現場ニーズに合わせた仕様を提供
ECFストランド PC橋の高耐久性化に寄与
京都大学大学院
特任教授
宮川 豊章 氏
従来の断面を変更せずにPC構造物を高耐久化
「エポキシ被覆+グラウト+ポリエチレンシース」の多重防食
――新しいECFストランドをどのような箇所や条件で使うことを期待していますか
宮川 現場のニーズがあったから新製品をつくったわけで、まずは現場で使いやすいことが一番だと考えています。サイズが豊富になったことで、PC橋梁分野のあらゆる部位での使用が可能になると同時に、従来の上部工断面や下部工・基礎工を変更することなく塩害や凍害に対して高耐久化を図ることが容易となっています。
高強度品の15.7mmは、マルチケーブルとしてストランドを多数本束ねて大容量ケーブルとして適用が可能ですので、高強度のメリットを生かせるあらゆる構造物での使用を期待しています。上部構造の軽量化を図ることで、下部構造、基礎構造をスリム化できコスト低減も見込まれると考えています。使用を想定している箇所は、おもに外ケーブルや橋軸方向内ケーブルです。
横締め用の太径品17.8mmから21.8mmとプレテンション用の細径品9.3mmは、東北地整管内などの凍害・塩害対策地域において長寿命化を図る目的でLCC低減に寄与できる構造物が対象になると考えています。内ケーブルに使用するケースでは、従来の「グラウト+鋼製シース」から「エポキシ被覆+グラウト+ポリエチレンシース」の多重防食となるので、信頼性が極めて高くなります。
横締め用ECFストランドの施工/完了後の写真
低リラクセーション品の12.7mmと15.2mmは、プレテンション用や内ケーブル、外ケーブルの橋軸方向への使用を想定しています。
リスクヘッジにもなる
矢部川大橋や大沢第3橋などで実績
――基本的には塩害対策という認識でいいのでしょうか
宮川 塩害対策だけではありません。外ケーブルの場合、定着後に部分的にグラウトがありますが、自由長部がむき出しになっているので、グラウトをしなくていい省力化にもなっています。ECFストランドだけで、高耐久となっているわけです。施工不良でなくても、グラウトホースが出てくる箇所など、施工上のリスクがPC橋にあります。したがって、リスクヘッジにもなります。
――新製品はすでに使われているのでしょうか
宮川 九州地整の矢部川大橋、東北地整の大沢第3橋をはじめ、約70件の実績があります。それらの実績をきちんと調査をして、まとめたのが今回の成果となります。メーカーの自主規格ではなく、きちんとオーソライズされたもののほうが各企業さんも使いやすいし、発注側も客観的なものとして評価しやすいと考えています。
矢部川大橋
ECFストランドの適用状況(矢部川大橋)
適用事例:大沢第3橋
施工実績概要および防食仕様の種類(「新しい内部充てん型エポキシ樹脂被覆PC鋼より線「ECFストランド」に関する技術評価報告書」より抜粋、以下実績表も同)
ICも従来品と同等レベルに
ケーブル架設工にかかる施工日数が半分になる、など
――新製品によってコストはどのように変わりますでしょうか。ストランド自体のイニシャルコスト(IC)とLCCや、PC橋全体でのIC、LCCは
宮川 良いものは高いため、イニシャルコストは高くなるが、LCCでは安くなるというのがこれまでの論理でした。しかし、新製品ではICも従来品と同等レベルにできるという検討結果が出ているようです。私自身が委員会の中で検討したわけではなく、NEXCOさんを中心に検討した結果からとなりますが、シースの融着接続・架設やグラウトの省略によりケーブル架設工にかかる施工日数が約半分になる、高強度であるから鋼材を減らせるなどの効果があり、ICは、同等以下にすることができると考えています。LCCは当然安くなります。ICもLCCも非常に競争力を持っていることになりますので、現場としても非常に受け入れやすくなるでしょう。
――従来のECFストランドはICが裸鋼材と比較してある程度コストが上がったが、新しいECFストランドと従来品を比べるとどうなりますか
宮川 新しい高強度のものを使用しても横締めに使うサイズのものは、従来の19本より線で裸のものと荷重は変わっておらず、ICは従来品と大きく変わることはありません。高強度品の15.7mmを橋軸方向に使う場合は、上部工の断面変更や、下部工や基礎の規模を変更することが大胆にできるので、ICが下がるケースがあります。
また、現場において被覆PC鋼材を使うと、シースをポリエチレンシースに変えるので床版の断面を増やさないと配置できず、下部工ができ上がっている状態では死荷重が増加するため工夫できない、という声がありました。高強度を使用すると外径を抑えることができて、床版の厚さや断面を変えることなく、高耐久被覆鋼材にできます。
――外径的にいうと15.7mmの前は17.8mmから21.8mmだったわけですか
宮川 15.7mmを横締めに使うことはかなりレアケースで、17.8mmから21.8mmの19本よりエポキシ樹脂でないものが横締めで使用されていました。裸鋼材のときはセットになっていたのが鋼製のシースですが、被覆鋼材を使用する場合、シースもポリエチレンシースを使わなければならないのでシースの径が太くなって、いままでの断面に入らなくなっていました。これを新しい高強度品にすれば、同じ荷重が出て、断面を変えなくても収めることができるので、外径を小さくすることができます。
――たとえばいま下部工が完了している橋梁でも、上部工の凍結防止剤対策のため、工夫したいと考えた時、新しいECFストランドによって、設計時のシース径のまま高強度にして、グレードアップできるということですね
宮川 そうです。さらに、橋梁の新設でさまざまな条件があって、桁断面厚を小さくしたい場合に、苦労することなく設計変更できることが大きい。裸仕様や従来品の12.7mmと15.2mmと比べると、新しいECFストランドは最初からさまざまな桁高に反映できるから、設計に自由度が生まれます。
――ECFストランドの市場規模は。PC建協の売上が年間約3,000億円と言われていますが、そのなかで占める割合は
宮川 3,000億円のなかで新設の割合が8割ぐらいとすると2,400億円。昔、PC鋼材の発注金額が3%くらいと言われていたので、72億円。そのなかでECFストランドの割合は1割程度でしょうか。ECFストランドをもっと使ってほしいという思いがあります。その意味では先ほど申し上げたICとLCCが非常に重要だと思います。とくにICが安くなければ、採用はされません。プレテンションでは裸線が主流になっています。PC床版の取替えでも基本は裸線の設計になっています。
――NEXCO各社の大規模更新では、現場の交通量を鑑みて、半断面床版取替え工法で行う箇所も今後出てくる可能性があります。そうした現場でも使えそうですね
宮川 一般に横締めは路面に近いため損傷し易い傾向にあります。凍結防止剤を多量に散布する箇所等、条件が厳しいところは鋼材そのものを防食しなければならないと思います。
適用例:布川大橋(東北中央自動車道)
適用例:牧田第二跨道橋
――アウトケーブルの補強などにも使用するのでしょうか
宮川 使用します。
特に曲げ配置のあるケーブルについては、エポキシ樹脂は非常に耐久性が優れています。曲げ配置ですと腹圧でフレッチング疲労が生じますが、補強工法のケーブルでそれが問題にされないのは疑問に思っています。
――施工性はどのように変わりますか。ストランドの設置工だけでなく、PC橋全体の施工性の変わり方も含めて教えてください
宮川 これまでと同じような施工ができるため、施工性は変わらないと考えています。従来のECFストランドと同じように使えて、耐久性が良くなる形です。
ただ、PC橋梁の構造そのものには少なからぬ影響があると考えています。高強度ECFストランドにより大スパンの多径間連続ラーメンなどを実現しやすい環境が整い、設計段階から新しいECFストランドを考慮することで、PC橋全体の施工性向上、使用範囲の拡大につながります。
――コンクリートの付着性は従来品と同じでしょうか
宮川 変わりません。
――今後の展開は
宮川 種類が豊富になったことにより、凍害・塩害対策地域での使用や、高強度品のメリットを生かした構造物への適用などを中心に、ますます拡大していくことを期待しています。また、発注者やコントラクターの要望に応えられるように、さらなる品質向上や新製品開発を期待したいと思います。
――ありがとうございました