国土交通省近畿地方整備局は、4904の橋梁、196のトンネルを管理している。両構造物とも供用年数50年以上を超えた箇所を多く抱え、20年後にはそうした構造物がトンネルで半数弱、橋梁では過半数をはるかに超えるため、その対策は待ったなしである。一方で、紀勢自動車道などミッシングリンクの対策や、大阪湾岸道路西伸部や淀川左岸線など都市部の渋滞対策は関西地域の経済を支え、発展させるためにこちらも焦眉の急といえる。そうした施策をどのように進めていくのか、同局の東川(とがわ)直正道路部長に聞いた。(井手迫瑞樹)
豪雨対策 柔軟な通行止めによるソフト対策
ハード的な対応は時間が必要
――近畿地方整備局の道路の現状について
東川部長 道路整備は未だ充分ではないというのが実感です。都市部における渋滞がかなり少なくなっている関東と比べれば、阪神高速の大阪市内や神戸湾岸部の渋滞の激しさなどを見ても一目瞭然です。道路にはよくストック効果があると言われていますが、関西の経済を支えるためにも道路整備が必要だというのを、赴任して改めて感じました。
――淀川大橋のように近畿には古い橋が多いイメージがあります。その辺りはどのようにお考えでしょうか
東川 近畿地整は、近年まで新設を中心に進んできました。整備の重要性は変わりませんが、一方で住民の安全・安心を守るためにも、これからは管理もより充実させていく必要があります。道路法も改正され、5年に一度の点検も義務付けられたのも、そうした現状への後押しであると考えています。
――4月には熊本地震が起きました。震度7が短時間に2回起きたという非常に特殊な地震でした。また最近は、北海道と東北を襲った降雨災害も生じています。こうした事態に対処するため、近畿地整の方で何か取り組んでいることがありませんか
東川 地震対応については、本省で道路橋示方書に手を入れることも含め、様々な検討を進めていると聞いています。豪雨災害が、最近沢山の雨が一度に連続して降る事象や、局所に短時間で多量の雨が降る事象も起きています。対応としては道路では、いつ、どうやって通行止めするか、というのがかなり重要な問題になってきていると思います。
――具体的に近畿地方整備局で取り組まれていることは
東川 豪雨災害対策としては。基本的には崩落が起きないよう斜面を固めるのが一番良いわけですが、これには膨大な金額と時間がかかります。そのため、喫緊としてはソフト対策が重要です。現状は道路を通行止めする場合、一定時間内に定められた量を超える雨量を計測すれば規制する(事前通行規制)区間を決めています。しかし、短時間で大量の降雨が計測される事例も増えてきたことから、短時間と連続とを組み合わせるような雨量で規制するということも新しい取り組みとしてやり始めています。
――先日、大阪府と京都府と兵庫県を取材させていただいた時に、各府県でもその緊急輸送道路上で自然斜面や法面を点検した上、優先順位をつけて法面斜面を直していると仰られていました
東川 ハード対策ですね。
――整備局としてそのハード的な対策は、どのような状況ですか
東川 一番崩れやすい箇所は、もちろん規制区間に指定している箇所にある斜面です。ただ、それ以外のところも点検してカルテを作成しています。補強等ハード的に対応するのは時間がかかっているというのが現状です。
――優先順位の付け方や橋梁の様な計画的な補強は行っていますか
東川 点検してランク付けしています。必要のある箇所は手を入れるわけですが、全部手を入れだしたら何年かかるか分からないといった状況です。道路部長として赴任する前は、京都府に出向していましたが、ソフト対策が必要な個所を抽出しても、約2万個所、ハード対応が望まれる個所は2000個所以上ありました。それを補強するにはとても時間も予算も足りません。そのため、通行規制や避難計画などのソフト対策の充実が必要と感じています。
懸案の大阪湾岸道路西伸部、淀川左岸線
ミッシングリンクの解消も重要
――改築事業では和歌山が終盤を迎えていますが、今後の目玉事業は
東川 和歌山は国民体育大会(2015年に開催)を目指し整備しました。依然としてミッシングリンクがあり、現在はそうしたところを一生懸命やっております。
近畿地方整備局の中では、和歌山以外でも道路網整備が必要な箇所はまだまだあります。幹線道路は最低限存在するのですが、通過交通量が多いため1本では足りない個所が多いというのが現状です。例えば阪神高速道路の一部では、渋滞の酷さが首都高速道路を抜きつつある現状があります。
先日、兵庫国道事務所管内を視察しました。整備局庁舎から同事務所まで通常であれば1時間弱で行けるところが、30分以上渋滞で遅れてしまいました。こうしたことから整備上の喫緊の課題は都市部の渋滞対策であると考えています。代表的な例が大阪湾岸道路西伸部あるいは淀川左岸線です。
加えて、阪神地域と豊岡を結ぶ北近畿豊岡自動車道、永平寺大野道路の先、油坂までを繋ぐ中部縦貫自動車道など、ミッシングリンクの解消も重要です。
次に交通過密な2車線道路の4車線化が課題と言えます。
――4車線化は具体的にどのあたりを考えていますか
東川 現在は、NEXCO西日本が阪和道の4車線化工事を行っています。それ以外もこれから交通量や渋滞状況を見て、優先順位を決めて、4車線化工事を実施していく必要があると考えています。
――災害対策としてのバイパス事業は
東川 重要な拠点間を結ぶ道路を1本だけでなくもう1本以上用意することが必要であると考えています。また、災害が起きても大丈夫な緊急輸送道路をきっちり作っていく必要があります。
現在、近畿地方整備局内で最も心配しているのは東南海南海地震発生時の対策です。特に和歌山は、津波が東北のように来る可能性があります。そのため近畿独自の取り組みとして、和歌山県知事と当整備局長が入った委員会をスタートし、和歌山県内の災害時の緊急避難道路、復旧のため最優先に確保するルートを決めました。次は災害時に供出する物資の保管場所や、新たに必要な設備があるかどうかを決めていくということになっています。まずは和歌山から始めたこの枠組みを大阪、兵庫にも広げていきたいと考えています。
――近畿の話でいくと、一番は近畿自動車道紀勢線ですね
東川 国道42号と紀勢道の関係性ですね。
――紀勢道はそもそもまだ繋がっていませんから、その整備とともに現状を踏まえて災害対策を立てなければなりませんね
東川 そう思います。
――他の整備局にも聞いていることなんですが、一番怖いのはダブル(複合災害)で来ることだという識者もいます。今回は(従来は台風が滅多に通過しなかった)北海道でもああいう豪雨が来ました。北海道は、釧路など地震が多い地域も抱えています。地震と水害、もしくは津波と水害による複合災害、そうした最悪の事態を今後想定して考えていくことも必要ではないですか
東川 複合災害の想定ということは考えなくてはいけない課題です。但し、現状は、まずは1つ1つへの対応をきちんと定めた上で、複合災害への対応は次の段階と考えています。