床版取替でグループ会社との連携を強化
IHIインフラ建設 社長インタビュー 橋梁部門保全分野へのシフトを加速
株式会社IHIインフラ建設
代表取締役社長
徳山 貴信 氏
従来RC床版の約66%の重量となる
スーパーHSLスラブを開発
――技術開発への取り組みは
徳山 研究・開発分野に人やお金といった経営資源を十分に割り振ることがまだできていません。徐々に強化しなければならないと思っていますが、現段階では課題となっています。
新製品としては、スーパーHSLスラブ(SHSL)があります。HSLスラブは従来のRC床版の約76%の重量ですが、SHSLは約66%と、さらに軽量化を進めました。都市高速道路などで床版取替の際に下部への負担をさらに軽減したい場合に、SHSLを使って欲しいと考えていて、現在マニュアルを整備している段階です。
スーパーHSLスラブ構造
各床版比較表
また、床版取替機の開発もしています。通常、撤去した床版はクレーンで吊ってトラックに載せていますが、横移動をする門型クレーンを設置して撤去した床版を移動させるというものです。同様のものはこれまでにもありましたが、その改良型となります。基本的に効率はあまり変わりませんが、従来のクレーン作業より安くできます。試験運転についてはすでに実施済みです。
開発中の床版取替機<改良型>イメージ
新技術ではありませんが、仮橋としても使用できる組立型橋梁「TRIAS(トライアス)」は、緊急対応よりも河川上に杭が増やせない条件化での桟橋利用にメリットがあると思います。提案営業を進めるとともに技術革新も必要です。組み立て時間を短縮できないか社内に検討を伝えています。目標を立てるなら半減です。
TRIASの桟橋利用(宮崎市 小戸之橋)
IIS・海外工場と連携して
海外橋梁建設事業の一翼を担う
――床版取替でグループ連携を進めていますが、グループ各社とのシナジー創出ではほかにどのようなものを考えていますか
徳山 IHIにはとても優秀な技術者がたくさんいますし、立派な関係会社もあります。いま、注目しているのはICTやIoTです。IHIの力を借りないと単独では難しいと思っていて、今年度は積極的に対話を進めていきます。IHIでは診断・保守の共通プラットフォーム「ILIPS(アイリップス)」(※1)を展開していますが、それを活用してお客様にさまざまなサービスや情報を提供できるのではないかと考えています。
水門の点検業務の省力化にもICTを使うことを検討しています。点検後に手作業で報告書を作成していたものを現場で端末にデータを入れて半完成形にするという構想です。このようなICTの適用においてIHIと連携していきます。
IHIインフラシステム(IIS)とは、これから補修や点検に使える新しい技術を一緒に研究していきます。また、グループ会社にさまざまな非破壊検査などの技術に長けているIHI検査計測(IIC)という会社があり、非破壊あるいはセンサーを活用した技術開発を共同で行うことも検討していきます。
IHIは4月1日に組織改訂を行い、セクター制から事業領域制に変わりました。事業領域のなかで選択と集中を行い、各事業領域には事業遂行組織として「SBU」(Strategic Business Unit)が配置されています。そのSBUのひとつに「橋梁・水門SBU」があり、IISの傘下として弊社が入っており、その他にベトナムやミャンマーにある工場も入っています。それらの工場と連携しながら海外の工事を受注していくことが命題になっていますので、IISと協力して取り組んでいきます。喫緊の課題としては、I&Hエンジニアリング(※2)が5月に建設したミャンマーのコンクリート製品製造工場を支援することがあります。工場ではスパンパイル(PC杭)の量産化とプレキャストのPC橋桁などの製造を行い、ミャンマー国内のPC橋梁の建設に携われるように活動をしていきます。日本国内の新設が減少するなか、海外受注を増やすことがSBUとしての重要な戦略となりますし、技術をつなぐ意味でも大事だと考えています。
(※1)ILIPS(IHI group Lifecycle Partner System)は、製品の稼働情報をはじめとしたライフサイクル全般にわたる各種情報をクラウド上に蓄積し、データ解析技術とAI技術を用いて、故障予兆診断や予防保全などの保守メニューを提供するサービス。
(※2)I&Hエンジニアリングは、IHIのグループ会社でアジア太平洋地域統括会社のIHI ASIA PACIFIC(IHIAP)と、ミャンマー連邦共和国建設省道路局(DOH)との合弁会社。株主比率は、IHIAP 60%、DOH 40%。
――現在施工中の特徴的な現場を教えてください
徳山 東京都の隅田川に架かる吾妻橋でアーチリブ交換を施工します。弊社ではやったことがない新技術で、交通規制を行わずに交換を行います。また、東名高速道路の相模川橋で支承交換を行います。交換自体は珍しくありませんが、大きな支承なうえに搬入路が一箇所しかないので、河川敷から引き上げて足場上に取り込みレールによって縦取りをし、そのあと横移動をさせるという大規模な設備を構えています。
相模川での支承交換
――阿蘇大橋の架け替え工事をJVで受注しましたが、現況はいかがでしょうか
徳山 上部工の施工を担当します。工程が3年と非常に短いですが、現場に入るのが少し遅れそうです。当初設計にはなかった歩道がつくことになりました。条件変更が出て大変ですが、基本的には上部工はワーゲンの大型化だけなので、技術的に難しいことはないと思っています。ただ、歩道が追加されたことで少し重量がかさみ、ネックになる可能性もあります。現在、JVの親である大成建設さんが全体を見直しています。
――ありがとうございました