしてあります。これは調査・解析係数と呼ばれます。このように、抵抗の評価について係わる部分係数は、実際には3つに集約しています。
橋と個々の部材の限界状態を3段階に分けている
――それを踏まえて限界状態設計法についてもう少し詳しく
白戸 部分係数設計法における安全率は、荷重変位曲線のある「点」から、どれだけ応答の距離を離すかというものです。限界状態は、その距離をとる「目標点」を定めたものです。部材や構造など様々なものに様々な段階の限界状態を定義しました。例えば、橋の限界状態は3段階に分けています。部材などの限界状態も同じく3段階に分けています。それを踏まえて、上部構造や下部構造、上下部接続部(支承など)などの限界状態も細かく定義しています。各部材は、これらに従い(荷重変位曲線―応答の)距離をとるわけです。部材の状態が段階を踏んで変化するものもあれば、1段しか該当しないものもあるわけで、後者に関しては厳しめに距離をとることが必要なわけです。そうした取り決めを明確にしたと考えてください。
橋の限界状態(国土交通省公開 平成29年道路橋示方書より抜粋)
上部構造、下部構造及び接続部の限界状態(同上)
部材などの限界状態(同上)
限界状態設計法 既設橋への活用のために研究の深化を期待
――耐震補強など既設橋梁についてはどのように当てはめていくのですか
白戸 今までと考え方は変わりません。現在、少なくとも死荷重については保てているわけですから、活荷重や温度など、外力の増える分について必要な部材を補強すればよいわけです。ただ、従来の許容応力度設計法では板を足しても、初期応力が既に入っている元の部材が板の応力度の許容応力度をもって、OKかNGを決めていました。もっと研究が進めば、今回の限界状態設計法を生かせば、既設部材と補強部材を一体として考え、既設の材料の一部が仮に降伏しても、補強された部材一体としてはまだまだ十分な剛性や強度があり、一体としての限界状態に対して十分安全であれば、OKという設計ができるわけです。限界状態をどのように評価するのかについては研究が必要です。しかし、このような考え方を受け入れる枠組が限界状態設計法になりますので、既設橋の設計で活用するための研究が期待されます。
――既設基礎の耐震補強については今回の示方書改定でどのように触れていますか
白戸 補修補強の設計はこれまでどおりです。
なお、新しい示方書では、橋の設計にあたっては、災害についても、経年劣化についても、維持管理と一体で、設計供用期間中の橋の性能を確保できる戦略や確実性を求めています。また、新しく橋をつくる場合には、供用中に基礎の状態を調べ、補強するということはなるべき行いたくありません。そこで、橋の性能を確保しつつも、標準的には、基礎にはなるべく損傷が生じないようにしようという考え方が明確にされています。
一方で、既設橋は、既にそこにある姿を基本に、橋として必要な性能を確保するということになります。したがって橋としての性能を実現するための手段として、必ずしも新設橋と同じように、塑性化を誘導する箇所を選ぶことが合理的ではないかもしれません。したがって、維持管理のリスクや確実性も考慮しながら、橋としての性能を確保するために最適な方法を探すことが重要と考えます。
その他の改定事項
――ロッキングピアについては
白戸 ロッキングピアと特定していませんが、熊本地震を受けて、下部構造としての自立性というのが耐震設計の観点として明示されています。
――長寿命化を合理的に実現するために規定の充実を図るとありますが、具体的に
白戸 適切な維持管理を行うことと一体で橋の性能を確保することを目標とする期間が設計供用期間です。その目標として100年を念頭に置き、どのような耐久性確保策を使おうとも、維持管理と一体で、耐久性確保策の信頼性、その橋の維持管理行為に係わる条件の難易、そういったものも考慮したうえで、100年の間、橋が性能を発揮し続けることの勝算を確保してもらおうというものです。たとえば、いろいろな耐久性確保策を、原理や明らかになっている範囲の性能との関係で、①劣化の影響を考慮した部材寸法や構造とする、②部材寸法や構造とは別途の対策を行う、③設計供用期間内において劣化の影響がないとみなせる構造とする――といった分類をします。個々の耐久性にはばらつきもありますし、また、それぞれの方法に応じて必要になる維持管理方法も変わるので、個々の方法を①から③に分類することを通じてその特性を捉え、捉えた特性を維持管理に反映させることを求めています。
但し、例えば①において塩害対策時のかぶり厚をどうするのか、疲労設計をどうするのか、といった決まりごとは一切変わっていません。今回示しているのは橋梁ごとに設計供用期間として、100年を目標に、性能を維持するための戦略を示してほしいという点です。そのためには、かぶりや別途の防食を施すだけの対応ではなくて、100年経つ前に部材ごと更新する戦略も取れることも明確にしています。あるいは修繕がなかなか難しい橋梁であれば、リスクを減らすために、耐食性材料を使用しても良いわけです。そうした、橋梁特性に応じた戦略を練って新設・維持管理にあたってくださいという規定を追加しました。標準的な耐久性設計を行う限り設計計算は変わりません。しかし、設計供用年数とそれを実現するためのアプローチを個々の設計で宣言するという点では、大改定と言えるでしょう。もちろん一部では従来もやっていましたが今回の示方書改定ではそれをきちんと考えて、どう考えたのかを設計図書に残してもらいたいと思います。
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