鋼部材を点検現場で手軽に防錆補修
日新インダストリー「変性エポスプレーNEXT」を展開
日新インダストリー株式会社
代表取締役
川西 紀哉 氏
日新インダストリーは溶融亜鉛めっき鋼材向けの補修用ジンクについて、補修の現場を考慮して小型化したエアゾールスプレー缶タイプの諸製品を展開している。これに加えて、高速道路の施設や、ガードレール、高欄といった鋼製部材、RC構造の鉄筋防錆・剥落防止工などの小規模補修を点検時に手軽に行える防錆用変性エポキシ樹脂スプレー缶「変性エポスプレーNEXT」を展開し、大きな反響を得ている。その同社を率いるのは新進気鋭の若手経営者である川西紀哉社長だ。その独特の商品群と営業手法について取材した。(井手迫瑞樹)
毎年度売上が1~2割増加
オリンピックの招待券をゲットしろ!
――最近の業績と売り上げ目標について
川西社長 当社は、8年前に私が社長に就任し、3年ほど前に大改革を行い、第二の創業を果たしてから順調に業績を伸ばしており、毎年、1~2割程度売り上げを伸ばしています。今年度も前年を超える伸びを目指します。
――以前、東京オリンピックの招待券をもらえることを目標にしなさいと、従業員に訓示したそうですね
川西 目の前にある仕事、目の前に来た問い合わせに対応しているだけでは従業員の能力は伸びないと思っています。自分で考えて行動しないと手が届かないゴール地点を経営者が作っていかないと、だらだら仕事をするだけで面白くないのではないでしょうか。
目標とは、端から見ればアホじゃないかと思われるかもしれない程高く、しかも目の前のミッションとリンクするようなものがいいわけです。
――それが東京オリンピックの招待券ですか
川西 東京オリンピックを開催するために様々な競技場も作られるし、訪日する外国人観光客をもてなすための宿泊施設や商業施設も建設される。即ち当社のクライアントとなる会社もたくさん携わるわけです。その市場に食い込む為にどういう業者に売り込みをかければいいのか、どんな形であれ東京オリンピックには携わった方がいいわけです。しかし、東京オリンピック関連の実績を取れと言ったって右往左往するわけです。だから東京オリンピックのチケットをただで手に入れろ、と
――それくらい新しいクライアントと親密になれ、と
川西 そのためには、どんな人脈をたどれば到達できるか? やっぱりゼネコンかな? など社員一人一人が考えて行くわけじゃないですか。でも最初からそこには到達できない。ならば、当該ゼネコンと親しい親方は誰か、とか考えて辿ろうとするわけじゃないですか。そうすれば足繁く現場に通うことになる、商品がゼネコンの現場代理人さんの目にとまり、実績ができるかもしれない、そうした考える触媒になりうるのではないか、と考えました。
ガードレールや防音壁の防錆に用途が拡大
変性エポスプレーNEXT 点検時の小規模鉄筋防錆分野も
――なるほど、そうした現場の主力製品となりうる変性エポスプレーNEXT(以下「NEXT」)は、土木分野への適用は
川西 NEXTはNEXCOでも元々施設の照明柱などをメインとして適用されてきました。最近は、ガードレールや防音壁など土木にも適用が拡大しつつあります。ガードレールは地覆立ち上がりの錆びやすい部分に適用できないか新潟県内で試験を行っています。同部分は特に雪国において、乾湿繰り返しが起きやすい(積雪⇔融雪)箇所であり、凍結防止剤も多量に散布されることから、防食性能の高いNEXTに白羽の矢が立ったのでは? と考えています。また、防音壁については、点検した際に錆びている添接部の防錆スプレーとして使っていただいています。
また、一部の都市高速道路会社では、点検時の小規模な鉄筋防錆やコンクリートの表面保護工用途に使える材料として同製品を使えないか、検討していただいています(上写真)。実際に増えているのは太陽光施設の架台分野です。メガソーラーは非常に広い面積にパネルを敷き詰めて発電するわけですが、架台や基礎の量は非常に数多くなります。そうした個所で点検を重ねることは民間業者の手に余ります。そのため、施工時あるいは初回点検時に損傷や錆を見つけた場合、錆の上から吹き付けても防錆能力を発揮し、塗り替える7~10年のサイクル内は防錆効果がもつNEXTを採用するようです。
メガソーラーの架台(左写真)で使用事例が増加しつつある「NEXT」、右写真は処理前後
道路維持作業車など過酷な使用条件にある車両の防錆下地にも同社の変性エポの使用事例がある
――変性エポキシ樹脂スプレーということで少し感じたのですが、コンクリート構造物の防錆鉄筋として使われているエポキシ樹脂塗装鉄筋は運搬時や作業時に、防錆被膜が傷つくということが偶にあります。そうした個所への補修としても使えそうですね
川西 性能的には十分だと思います。問い合わせがあれば対応します。
錆止めのオールラウンダーかジンク主体で生きるか
会社として岐路に立つ
――今後伸ばしていきたい分野はほかにありますか
川西 NEXTが売り上げを伸ばしていますが、当社の出自はあくまでジンク塗料なわけです。現在は錆止め塗料のオールラウンドプレーヤーになるか、あくまでジンクを主体にしてその延長線上で、NEXTのような防錆塗料も取り扱うか、岐路に立っていると思います。売上の9割をジンクが占め、そのうちの半分を亜鉛めっき関連会社が占める中で、NEXTは売上比的には1割程度であり、かつある場面ではめっきの対抗製品であるわけです。そのため、土木分野には当社が前面に立って売るというよりは、商社に取り扱って頂いて、話が来たら、それに乗るという形を取ることがベターであると思っています。
しかし一方で、選択肢を増やし、情報の取得や技術力の向上を果たすためにも、土木学会など各種学会の委員会にも参加していく必要がある、と感じています。
ストリッパブルペイント、マザックスを新たに展開
ニーズに合わせた補修材で顧客の問題解決を手助け
――新しい製品としてはストリッパブルペイントを示していましたね
川西 容易に着脱可能なゴム塗料(ストリッパブルペイント)の用途を開拓しています。アメリカや中国では、手軽な車両の塗装用途等につかわれています。それを当社が国産化しました。このゴム塗料はデザイン用途でも優れていますが、一方で水と空気を遮断する性能に優れているため、防錆性能も高い能力を示しています。実際、塩水噴霧や促進耐候といった腐食促進試験でも十分な防錆力を発揮しました。耐酸性や耐アルカリ性も備えており、多方面で使用できそうな気配はありますが、どこで使用できるのかはお客様に判断していただく形ですね。この塗料何に使えますか? という感じです。
このストリッパブルペイントは、従来のストリッパブルペイントにゴム性能を付与し、伸び率800%、耐酸性、耐アルカリ性、防錆性を付与した製品です。多種多様なカラー展開が可能で、もちろんエアゾールスプレー(気化した液化ガスまたは圧縮ガスの圧力によって、内容物を容器の外に自力で霧状や泡状などにして放出させる製品)も可能です。粘度が高いためそのままの状態では刷毛塗りは難しいですが、希釈すれば塗布できます。
仕様箇所の実績は示した上で、用途を限定せず、性能を評価していただき、お客様自身に何に使用できるか考えてもらおうと思っています。用途を書いてしまうと、そこだけに使用されてしまい、新たな用途の発掘が困難になるからです。発売は来年初旬を予定しています。
ストリッパブルペイント 2016年6月6日塗布した鋼材(左)を同12月21日に剥がしたもの(右)
――他に新製品はありますか
川西 昨年、塗料中に亜鉛、アルミ、マグネシウムを含有する新しい補修塗料「マザックス」(左写真)を発売しました。防錆力は従来のジンク塗料に比べて高く、薄膜でも非常に強い防錆力を発揮します。ジンク塗料の限界を超えるために、今までの知識をフルに活用して開発した渾身の製品です。
「マザックス」の販売拡充が来年度の目標です。防錆塗料は認知されるまでに非常に時間がかかります。お客さん自身で試験をする場合がほとんどですし、そう簡単に錆が発生することもないので、試験期間は長くなります。今年から大型案件にも採用されるようになってきたので、来年はNETISへの申請を考えています。
また、環境負荷を低減する商品として、「ジンクプラスS」というPRTR対応、特化則対応製品を発売しました。通常は水系の塗料に進むところ、亜鉛と水は反応してしまうため、1液化が出来ません。そのため、水系のジンク塗料は1液1粉末形という形態になります。当社では、補修塗料を専門に扱うニッチな市場を主としているため、エアゾールスプレー化を一つの開発基準にあげています。エアゾールスプレー化できないものはやらない。これが基本原則なので、1液1粉末形は開発から除外されます。とはいえ、世の中は水系なので、違った切り口から水系塗料の開発をする予定です。これは来年度から取り組み始めますので楽しみにしていてください。
当社製品は全て、補修を主としています。補修と修繕は違います。補修は問題箇所に手を加えて延命を図ること。すなわち見た目は元に戻っていません。修繕は、問題箇所を新たに作りなおし、元のように機能させることで、見た目も元通りになります。補修であるけども、見た目も元通りにする。補修箇所と周囲とのバランスを考える。当社の製品は、現場に合わせてカスタマイズが可能です。例えば、スプレーボタンを変更したりすることで、補修箇所の周りをキレイにぼかすことが出来ます。そうすることで、遠目から見た場合に補修箇所が分からないようにすることができます。お客様のための補修剤を提供することで問題解決の手助けをしたい。これが我々の補修に対する考えです。
――ありがとうございました