俵山トンネル 距離にして160m区間を全面打ち替え
桑鶴大橋 斜張橋ケーブル2段8本を取替
――県道熊本高森線(俵山ルート)の現況を教えてください
辻 昨年12月24日に応急復旧により開通し、東西方向の交通を確保しました。
俵山ルートは昨年のクリスマスイブに応急復旧により開通
――走行しましたが、のり面工もしっかりしていて応急復旧とは思えないほど快適でした
辻 ありがとうございます。もともとの県道の被災が著しいところは旧道等を活用し、かなり迂回している部分や線形が悪い部分もあります。田畑の中に新たに復旧道路を構築した区間もあります。橋梁区間はまだ補修が終わっていませんので、その区間はこれからの復旧となります。
――俵山トンネルのひどい状況もみていたので、きれいになっていたのには驚きました
辻 インバートの打ち換えまで行った箇所もあります。NATMでの補修で全面打ち換えまでやったことは多分ないのではないでしょうか。
――NEXCOでは大規模更新時にインバートを盤ぶくれ対策で行っていますけど、国交省では聞いたことがありません
辻 施工業者の鹿島建設と杉本建設には頑張っていただきました。熊本地震後、熊本と阿蘇地域もしくは大分を結ぶ道路は、グリーンロードとミルクロードしかありませんでした。特にグリーンロードは標高が約1,000mあり、冬期になると通行が難しくなります。12月末に供用を開始した俵山トンネルルートはグリーンロードに比べ標高が約500mと低く凍結の心配が少ないことから、地元の方からはすごく喜ばれました。
熊本地震復旧については、東日本大震災を受け制定され、今回初めて適用となった大規模災害復興法の存在が大きいと思います。復興法により県道、村道の国の直轄代行について要請を受け、国が災害復旧事業を施工できるようになりました。
トンネルの現場では、覆工コンクリート自体が崩落している箇所もありましたし、支保工が座屈している部分も見られた状況です。6月の豪雨では熊本側の坑口部の斜面が崩壊し、大規模な法面対策を行う必要も出てきました。本格的な工事着工である覆工コンクリートの取り壊しは7月15日から開始しました。本来ならば、設計完了後に発注となるわけですが、復旧事業となるので実際の設計と工事が並行作業となりました。
俵山トンネルの復旧作業①
俵山トンネルの復旧作業②
余震も続き、工事用の進入路も片押し施工しかできないという状況で、特に施工業者には努力していただき、24時間体制で全国から最大200人/日体制での施工をしてもらいました。延長にして約8%となる160m区間で全面打ち換え替えを行っています。補修についても炭素繊維シートの設置や、ひび割れ注入を行うなど様々な補修対策を行いました。さらに坑口部は、今回の地震によって坑口部に偏圧による覆工の変状が確認されていたので、応急復旧までは排土による偏土圧を抑えることに重点をおき、供用を予定していた12月24日の直前まで斜面対策を行っていました。
俵山トンネル坑口(西側)/補修が完了した同トンネルを走る
――大切畑ダム橋の補修は完了したということですね。桑鶴大橋は大規模な足場をつくって、新設と思うような補強を行っていました。各橋梁の状況を教えてください
辻 橋梁で現在復旧が完了しているのは大切畑ダム橋のみで、残りは復旧工事中です。
橋梁群の復旧状況
大切畑ダム橋のみ復旧工事を完了している
桑鶴大橋(約160m、鋼2径間連続斜張橋)は、上部工に横ずれが発生しましたが、主塔にぶつからなかったのは不幸中の幸いでした。支承も破損していて、下部工自体も非常に損傷しています。また桁端も損傷しています。
補修中の桑鶴大橋
下部工については、ひび割れ対策も行っていきますが、同時に、A1、P1の増杭補強を行います。具体的にはA1で左右に約3m、P1で前後に約3.8mフーチングを拡大した上で深礎杭を設置し一体化させます。桑鶴大橋は比較的小さい斜張橋ですが、曲線橋の上、支間割りが違う橋梁なので、A2側をPCケーブルで留めていくといった浮き上がり防止(負反力)対策も行います。
A1で左右に約3m、P1で前後に約3.8mフーチングを拡大した上で深礎杭を設置し一体化
上部工は、まず桁受けベントを設置(A1~P1間で2個所、P1~A2間で2カ所)した上で横ずれした桁を元に戻します。ケーブル(PC)にはよれによる損傷が見られ、4段のうち上2段(8本)を交換していきます。今、P1の所で支承が壊れて直接、桁が載った状況になっていますので、ブランコ状態になってしまっているわけです。それを正規の位置に戻していかなくてはなりませんので、仮受けする位置などを慎重に確認しながら施工しなくてはいけないと感じています。また、A2側の負反力を考慮した上で最終的にケーブル張力を調整します。
主塔構造については水平梁の所で若干縦リブが変形してしまったところはありました。当て板補強を行う予定ですが、構造的に大きな問題は生じていません。
桁本体についても、端部およびP1支点上が大きく損傷しているため、同箇所を(バイパス材を繋ぎ剛性を担保した上で)切断し新しい部材に取替えを進めています。
支承はタイプB支承に取り替えます。
俵山大橋 桁と橋台が衝突し、基礎が露出
まずは上部工撤去から始める
――同様に俵山大橋の状況は
辻 損傷が大きく、ようやく工事に着手したところです。桁の横移動・座屈があり、橋台が周辺地盤の崩落とともに大きく損傷しています。桁と橋台がぶつかり、基礎までも露出してしまっているので橋台が使えない状況です。上部工は全て架け替えで、橋台も両方とも下げて再構築します。A1側で19m、A2側で6mとなります。橋脚もP1では深礎杭を増し杭することになります。上部工の形式は元の橋と同じ鋼3径間連続鈑桁です。まずは現在の上部工の撤去から始めていきますが、撤去は仮桟橋をつくり、横の桟橋から床版をすべて撤去していきます。
俵山大橋の現況
橋台部の損傷/桁の横移動(支承位置に注目)
上部工の撤去・架設は、橋梁下にベント設置が困難なため、ケーブルで吊っていくしかないので、ケーブルクレーンを設置して撤去・架設していきます。そのために、ボーリングで施工方法に応じた地質調査をしなければならないので、施工計画に時間がかかっています。ただ、すべての橋梁の復旧工事もトンネルと同じ状況で、実際、現場に入り、足場をかけて見たら、さらに損傷を発見する場合や現場条件により復旧方法を追加したり、施工計画の変更を余儀なくされるケースもあります。俵山大橋についても現場をみながら、施工業者が入った時にさらに検討していくことになります。例えば、取替える桁をどうやって運ぶのか、起終点のどちら側から運ぶのか。また、現場まで進入するトレーラが運搬する桁の1ブロックの長さも変わってきますし、分割すればそれだけ手間もかかることになります。
――そのような状況ですと、時間を節約するためにも鋼床版にするしかないのでしょうか。当初の形式は、鈑桁のRC床版ですよね。
辻 鋼床版だと1ブロックの大きさが大きくなるため、搬入が難しいので、まず桁をかけてから床版を現場打ちで打設するRC床版が妥当と考えます。詳細についてはこれから検討していきます。
――扇の坂橋はどの様な状況でしょうか
辻 上部工のズレや下部工のひび割れなどの損傷が生じていますが、ほかの橋梁に比べればダメージは、まだ少ない方です。現在、支承の取替えなどを施工中です。
大切畑大橋 支承は全部取替え
曲線桁のため微調整をどう行うかが課題
――大切畑大橋は
辻 上部工の横ずれ、また橋台部では段差が発生しています。支承も損傷しており、すべて取替えとなります。下部工はひび割れ等の損傷に対し、中間の橋脚部の増し杭を行い、橋脚の増厚も行います。上部工の横ずれに対しては、移動し元に戻しますが、橋長265mの曲線橋ということもあり、微調整をどのように行っていくかが難しくなっています。また上部工も桁の損傷が一部見られますので、手当てをしていきます。
上部工は鉄板以外変わっていない
――大切畑大橋の現況は
辻 現在、増杭を行っています。河川と村道の付替えもあるので、足元を整えてから上部工の補修を行います。
増杭などを施工中