3月中旬に首都高速横浜北線が開通した横浜市内の高速道路。現在は2020年の東京五輪までの供用を目指し、北西線の建設も急ピッチで進めている。一方で、橋梁など道路構造物の老朽化は現在こそ20%程度であるが、25年後には80%程度まで拡大する見込みで、対策は待ったなしの状況だ。建設上のトピックスや構造物の特徴、維持管理上の課題について横浜市道路局の中島泰雄局長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
北西線は東京五輪前の完成供用目指す
延焼遮断帯の形成に資する幹線道路の整備進める
――まず横浜市の道路事業の概要から
中島局長 横浜市の都市の骨格となる高速道路の整備を最優先課題として進めています。湾岸部においては、首都高速道路を中心とした高速道路網が整備されていますが、北部の内陸地域にはそうした道路がありませんでした。3月に開通した首都高速道路横羽線の生麦JCTと第三京浜道路の港北JCTを結ぶ横浜環状北線は、内陸部の高速道路として大きく要望されてきたもので、これが供用されたことで内陸部と湾岸部のアクセスは飛躍的に向上しました。また、港北IC・JCT~東名高速道路横浜青葉IC・JCTを結ぶ横浜環状北西線についても工事に着手しており、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの供用に向けて橋梁やトンネルの施工を進めています。横浜環状南線については、国やNEXCOに整備をお願いしており、横浜市は用地取得という形で携わっています。同事業区間における用地取得率は97%にまで達しており、2020年度の開通目指して、全線で工事が進捗中です。
次の課題は都市計画道路を中心とした道路網の整備が未だ道半ばであるということです。横浜市は戦後、米軍の占領下にあり、その後も急速な人口増のため、まず、学校などの施設が優先的に建設され、都市計画道路の整備は若干後回しにされた傾向があります。坂も多く、急速に密集した市街地化、宅地化が進行したことから、狭隘で歩道がなく安全面での課題が拭いきれない箇所も少なくありません。生活道路の安全性の確保は喫緊の課題と言えます。一方、横浜市の都市計画道路整備率は68.1%(2015年度末)と政令市および東京23区を含めた21の大都市中19位と最低水準にあります。また、市街化区域における都市計画道路の計画密度は1.66km/km²と21大都市中最下位です。加えて幹線道路の交通量は約3.5万台と全国平均・大都市平均を大幅に超えています。朝夕混雑時の旅行速度は20km/hとこれも全国平均の34.9km/hを大きく下回っています。こうした状況は経済や環境への阻害要因となっており、改善が必要です。
市街化区域における都市計画道路の計画密度は1.66km/km²と21大都市中最下位 (横浜市提供資料、以後特に注釈ない場合は同)
横浜市の平均交通量、混雑度、旅行速度
3番目の課題は防災面です。木造住宅密集市街地は災害時に火災が発生した場合、甚大な被害を生じます。そうした事態を防ぐことや消防・救急車など緊急車両が入りやすくするためにも、延焼遮断帯の形成に資する幹線道路の整備を進めていきます。合わせて橋梁の耐震補強や老朽橋の架け替え、歩道橋の耐震補強、無電柱化の推進、路面下空洞調査の実施なども行っていきます。また防災・安全対策上の大きな事業として、相鉄本線(星川~天王町駅)連立事業の2018年度高架化に向けた事業費および相鉄本線(鶴ヶ峰駅周辺)連続立体交差事業の調査費確保も合わせて国にお願いしています。
最後の課題は構造物の老朽化です。横浜市も他の機関と同様の課題として認識しています。橋梁を例に挙げますと、現在、市が管理する1,700橋余りのうち、50年以上経過した橋梁の数は20%に過ぎませんが、25年後にはこれが80%に達します。予算の平準化や必要な予算を確保する必要があります。
北西線 2016年度末の工事進捗率は約30%
東方・川向、川向地区は鋼製橋脚の架設に着手
――新設事業について、横浜環状北西線からお願いします
中島 同線は東名高速の横浜青葉ICと第三京浜道路の港北ICを結ぶ延長約7.1kmの高速道路事業です。延長7.1kmのうち4.1kmをトンネルが占め、橋梁、掘割構造も合わせると構造物延長は6.6kmに達します。先に話した通り、東京オリンピック・パラリンピックまでの供用を目指しており、16年度末時点で工事進捗率は30%に達しています。
横浜環状北西線位置図および縦断図/同断面図(横浜市道路局WEB公開資料より抜粋)
――具体的に構造物の進捗状況を教えてください
中島 橋梁から申し上げますと、大きく分けて4つの工区で工事が進んでいます。まず、東方・川向地区橋梁から申し上げます。同橋は東方町の交差点から川向町の方向に建設を進めている鋼7径間連続細幅箱桁橋(外回り線が440.9m、幅員9.7~12.2m、内回り線が448.5m、幅員9.7~16.7m)です。下部工形式は鋼製橋脚5基、張出し式RC橋脚3基、逆T式橋台2基となっています。現在は下部工の施工中で、上部工は工場製作中です。建設費は約57億円の予定で、鋼製橋脚と上部工の施工は宮地・古河JVが担当しています。(設計はオリエンタルコンサルタンツ)
東方・川向地区橋梁概要
次に川向地区橋梁(その1)工事です。同橋は東方・川向地区橋梁から南に隣接する箇所に建設を進めているものです。上部工形式は鋼3径間連続細幅箱桁(外:橋長160m、幅員9.7m、内およびEランプ:橋長160m、幅員16.7~22,4m)、下部工形式は鋼製2層門型ラーメン橋脚4基です。下部工のフーチングを打設中で、鋼製橋脚、鋼上部工は工場製作中です。建設費は約47億円の予定で、こちらも鋼製橋脚と上部工の施工は宮地・古河JVが担当しています。(設計は首都高速道路)
川向地区橋梁概要
さらに南につながる川向地区橋梁(その2)工事は、外回り線、内回り線が鋼3径間連続細幅箱桁橋(橋長237m、幅員9.7~11.7m)でEランプ橋のみ鋼3径間連続箱桁橋(橋長237m、幅員7.2m)です。下部工は鋼製2層門型ラーメン橋脚3基を予定しています。下部工のフーチングを打設中で、鋼製橋脚、鋼上部工は工場製作中です。建設費は約46億円で、鋼製橋脚と上部工の施工は横河・IHIJVが担当しています。(設計は首都高速道路)
下谷本地区は2017年度から上部工架設へ
次に横浜青葉IC側の下谷本地区で5本の橋梁を建設中です(下表)。ここについては、下部工の施工は概ね完了しており、上部工の桁を製作中です。17年度から桁架設に順次入っていきます。約80億円を予定しています。上部工の施工は宮地・古河JVが担当しています。(設計は首都高速道路)
下谷元地区橋梁一覧と橋梁概要
東方・川向地区橋梁部進捗状況
川向地区橋梁(その1)工事(左)、川向地区橋梁(その2)工事の進捗状況
下谷本地区の橋梁工事進捗状況
トンネル 横浜市は内回りを担当
延長3.9km 約1,800tのシールドマシンで掘削
――事業区間の半分以上を占めるトンネルについて
中島 シールドの発進側に位置する北八朔地区の開削トンネルは立坑も含めて全て完了しています。形式は3連1層のボックスカルバートで延長122.8m、立坑31.5m、幅は30.6~31.3mとなっています。シールド到達側に位置する東方地区開削トンネルは延長20+39m、立坑22.8m、幅32.3mの3連2層+3連1層のRCボックスカルバートです。現在は底版コンクリートの打設を進めています。
北八朔地区開削トンネル及び立坑部概要/北西線トンネル一覧
東方地区開削トンネル概要
北八朔地区開削トンネル及び立坑部進捗状況
東方地区開削トンネル進捗状況
メインとなるシールドトンネルは、内回りトンネルは横浜市が工事発注し、外回りトンネルは市から首都高に工事を委託して施工します。外径12.4m、内径11.5m、延長3.9km、トンネル厚さ0.45mのシールドトンネルを外径12.6m、機長約13m、重量約1,800tのシールド機を用いた泥水式シールド工法(高比重、高粘性の泥水で切羽を加圧制御することによって高水圧下でも切羽を安定させて施工できる)によって掘削していきます。現在は発進側立坑へ据え付けを完了した状態です。シールドトンネルの建設費は約410億円を予定しています。市発注の工事は安藤ハザマ・岩田地崎・土志田・宮本土木JVが担当しています。
シールドマシンとその先端部(井手迫瑞樹撮影)
――橋梁の床版形式は
中島 東方・川向地区、東方地区の橋梁では合成床版を、下谷本地区の橋梁ではPC床版を採用しています。