道路構造物ジャーナルNET

2017年新年インタビュー③

熊本市 落橋・通行止めに至った橋梁は19橋 一部でも損傷している橋梁は416橋に達する

熊本市都市建設局
土木部 道路整備課長

沼野 猛

公開日:2017.01.01

2,882橋、5トンネルを所管
 15㍍未満のRC橋が7割、鋼橋は3%

 ――次に保全について概要からお願いします
 沼野 当市では、全体で11,838路線延長3,745㌔を管理しています。構造物は、橋梁2,882橋(2㍍以上)、トンネル5箇所となっています。
 橋梁は、橋長15㍍未満のRC橋がほぼ7割を占めます。PC橋は2割、鋼橋は3%ほどしかありません。

 ――鋼橋が際立って少ないですね
 沼野 市の西部、南部は大農業地帯になっていまして、農業用水路が碁盤の目のように交わっています。そこを跨ぐ橋長5㍍くらいのRC橋が非常に多い特徴があります。数としては非常に多く感じますが、規模の大きな橋梁はそれほどありません。

毎年700橋ずつ点検
 トンネルは5箇所を3カ年で点検

 ――点検を進めて見ての劣化状況は
 沼野 市では平成26年度の道路法改正に合わせ、毎年700橋ずつ道路橋の点検を行っています。塩害は一部に生じていますが、著しい損傷は鋼・コンクリート橋とも見られていません。通常で見られる上部工のひび割れやコンクリートの剥離、鉄筋露出、鋼橋は防食機能が劣化して軽微な腐食が出ている、といった状況です。よく見られるのがやはり伸縮装置からの漏水に起因する支承の腐食などです。そうしたものが損傷の主たる原因です。
 ――健全度別でいえば、ここ26、27年度の点検で判定されたⅡ、Ⅲ、Ⅳの数は
 沼野 Ⅳはありませんでした。Ⅲが50橋で、ほとんどがⅡ(155橋)かⅠ(532橋)でした。
 ――熊本県に話を聞いたところ、有明海沿岸ということで塩害が一部で生じていることや、床版防水工を新設橋に敷設し始めたのが平成10年以降のため、未設置の床版で砂利化などの損傷が生じていることを話していましたが、熊本市はそうした損傷例はありませんか
 沼野 床版防水に関しては実施状況を把握できていません。その都度その橋梁補修設計の際に橋面からの漏水が疑われるものについては、舗装を剥ぎ取って調査を行って、有無を確認した上で防水層を設置しています。


床版防水の施工

 防水層の施工方針については、「道路橋床版防水便覧」に基づき、橋梁の構造条件に合わせて、防水層の種別(シート系・塗膜系)を決定しています。
 ――舗装の劣化まで待つのでは無く、舗装の劣化前でも床版の損傷が見えたら舗装を剥いで防水工施工しているわけですね
 沼野 そうです。基本的に長期延命化の観点から言えば、漏水は見えなくとも橋面防水層がなかった場合は、設置することが望ましいとは感じています。
 ――トンネルの点検はどのような状況ですか
 沼野 今年度から5本のトンネルを3カ年で点検する予定です。過去の概略点検では顕著にひび割れが生じていました。

道路軸方向にひび割れ

 ――ひび割れが生じている方向は目地伝いですか、それとも道路軸方向ですか
 沼野 道路軸方向です。
 ――道路軸方向だと結構危ないですね
 沼野 おっしゃるとおり道路軸方向のひび割れは有害なものが多いので、確認を急いでいます。

耐震補強 フルスペック完了は2橋
 388橋を対象に検討

 ――橋梁の落橋防止装置の設置および耐震補強の進捗状況は
 沼野 熊本市では平成25年に耐震補強計画を策定しています。当時市が管理する2,860橋の中から、15㍍以上の全橋および15㍍未満でも緊急輸送道路に架かっている388橋を対象にして検討しました。供用時期は昭和55年道示より前が230橋ほど、残りが昭和55年道示以降です。現在までに鉄道跨線橋や一級河川白川にかかるような規模の大きな橋については、落橋防止装置の設置を完了しています。
 計画策定前にも落橋防止装置の設置は34橋、橋脚耐震補強は9橋完了しています。平成25年の耐震補強計画策定後は、落橋防止装置の設置が3橋、橋脚耐震補強が2橋完了しています。計画策定前は3プロ程度で補強していましたが、策定後は基本フルスペックで耐震補強を進めています。


耐震対策対象橋梁

 ――388橋中、フルスペック補強を完了している橋梁の数は
 沼野 完全に終えているのは2橋です。
 ――検討対象としている388橋は3プロレベルでは完了しているのですか
 沼野 3プロレベルまでは完了しています。
 ――今年度の計画数は
 沼野 国の経済対策の予算を活用して29橋の補強設計を行います。29年度以降、経済対策が出た時には耐震補強設計をした橋梁をなるべく早急に補強していく方針です。
 ――落橋防止装置の鋼製治具の溶接不正・不良は
 沼野 当市では確認されていません。

毎年10橋程度を補修補強
 上潟1号橋など6橋でRC桁をプレキャストPC桁に交換

 ――橋梁の長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況は
 沼野 橋梁の長寿命化対策は、設計・施工とも着実に進めております。年で10橋程度を設計・施工しております。27年度、28年度は経済対策もあり、設計・施工とも20橋程度に増やしました。
 30年度で近接目視点検が1巡しますので、そこが見直しを行うタイミングになると考えています。但し、点検で特に劣化の著しい橋梁が出た場合、長寿命化修繕計画に捉われず、当該橋梁を個別に対処しています。
 ――代表的な事例は
 沼野 RC橋では上潟1号橋ほか5橋があります。水路橋でプレキャストRCスラブ桁の下面が経年劣化により剥離し、鉄筋が露出して腐食膨張していました。そのためプレキャストPC桁への取替えをまとめて6橋施工しました。


劣化したRC桁をプレキャストPC桁に架け替え

 ――これはどのような損傷ですか
 沼野 該当橋梁はRCの桁を並べていただけのもので、橋面防水がされておらず、桁間から漏水が生じ、コンクリートが劣化して鉄筋が腐食、最終的に剥離・鉄筋腐食していました。

平木橋のRC床版で亀甲状のひび割れ
 補強設計を実施中、床版取替の可能性も?

 ――鋼橋の疲労事例は
 沼野 鋼橋のRC床版の疲労事例として国道501号の緑川渡河部にある平木橋があります。同橋は橋長370㍍の8径間単純合成鈑桁橋です。RC床版全面に亀甲状のひび割れが生じている状況です。一旦補修設計をかけようとしました。しかし、国道501号は国道3号や九州縦貫道の抜け道として使う大型車両が非常に多く、その大型車交通荷重を考慮すると補修では追いつかないという懸念がありました。かつ合成桁であることから疲労が生じ易くなっている可能性があり、今年度、床版の耐荷力に関しまして、補強設計を実施中です。
 ――これは補強で済ますのですか
 沼野 補強+ひび割れ補修ですね。耐荷力を補った上でひび割れを補修しないと、再劣化してしまいますから。


平木橋の橋梁概要

 ――プレキャスト床版取替は考えないのですか。現場は完全に亀甲状のひび割れになっていますから、補強補修しても再劣化してしまう可能性があります
 沼野 そのため現在の荷重条件を正確に判断して、補強・補修につなげたいと考えています。


平木橋の損傷状況。1パネルをクローズアップしているが、他のパネルも概ね同様の損傷状況ということ

 ――最悪の場合、取替えもありますか
 沼野 場合によってはそういった大きな決断も考えなければなりません。しかし当該個所は1万台弱(うち大型車交通台数は15%/12h)の交通量があり、この501号を一次的にせよ止めるというのは非常に厳しい判断です。
 ――15%ということは1200〜1300台ですか。それでこれだけの損傷が生じているということは古い橋ですね
 沼野 はい。供用3~40年程度経過していたと思います。
 ――3〜40年だと床版厚はある程度ありますね。床版防水工の設置の有無は
 沼野 昨年度、防水工を実施しています。
 ――今年度の支承取替・ジョイント交換・ノージョイント化は
 沼野 支承はいずれも震災による交換になりますが、11橋で取替えを予定しています。伸縮装置は27橋で取り替えますがノージョイント化はありません。


八王子跨線橋でのMMジョイントDS型の施工

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