北側復旧ルートにも着手
トンネル施工は2017年度以降
――57号は立野と赤水を結んでいますが、現道をどうするか最終的にはどのように判断するのでしょうか。また、57号のバイパスルート工事にも取り掛かっています。
森田 現道を再構築できるかどうか、ボーリング調査をはじめ必要な調査・検討を進めています。
一方、国道57号北側復旧ルートは、用地取得がすんだところから工事を始めています。トンネル部についてですが、通常の事業ですと、設計が終わってから工事に入りますが、今回は設計と並行して工事の施工候補会社を決めて、その会社の技術力を取り込んで、発注者、設計者と施工候補会社の3者で設計をかためて工事を始めるというという手続きを進めています。
決定した国道57号北側復旧ルート(国土交通省九州地方整備局配布資料)
――設計施工一括発注ではない
森田 設計者は別にいます。施工会社に技術提案を求め、優れたところに優先交渉権者という権利を与えて、一緒にトンネルの詳細設計をかためています。
――北側復旧ルートの全長は約13kmで、トンネル部分は4km。すでに工事の一部に着手しているとのことでしたが、トンネルの工事着手はいつごろになりそうでしょうか。
森田 トンネルの工事着手は2017年度以降になります。現在は、先行してトンネル前後の工事用道路をつくるための工事を進めているところです。
――復旧ルートの道路構造としては切盛構造と、トンネルになるでしょうか。
森田 橋もあります。赤水地区は黒川が流れていて、水害の多いところでもあります。
熊本河川国道事務所が設計中あるいは設計を完了している橋梁一覧
――道路を少し上げて、水をかわすということですね。
森田 そうです。水が流れる場所はつくっておかなければならないので、そのような場所はやはり橋梁になります。
橋梁は跨道橋を除き11橋予定しています。一番長い橋梁は黒川避溢橋で444mの鋼3径間連続非合成鈑桁×4連の構造を予定しています。堀ヶ谷川渡河部でもPC3径間連続ラーメン箱桁橋を予定しています。
――非常にスムーズに復旧ルートが決まったので、よかったなと感じました。完成までには何年くらいかかりそうですか。
森田 災害復旧事業ですから、地元の市長さんや町長さんも全面的に協力してくれました。いつ完成なのかは、まだ用地取得がすんでいませんから、なんとも言えません。
――地図で斜面崩壊が起きている箇所をみると、復旧ルートもそれを避けていくしかないですね。57号では、平成24年7月九州北部豪雨のときに滝室坂で法面崩壊が起こり、まだ残っています。
森田 外輪山の地質は脆弱です。大雨が降るたびに崩れています。今回は、大地震によって山が大きく揺さぶられたうえに、6月の豪雨ですから、国道57号周辺において非常に多くの箇所で斜面崩壊が発生しています。
阿蘇大橋 600m下流に架替え
長陽大橋を評価 PC3径間連続ラーメン箱桁に
――国道325号の阿蘇大橋の現況について教えてください。
森田 落橋した阿蘇大橋をどこに架け替えるかというのが、一番難しい課題でした。これについては、有識者委員会を立ち上げて、地質や断層、橋梁構造に関する助言を専門の方々にいただくことで、下流側に架け替えるということに決定しました。
――何mぐらい下流になるのでしょう。
森田 約600mです。元の橋より南側で、1kmくらいのルートで架け替えます。黒川の渡河部で約350m、形式はPC3径間連続ラーメン箱桁の橋梁となる予定です。形式は長陽大橋と同じです。
阿蘇大橋の架橋イメージ
阿蘇大橋の概要
――形式については、長陽大橋の損傷が少なったことも採用理由のひとつになったと聞きました。
森田 そのことも含め、委員会で議論していただいた結果です。委員会では、ボーリング調査をはじめとした各種調査結果に基づき、安全性、施工性、景観性等の観点から、架け替え位置や橋梁形式の選定に関する検討が行われました。
本体はもった阿蘇長陽大橋
――中央で自立する構造ですね。
森田 将来の地震で地盤変状が生じた場合でも橋の崩壊に至りにくい構造形式、推定活断層の位置を避けた下部構造の配置、工期の短い橋梁形式、観光の玄関口としての景観性への配慮といったことが、橋梁形式選定のポイントになりました。
また、元の阿蘇大橋を利用していた交通の約7割が熊本都市圏から南阿蘇村の役場、あるいは高森町に行く交通でしたので、元の橋の上流側にかけても利便性の悪いものになります。そのようなことも全部合わせて委員会でご検討をいただき、架け替え位置と構造形式が決まりました。現在は、下部工を立ち上げるための斜面切り工事を始めています。
――57号側(右岸)ですか。
森田 両岸の斜面切り工事を発注済みです。
――本体部の施工業者はいつ決まりますか。
森田 阿蘇大橋の本体工事(上下部一体)は、現在、入札契約手続き中で、今年度中に決定する予定です。
阿蘇大橋架け替え工事進捗状況(熊本河川国道事務所公開資料より抜粋)
ピア高は約100m
長陽ルートは今夏に復旧
――新しい橋は橋脚がすごく高くなりそうですね。
森田 約100mとなる予定です。
――そうなると、日本でも有数の高さの橋脚となります。現在、東海北陸道の鷲見橋が118mで日本一の高さですけど、それに匹敵します。橋脚が100mあって、上部がPCということはけっこう重くなる。そうすると基礎も相当考えないとなりません。新しい橋の完成イメージ図を見ると、橋脚1本を黒川の底部に建てるようになっていますが、そこが固い地盤であることはわかっているのですね。
森田 川底は岩盤で、基礎地盤としては良好なものになっています。従って、そういう前提で設計をしています。
――重い橋脚、上部工でも大丈夫だということですね。また、完成イメージ図では左岸側にアプローチがついています。
森田 右岸(57号側)と左岸(325号側)では、高さが約40m違います。4%ぐらいの道路縦断勾配で擦り付けていきますから、斜面を切って高さの調整をしていきます。
――阿蘇大橋の架け替えも大きな工事になりますね。阿蘇長陽大橋や戸下大橋の現場取材をして、付近の住民の方から話を聞いたら、「とにかく立野に行けない、早くなんとかしてほしい」という要望がありました。阿蘇大橋についても同じような話を聞かれます。
森田 阿蘇大橋の完成目標はまだ言える段階ではありません。しかし、現実的に立野地区が南阿蘇村中心部から切り離されていて、コミュニティーの存続そのものが大きな課題になっていますから、地域の分断を少しでも早く解消すべく、長陽大橋ルートの応急復旧を今夏を目標に並行して進めています。
――戸下大橋が崩落している状況で、今年の夏というのはかなり高いハードルだと思います。
森田 工程的に見て厳しい目標ではありますが、立野ダム工事事務所が中心になって頑張ってくれています。
戸下大橋近傍を掘削中/立野側の5連ラーメン橋(熊本河川国道事務所公開資料より抜粋)
クリスマスイブに暫定開放
俵山トンネルルート ミニバイパスなどを通す
――直轄代行により災害復旧事業を進めていた俵山トンネルルートが昨年の12月24日に交通開放されました。いいクリスマスプレゼントになりましたね。
森田 現場はヒヤヒヤものでした。6月は天候が悪く、梅雨の大雨でさらに俵山トンネルルートの被害が拡大しました。工事は天候にも左右されるので、目標に間に合ってよかったです。
俵山トンネルルートのうち、起点側の袴野地区(西原村)は大きな迂回になり、民家をさけて田んぼの中に新しく道路をつくりました。桑鶴大橋はすぐ横に短いですけどミニバイパスを通しました。扇の坂橋と俵山大橋の修復には時間がかかるので、村道となっていた旧道を拡幅して使用して迂回させる形で、俵山トンネルにつなげました。
俵山ルートの復旧道路(国土交通省発表資料より抜粋)
――復旧道路とは思えない規模です。
森田 5月上旬から復旧工事を始めたので、なんとか昨年内に完成させることができました。しかし、施工規模の小さくない工事でしたから、工程的には大変厳しかったですね。
俵山トンネルの補修工事は、鹿島建設と杉本建設(地元)のJVでした。そのほかに5区間の災害復旧工事がありましたが、これらは全て地元建設会社のJVで実施してもらいました。それぞれがけっこうな工事量でした。
――震災直後、大切畑に行く道路も、路面が段々畑のようになっていて崩壊状態でした。どのように修復するのだろうと感じました。今後、国土交通省は期限代行でやっていくことになりますが、橋梁の架け替えは基本的にはないと考えていいでしょうか。既存の桁を使って、ジャッキアップして支承を取り替えるなど、そういう形で直していくことになると思いますが。
森田 俵山大橋は桁座屈しているところが一部あるので、そこは当然取り換えなければなりません。なお、今回被災した橋梁は6つありましたが、大きく損傷しているのは全部メタルの橋で、俵山大橋、扇の坂橋、桑鶴大橋、大切畑大橋の4橋です。一方PC橋は橋長の短いものが2つ被災しましたが、これらの修復は困難ではないと考えています。
地震直後の路面の崩壊状況
橋梁の修復時期は見通せず
――大切畑大橋は265m、桑鶴大橋は橋長的には160mで斜張橋形式です。現場を見ましたけど、(桑鶴大橋では)ケーブルはかなり撓んでいてとりかえざるを得ない状況でした。その鋼索もあったりする状況の中で、修復完了はだいたいいつごろになりますか。
森田 それぞれの橋ごとに損傷の状況が違いますから、なんとも言えません。架設の設計方法をつめているところも多いです。設計手法によっては時間がかかるものもありますが、既に施工業者は全て決まっています。
桁の横ずれ、遊間が大きく開いた大切畑大橋
大切畑ダム橋は大きな段差が生じていた
桑鶴大橋の損傷状況
――桑鶴大橋の少し先まで行きましたけど、非常に陥没も多かったです。
森田 地震による大規模路面陥没箇所もありましたが、今回の暫定開放にあたっては、法面の下からしっかりと積み上げて、復旧工事を完成させています。橋梁部だけは迂回していますが、基本的には路面陥没部は完全復旧となっています。
――工事を始めてから約半年でよくここまでこぎつけましたね。県が管理する橋梁では3mくらい沈下した橋脚や、橋台そのものが動いてしまったところもあったようが、権限代行をしている道路では確認されていないですか。
森田 沈下や大きなズレが生じた橋梁はありますが、検討中の俵山大橋を除き、新たに架け直さなければならない橋はありません。橋座からは落ちていますが、桁自体はそのまま横にスライドしている状態なので、利用可能であると考えています。これはやはりアンカーなどの落橋防止装置が効いて、ワイヤーケーブルは切れたけど、落橋までにはいたらなかったということだと考えています。
大切畑大橋の復旧状況/大切畑ダム橋の復旧状況(熊本河川国道事務所公開資料より抜粋)
すすきの原橋復旧状況/扇の原橋復旧状況(熊本河川国道事務所公開資料より抜粋)
桑鶴大橋の復旧状況(熊本河川国道事務所公開資料より抜粋)