市内の重要橋の床版防水は
塗膜防水とエポキシ系の浸透系防水の複合防水
――札幌市が管理する橋梁の桁や床版について、どのような損傷がありますか。また、床版防水の有無で床版の損傷度がかなり変わってくると思いますので、床版防水の施工状況や施工方針、今後採用する工法などがありましたら教えてください
渡辺 札幌市においても凍害による、コンクリートのスケーリングやポップアウトなどが発生しています。長寿命化修繕計画を策定するときに外部の検討委員会で床版防水について議論をしてもらいました。その結果、JRや高速道路、豊平川を跨ぐ重要な橋梁については、通常の塗膜防水に加えて、アクリル系もしくはエポキシ系による浸透系防水を施す複合防水としました。それ以外の橋梁については、塗膜防水で施工しています。
――防水の前工程で行っていることは
渡辺 既設舗装切削の後、回転研磨機やショットブラストにより研掃をかけています。
――道内の他発注機関では、アクリル系の複合防水工法を採用しているところも多いですが、札幌市の防水工はほぼエポキシ系を採用しています。それを採用した理由は
渡辺 北海道土木技術会の鋼道路橋設計・施工指針に掲載されている規格値を満たすもので安価な材料であるエポキシ系を採用しています。
床版防水工(複合防水)一覧(下記写真)
研掃
浸透系防水塗布
珪砂散布
塗膜系防水塗布
施工後
――今年度に支承や伸縮装置の取替えは予定されていますか
渡辺 支承の取替え予定はありません。伸縮装置の取替えは今年度に22橋を予定していて、止水ジョイントとなります。伸縮装置を補修する橋梁は、ほぼ取り替えています。
――雪氷が多い地域ですと止水ジョイントで、積雪荷重のため止水部分だけ損傷する場合があります。東北地方の一部の発注機関では、積雪荷重の計算をして、フェイルセーフを行うケースがありますが、札幌市でもそのような検討をされていますか
渡辺 当然ながら、使用する製品については設計時に比較検討をしています。ただ、雪荷重まではやっていません。
――塩害やアルカリ骨材反応の対策については
渡辺 昨年、南22条大橋でアルカリシリカ反応の補修を行いました。橋台の胸壁と翼壁の部分に露出面から深さ30センチ程度の範囲で表面および内部にひび割れが生じて、脆弱になっていました。また、骨材周辺には白色生成物が形成されていて、アルカリシリカ反応の状況でした。対策としては、脆弱になっていた30センチ部分を混合セメント(高炉B種)で打ち換えを行いました。アルカリシリカ反応は30センチで止まっていて、内部に入っていませんでしたので原因は特定できませんでしたが、凍結融解との複合劣化だと思います。
――このような事象が起きると、骨材を採取した場所を調べます。南22条大橋の竣工年は1961年で、下部工は50年代後半に施工されたと思うのですが、骨材自体に問題があったと考えられないでしょうか。またその年代につくられたほかの橋梁の調査は
渡辺 海砂をつかうという土地柄でもありませんし、当時は山砂が多かったと思います。ほかの橋梁の調査はしていませんが、南22条大橋以外では複合劣化は確認できていません。
南22条大橋修復
ASR劣化状況-1
ASR劣化状況-2(採取コア全景)
ASR劣化状況
●ひび割れの一部に白色生成物が認められる(大きなひび割れは生成物が切断時に流出した可能性がある)。程度が大きなASRの典型的な状況である。下部の灰色の流紋岩は大きなひび割れのほかに細かいひび割れが発達しているが、ASRのみではなく凍結融解などほかの原因による劣化の可能性も考えられる。
コンクリート取壊完了
コンクリート打設状況
塗替え時の鉛対策は囲い込みでのブラスト
PCB含有塗膜はインバイロワンで除去
――鋼橋の塗替え実績と予定について教えてください
渡辺 28年度の実績は12橋22,200平方メートル、29年度は23橋41,000平方メートルを予定しています。長寿命化修繕計画のなかで行っておりますので、対象の橋梁はほぼすべて塗替えになると考えています。
水穂大橋(鋼橋)塗り替え施工
吊足場
塗装工 施工前 塗装工 完了
ブラスト完了
――26年5月30日に厚労省および国交省から出た「鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落としにおける労働者の健康障害防止について」文書で、各自治体ともに塗替えの困難さが増していて、さまざまな対策を行っています。札幌市ではどのように行っていますか
渡辺 環境対応型塗膜剥離剤「インバイロワン」を用いて、PCBを含む既存塗膜の除去を行っています。インバイロワンではく離除去をしたものを、市内の保管所に運搬後、最終的にはPCBのみを秋田県にある民間無害化処理施設で焼却処分しています。
塗膜はく離状況(インバイロワン) 下地調整
塗装塗替え(2層目) 塗装塗替え(上塗り)
札幌市内のPCB保管所
――鉛に対しても同じくインバイロワンでしょうか
渡辺 鉛は、囲い込みをした上でブラストでの除去となります。
――ブラストはどういうやり方でかけているのでしょうか。通常の方法と、循環式があります
渡辺 札幌市としては循環型のブラスト工法をとくに指定していませんが、実際に使っている現場はあります。
――基本的には防護対策を行って、ブラストをかけているということですね。鉛でも処理費がかかってきます。自治体によっては処理費と安全設備のコストを勘案して、想定面積を超えた場合はブラストで行い、それ以下の場合ははく離剤と2種ケレンで行うところもあります。札幌市ではどうでしょうか
渡辺 基本的にはブラストのみです。
――札幌市では、ブラストにおける施工基準や仕様を作成して業者に提示しているのでしょうか。PCBは確固とした基準がありますが、鉛に関しては各自治体でとくに苦慮していますので参考にできれば
渡辺 特記仕様書では示しています。各自治体ともに明確な基準が示されていなくて、安全だと思われるものを随時選択するということになっていました。