2017年新年インタビュー②
熊本県 道路被害額は約460億円 上益城地区と阿蘇地区で被害額の94%を占める
熊本県土木部
道路都市局
道路保全課長 長井 英治 氏/道路整備課長 上野 晋也 氏
熊本県は、今次の地震で国道325号阿蘇大橋や県道熊本高森線の俵山ルートなど主要な幹線道路を含む管理道路が多数被害を受けた。地震直後には最大で114箇所の通行止めを惹起するなど、県が管理する道路も大きな被害を受けた。国道325号の阿蘇大橋や府領第一橋の落橋、俵山大橋や大切畑大橋の甚大な損傷は記憶に新しいところだ。そうした地震からの復興の話題を中心に、建設中の新天門橋や道路構造物の長寿命化修繕計画等も含め、詳細を道路都市局の長井英治道路保全課長(右上写真左)と上野晋也道路整備課長(右上写真右)に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
震災直後は最大111箇所で全面通行止め
明るくなってから近接目視
――まずは今次地震の被災状況を教えてください
長井道路保全課長 県内の道路の路線数は41,184路線、総延長は26,013㌔に上りますが、そのうち県管理道路は255路線、管理延長は3,562㌔あります。
県が管理する道路で、亀裂や陥没、崩落等の損傷箇所は455ヶ所あり、被害額は460億円に達しています。全面通行止めは橋梁だけの所も含み、当初は最大で111ヶ所ありましたが、現在は19ヶ所まで減っています。交通止めは幹線道路に及んでいまして、国道325号の阿蘇大橋、国道445号の御船町の滝尾地区、熊本高森線の俵山ルートと阿蘇公園菊池線などが該当します。被害が集中しているのは布田川断層の通る上益城地区と阿蘇地区であり、両地区で被害額全体の94%を占めています。
――今回の熊本地震に関して、災害が起きた時の初動や、一番苦労したことは何ですか
長井 通れる道路がどこなのかを把握することですね。被災状況の把握に一番時間がかかりました。
――NEXCO西日本では、本震発生後夜間にも関わらず構造物も含めて緊急点検に行かせました。熊本県はどのように対応しましたか
長井 とりあえず遠方から目視点検して、橋梁や河川堤防など変状があった箇所には、基本的に夜間立ち入らせないようにしました。近接目視は、明るくなってから確認するよう点検しました。無理に点検すれば、(点検者が負傷する)二次災害の可能性があったためです。地震後、点検をいつ行うのが適当なのか、というのは今後の課題です。
――確かに、そうですね
長井 本震発生後も大きな余震が何十時間後に来るだろうと言われていますが、基本的に余震は小さいと思って今までやっていました。しかし今回は本震と思っていたのは前震でそうではなかったというのが今回の初めてのケースですね。点検をどの時期にどうやるのかは今後の課題です。路面の陥没なども考慮するとなかなか夜に点検を行うのは難しいと判断しました。橋梁も点検のためには、下にもぐることが必要ですが、夜は危険と判断し、止めさせました。
――実際に俵山ルートなどを通ると、確かに夜に点検することは難しいですね
長井 陥没は本当に怖かったですね。橋梁については、基本的に全部通行止めにし、翌朝から確認して、無事なものは開放していきました。
――初動で動いた人員は
長井 基本的に県職員は全員ですね。あとは業者さんがどれくらい入ったかはわかりませんね。TECFORCEにはかなり助けられました。何より本震が夜中だったというのは不幸中の幸いでした。昼間に点検していた時に本震が来たらと思うと……。
――阿蘇は水害(平成24年九州北部水害で大きな被害を受けた)は起き、地震も起きて、と大変ですね
長井 仰る通りです。被害額でいけば阿蘇が64%、上益城が31%、合わせて94%と。布田川断層沿いに地震が2度起きているので、その断層沿いに被害が集中しているという状況です。阿蘇の場合は、立野地区が地形的に阿蘇外輪が唯一空いている所で、ここを国道57号線の大動脈が通っていましたが、これが完全にな不通になって、今は山越えのための迂回路を使っているので交通渋滞を起こしているという状況です。
――57号の代替ルートはどの道路が用いられていますか
長井 北側の通称ミルクロードと呼ばれる県道を通って迂回している状況です。
阿蘇大橋 50万立方㍍を超える大崩落
44橋のうち、37橋は年内に橋梁災害査定を全て完了
――阿蘇大橋も大変な被害というか……
長井 阿蘇大橋は地震で壊れたのか、50万立方㍍を超える大崩落に巻き込まれたのかはよくわからないですね。ただ耐震補強は事前に施していたので、周辺の橋梁の状況も考慮すると地震で落ちたとは思っていません。
崩落前の阿蘇大橋
土砂に巻き込まれてアーチ桁部は見つからない(左)/鈑桁がわずかに見える(右)
――私もおそらく崩落ではないかなと思います。一方で阿蘇長陽大橋も本体は持ちましたが両側が崩れてしまいました
長井 橋梁本体の構造的はもちましたが、地盤が崩れた橋台部分の両側がやられてしまいました。
――阿蘇は平成24年に水害があった時に現場に行きました。白川や黒川などでほとんどの橋が流されていて。ようやく3年で復旧して、さあ、これからだという時に今回の地震が起きて
長井 去年の9月と今年の10月に地震の前後で阿蘇山の噴火があったもので、もう踏んだり蹴ったりですね。
――水害だけではなくてその後、今大分側にトンネルを掘っていて、そういうところの取材もやっていまして、よく阿蘇神社とかにも行っていましたが、あれが崩れてしまって非常に切ないですね。
上野道路整備課長 橋梁の被害については、5月の時点で国に対しては51橋、約243億円の災害報告を行っています。その後ご承知のように一部俵山ルートや阿蘇大橋は国へ代行事業をお願いしたものですから、それが7橋あります。残り44橋のうち、37橋は年内に橋梁災害査定を全て完了させました。
俵山ルートの桑鶴大橋/支承が損壊した
――あと7橋はどうなるのですか
上野 7橋は補助に満たなかったものや、そこまで被害が無かったものです。
一方、被害のそれぞれの状況は、これまでに例を見ないような損傷を受けている箇所があります。その一つが高速道路の跨道橋として供用しており落橋してしまった府領第一橋です。
府領第一橋は、上下端にヒンジ構造のあるロッキングピアを有する橋でした。
国の社会資本整備審議会の道路技術小委員会でも、大きな地震により横方向変位拘束構造が破壊されて、上部工の水平変位を制限することが出来なくなって、中間支点の鉛直支持を失い落橋に至ったということが報告されていました。この橋については災害復旧事業により、今後橋梁形式を変えて復旧を予定しています。
それ以外の橋梁の特徴的な損傷傾向としては、支承部の損傷と桁の移動が大きく見られるところです。例えば乙女橋(上益城の緑川に架かる橋長275㍍のPCT桁橋)では、桁が最大65㌢程度移動しました。また、新川橋(益城町、64㍍、PCT桁橋)では橋台が最大5°程傾きました。さらに八代市内の横江大橋(200㍍、鋼トラス橋)では橋脚が2.5㍍程度沈下し、トラス部材が損傷しています。地盤の変動により橋台自身が移動した箇所としては阿蘇市内の大正橋(63.5㍍、鋼箱桁橋)があります。同橋では、橋台が河川中央方向に最大3㍍程度移動しました。
田口橋の損傷
(一)河陰阿蘇線 大正橋の主桁、橋台接触による変形/大正橋全景
乙女橋の損傷状況 桁ずれや支承損傷
新川橋全景/同橋のA1橋台の傾き/A1被災状況図
新川橋A2橋台の傾き/桁端部のひび割れ/伸縮装置の変形
新阿蘇口大橋全景/P2基礎部の土砂流出
新阿蘇口大橋A2基礎部の土砂流出/伸縮装置の変形/橋台のひび割れ
寺迫橋の下部工損傷/同橋の桁ずれ
橋梁は原形復旧で対応
膨大な舗装被害の対応に苦慮
――これらは普通の耐震対策では無理ですね
上野 そうですね。一方、南阿蘇橋(南阿蘇村、110.8㍍、鋼アーチ橋)では耐震補強のために制震ダンパーを取り付けていましたが、地震でその取付部が損傷し、ダンパーが機能しなかった可能性があります。以上、特徴的な事例を申し上げました。
――災害復旧は水害だと、実際に起きた水害よりも更にクリアランスを高くして、次の損傷を起きなくする方策を採りますが、今回の補修補強や一部橋脚橋台の架け替えも原形復旧という訳にはいかないと思いますが
上野 基本的に豪雨災害だと、再度の災害を防止するための改良復旧を申請することがあり、地震災害の場合も同様に、今回いくつかの橋梁では改良費を入れて災害関連事業として取り組む方針です。
――基本は原形復旧ですが、改良費を入れて災害関連事業として取り組む場所はどこですか。
上野 府領第一橋は現行の耐震性能を満たす形式に架け替えます。
落橋した 府領第一橋
――今回は桁も大きく動いています。それに対して横変位拘束などを新たに入れる、もしくは踏み掛け版を新たに設置した上で設計するなどの、今回の教訓を取り入れていくというのはありますか
長井 小規模な落橋防止を設置するなどという工夫は単費でも考えながらやっていきたいと思っています。踏み掛け版については、現在のところ原形復旧の範囲内に入らないので、復旧に伴い新たに設置するということは考えていません。課題は舗装の損傷です。舗装の損傷は路盤や橋梁本体が損傷している場合は災害復旧の範囲として国から補助を受けられるのですが、表面の舗装のひび割れ、剥離というだけでは補助対象として認められず、維持管理の範囲と見なして県単費で直してください、と査定されます。この舗装の被害というのは膨大な数があり、その対応に非常に苦慮しています。
――構造物では、横江大橋なども原形復旧で行っていくわけですか
上野 そうですね。
横江大橋の損傷状況 P3橋脚は約2.5㍍も沈下した
横江大橋の損傷 伸縮装置の変形、護岸の損傷
上野 それぞれの橋の被災状況を見ながら次の災害への防止も含めて考えていく部分もあります。南阿蘇橋は耐震補強を行っており、制震ダンパー取付部は施工時に設置スペースの制約から、橋軸直角方向の固定装置及び横変位制限構造と兼ねていましたが、今回の地震によってダンパーが根元から取れてしまいました。
南阿蘇橋
そこで、制震ダンパーと橋軸直角方向の固定装置及び横変位制限構造の機能を分けて復旧する計画です。それぞれ状況に応じて対応しています。