斜面崩壊は長さ700m×幅200m
国道57号現道復旧のためには斜面安定化が不可欠
――災害復旧の序盤である4月下旬までの話をお聞きしましたが、その後、直轄代行という形で、阿蘇大橋と俵山トンネルルートの復旧事業をやることになりました。
森田 初動対応が完了すると、次に国道57号の大規模斜面崩壊箇所をどのように直すかということが事務所の最優先課題になりました。また、国道325号の阿蘇大橋の復旧を道路法の権限代行で国にお願いしたいという要望が、熊本県知事から国土交通大臣宛にありました。
そして更に、俵山トンネルルート(県道28号熊本高森線)と長陽大橋ルート(村道栃の木~立野線)の災害復旧事業を権限代行で国土交通省が実施することになりました。これは、東日本大震災をきっかけにできた大規模災害復興法のなかに、自治体の管理する施設について国が災害復旧事業を代行できるという規定がありますが、これを全国で初めて適用したものです。
国道57号の現道は、熊本都市圏から阿蘇市、南阿蘇村へ向かう交通が結節する一番大事なところで、大規模斜面崩壊が発生し、通行ができなくなってしまいました。
斜面崩壊の規模は、長さ約700m、幅200mとなります。国道57号は黒川の渓谷に沿って走っていますが、今回の地震で、約300mの区間が黒川に崩落しました。このあたり一帯、阿蘇の外輪山は「黒ボク土」と呼ばれる火山灰が積もった脆弱な地質であり、斜面崩壊箇所の上部には、いたるところに1mくらいのクラックが走っていましたから、非常に危険度の高い状況であった訳です。
斜面崩壊状況(熊本河川国道事務所提供資料より抜粋)
更に崩落箇所より熊本側にも、国道57号が4車線のうちの3車線が完全に黒川に崩落、残り1車線も路面にヒビが入って使えなくなっている箇所がありました。
こうした状況下において、この付近で大学生が行方不明になっていましたから、私どもはまず、崩壊現場先端までの工事用道路を新たにつくり、そして熊本県、警察、消防からの要請のもと、無人化機械(バックホー)を用いて国道57号上にある崩壊土砂の排出作業を行うという形で、捜索活動の支援をさせていただきました。
そして、国道57号や並行して走るJR豊肥本線の復旧をするためには、斜面の安定化をはからなければなりませんから、5月当初には直轄代行で砂防事業を行うこととなり、約20億円の予算で緊急対策工事に着手しました。
国道57号の被災状況(熊本河川国道事務所提供資料より抜粋)
有人作業は不可能
普賢岳以来の無人化施工技術の蓄積が生きる
――いつ再崩落が起きてもおかしくないから、対策工事は危険をともなうものになると思います。
森田 はい。有人での作業はできませんでした。工事開始当初は強い余震も続いていて、二次災害のことを考えると、現場に人を出すのも非常に心配でした。さらに5月からは出水期に入り、非常に厳しい条件下で斜面対策を実施しなければならないという状況でした。
具体的な工事内容は、まずは斜面に監視装置をつけて、工事用道路を設置。その後、土留盛土を斜面中腹に作るとともに、上部にある崩落しそうな不安定土砂の除去をするというものでした。ここまでが緊急対策工事となります。
斜面崩落状況とその後の無人化施工状況(熊本河川国道事務所提供資料より抜粋)
土留盛土の施工状況(熊本河川国道事務所提供資料より抜粋)
――土留盛土を中腹につくったのですね。
森田 崩壊斜面の下から3分の1くらいの位置となります。そこに2段の土留盛土を施工しました。
――高さもけっこうある。
森田 斜面上部から土砂や石が崩落してきても、きちんと止められるような構造にしました。そして、斜面上部の崩落しそうな土砂を、除去していきました。
除去作業は、ヘリコプターで山頂にバックホーを分解して運んで、組み立てなおしたものをそこからワイヤーで吊るして行いました。
これらの対象工事の実施にあたっては二次災害を防ぐため、崩壊地域内の作業は全て「無人化施工」で行われました。崩壊地域内の黒ボク土は、降雨等で水分を含むと泥濘化して重機足場が不安定になり、更に濃霧による視界不良などもあって、梅雨明けまでの稼働率は5割以下と困難を極めました。
無人化施工システムの概要と厳しい作業環境と稼働状況(熊本河川国道事務所提供資料より抜粋)
――オペレーターが卓越していないと不可能な作業ですね。
森田 無人化施工は、20数年前に雲仙普賢岳が爆発したときに始まり、そのときから蓄積してきた技術です。熟練したオペレーターが、最初の一番難しい何もないところから、工事用道路と2段の土留盛土をしっかりとつくってくれました。
ラウンディングの施工状況(熊本河川国道事務所提供資料より抜粋)
――これはどこの企業が施工したのですか?
森田 熊谷組です。
――熟練したオペレーターをよく確保できましたね。
森田 熊谷組の方で、手配してくれています。この緊急的な斜面対策工事は昨年末に完了し、昨年12月26日の阿蘇大橋地区復旧技術検討会の現地確認を受け、年明けからは有人の調査に着手しました。