特殊高所技術を活用
復旧事業推進組織も創設
――こうした損傷状況を把握するに当たっては、適切な足場を造ることも困難なため、特殊高所技術という特殊な技術を活用して点検に当たったと聞いています。
森田 確かに足場を設置することは現実的ではありませんでしたので、主桁や橋脚、桑鶴大橋でいけば主塔にロープを使ってぶら下がり、移動をしながら損傷の有無並びに損傷の状態を近接目視で確認しました。
――復旧事業を迅速に推進していくために、専門部隊もつくりました。
森田 16年7月1日に九州地方整備局に熊本地震災害対策推進室という組織ができました。その分室が熊本河川国道事務所にもあります。九州の他の事務所から約30名に来てもらっています。
――そんなにいるのですか。ひとつの事務所ですね。
森田 私どもの事務所はもともと約160名の組織ですから、現在は200名くらいの体制でやっているわけです。
また、県道ではありますが、国道57号の迂回路となっているミルクロードの渋滞対策や冬期交通対策を県と一緒にやっています。
――国土交通省はミルクロードの管理も行っているのですか。
森田 日々の管理は県が実施しています。ただ、国道57号の迂回路となって、もともと1日3000~4000台の通行量だったのが、現在は約2万台走っています。私どもとしても、その2万台の交通を円滑に流さないといけないわけで、二重峠交差点への左折レーンの設置や待避所(降雪時のチェーン着脱場所、Uターン場所)の整備、道路監視カメラ道路照明灯の整備等を進めています。
ミルクロードの管理/左折レーンの設置
リダンダンシー確保が重要
――ミルクロードとグリーンロードは、今回の地震では、交通の生命線となりました。本当にふたつ以上の道路をつくっておいてよかった。もしなければ、熊本都市圏から阿蘇方面に行くのに、大分側か宮崎側からしか行けなくなっていました。
森田 阿蘇にお住まいの方々からは、道路が渋滞するし、救急車などの緊急車両による搬送も大変だ、と多くの指摘をいただいています。国道57号が復旧できるまでの間はミルクロードを迂回路として活用してもらわなければならないわけですから、我々も一生懸命迂回路の交通環境整備に取り組んでいます。
――今回の震災を踏まえて、今後どのように耐震対策を進めていくのかをお聞きしたいと思います。熊本河川国道事務所さんでは、段差防止工の事業を跨線橋や跨道橋を中心に何橋かでやっています。平成24年道路橋示方書・同解説(道示)では対応すべき対策ですけど、対応していない橋梁がほとんどです。これは非常に大きいことで、いい取り組みだと思います。
森田 既設橋の耐震対策はおっしゃる通りとても重要な課題ですが、今回の熊本地震で私が認識せざるを得なかった最大の課題は、幹線道路のリダンダンシーの確保。熊本県内の幹線道路は、東西軸も南北軸も交通ネットワークという意味では貧弱で、多重化がされていないことが、今回の地震で顕在化してしまったという思いがあります。熊本県内の中九州横断道路はまったくできていませんし、九州横断自動車道・延岡線もまだ一部区間(約2km)が供用した程度です。国道57号の大規模斜面崩壊で東西軸は完全にストップしましたし、九州縦貫道が止まって、国道3号をふくめた南北軸も大混乱しました。1つの路線だけに頼っていると、何か問題が発生して当該路線が機能しなくなった場合、物流も人流もマヒしてしまう。こうしたことを避けるためにネットワークの多重化をすること――リダンダンシーがきちんと確保できるような幹線道路を整備することが喫緊の課題であると感じました。
また、既設橋の耐震対策については、緊急輸送道路の耐震補強3箇年プログラム策定以降、直轄国道では重点的に実施してきました。
――耐震補強については、実際は平成24年道示の前に、まだ平成8年道示ができていないところがけっこうあります。今回の地震で落橋した府領第一橋もそうですよね。ただ、今回の問題で大きかったのは、橋は落ちなかったけど、通行ができなくなった橋があまりにも多かったことです。それは課題として露呈したと思います。
森田 確かに、おっしゃるような課題も顕著化したと思います。そのような中で、直轄国道はやはり重要な幹線道路ですので、少しずつでも対応していきたと考えています。
――こうした事態に対応するため熊本河川国道事務所では託麻跨道橋など数箇所で背面処理工を施工していますね
森田 はい。今回の地震で発生した橋台背面の段差による通行止めの経験を踏まえ、急激な段差が発生するのを防止するための対策を行っています。こうしておくことで、今回のような大地震の際においても通行が確保できます。
詫麻跨道橋などで採用した段差防止工(背面処理)
段差処理後の交通