道路構造物ジャーナルNET

塩害やASRにより傷んだ橋を補修

福岡市 雑餉隈駅付近の連続立体工事が佳境に

福岡市 道路下水道局
管理部長

宮本 能久

公開日:2016.09.16

下部工 シラン系含浸材を塗布している箇所も

 ――同様に下部工は
 宮本 福岡市の中心部は高低差が少なく、埋め立て地も広いことから、海岸線から2㌔以上離れても感潮域が存在し、劣化の要因となっています。直接水が上下する小潮時の干満部付近以下では、劣化の進行が見られないのが特徴です。これは、長時間水につかっており、酸素不足により鉄筋腐食が進まないためと推定されます。しかし、小潮時の干満部付近の直上では劣化が大きく進行する傾向にあります。劣化が顕在化した部分へは、上部工のRC橋、PC橋と同様の対策を行っています。
 劣化が顕在化しておらず、腐食発生塩化物イオン濃度に達していなくても、将来の塩分浸透予測と今後の供用期間の関係から、予防保全としてシラン系表面含浸工等の対策を行っています。
 例えば愛宕大橋では、各下部工いずれも鉛直方向のひび割れが生じており、部分的に遊離石灰が見られます。また、橋台、橋脚の橋座部及び柱部では浮きも見られます。合わせて橋台は劣化こそ無いものの、波飛沫などによる塩分の供給により現在から10年後には鉄筋腐食環境になることが予想されることからシラン系含浸材の塗布を行う予定です。
 ――凍結防止剤等の影響による劣化は
 宮本 福岡市でも山間部や吹き抜ける風が強い箇所では、凍結防止剤等を散布しているが、頻度が比較的少ないため塩害に至っていません。
 ――具体的な損傷事例は
 宮本 平成26年度に志賀島の無名橋、平成27年度に今津の無名橋を施工し,平成28年度に川端橋、愛宕大橋などを予定しております。
 ――ASRによる損傷事例は
 宮本 福岡市でのアルカリシリカ反応による劣化は比較的軽症で、鉄筋破断等に至った事例はありません。昭和50年代後半に架設された橋梁に一番多く発生していますが、総数はさほど多くありません。

PC中空床版橋でボイド内に溜まった水が悪さ
 アルカリシリカ反応の進行が促進

 ――部位別で上部工の状況から
 宮本 PC橋にのみ見られ、桁下面に橋軸方向に多数のひび割れが桁全体に発生しています。PCプレテン橋(ホロー形式、I桁形式)では、長期間水が供給され表面がうろこ状に剥がれる表面劣化が見られます。
 PC中空床版桁では橋内部の中空部(ボイド)に水が溜まりアルカリシリカ反応の進行が促進します。この場合、桁下面だけでなく桁上面にもひび割れがあることが多く、橋面にも遊離石灰が見られ、ボイド内が満水状態であることが分かります。こうした場合、先ずは水の供給要因に対する対策を行います。多くの場合は橋面防水工の設置による対応です。その後、ひび割れ経過観察を行い、コンクリートの膨張が収束するのを待って通常のひび割れ補修を行えばよいと考えています。膨張が収束する前にひび割れ補修を行うと、再劣化の原因となります。しかし、橋面防水工を施工しても完全に水が止まるわけではなく、耐用年数もあることから、再度水がボイド内に溜まる可能性を想定し、水抜き穴を削孔し、管を設置するようにしています。また、桁の上面にひび割れがある場合には、橋面防水工に先立ってその補修を行っています。
 ――下部工のASRによる損傷状況は
 宮本 下部工では、主に橋台において亀甲状のひび割れという形で、アルカリシリカ反応の劣化が顕在化しています。長期間水が供給されアルカリシリカ反応が進むと、アルカリシリカゲルが見られます。上部工と同様に水の供給要因に対する対策を行います。その後、ひび割れ経過観察を行い、コンクリートの膨張が収束するのを待って通常のひび割れ補修を行えばよいと考えています。
 水の供給要因は、目地や伸縮装置からの漏水が一番多い状況で、伸縮装置や目地取替え工が第一に考えられます。しかし、伸縮装置を取替えても水を完全に止めることは難しく、既設伸縮装置取壊し時に桁本体を傷めるため、漏水量や伸縮装置の破損状況を勘案し、取り換えの必要性を決定しています。
 漏水により劣化が見られるものの、伸縮装置取替え工等の直接的な対策を行わない方が良いと判断した場合は、水掛かり箇所へのシラン系表面含浸工、樋や水切り設置工等によって、速やかな導水が図れるような対策を行い、経過観察を行うことにしています。
 具体的な橋梁については、平成24年度に草香江橋,田島橋,布橋,平成25年度に貝塚跨線橋,平成26年度に大原橋,平成28年度に小田緑橋などをそれぞれ補修しています。

塗膜剥離剤+ブラストで対応
 PCB・鉛等含有塗膜除去対策

 ――平成27年度の鋼橋塗り替え実績(橋数と面積)と、平成28年度の鋼橋塗り替え予定(同)は。また塗り替えの際の全体的・部分的な用途でもいいので溶射など新しい重防食の採用などについてもお答えください。また、PCBや厚生労働省・国土交通省から平成26年5月30日にでた文書を受けて、鉛など有害物を含有する既存塗膜の処理についてどのような方策をとっているのか教えてください。
 宮本 平成27年度は1橋で約1,500平方㍍塗り替えました、平成28年度は1橋で約20平方㍍塗り替える予定です。
 近年では溶射塗装の採用はなく、1種ケレンが可能であればRc-1系の重防食塗装を採用し、小規模、騒音等で1種ケレンが不可能な場合は錆転換塗装を採用する場合もあります。
 PCB、鉛などを含有しているかどうかは、塗り替えの際に必ず確認しています。その上で有害物を含有する塗膜を除去する際は、環境対応形塗膜剥離剤による現場塗膜除去を採用しています。Rc-1系塗装を採用する場合は、塗膜除去後に別途ブラスト法による素地調整を行っています。但し、この方法は、非常に高額となることから他の工法がないか模索しています。
 ――耐候性鋼材を採用した橋梁で錆による劣化が報告されている事例が出てきていますが、福岡市では採用事例が何橋あり、現状どのような健全度を示していますか
 宮本 耐候性鋼材を用いている橋梁は2橋です。西田橋(橋長25㍍、博多区三筑)、那珂歩道橋(橋長23㍍、博多区板付)です。


耐候性鋼材を使用した西田橋

耐候性鋼材を使用した那珂歩道橋

 現状は鋼道路橋防食便覧のさび外観評点とさびの状態及び写真見本から判断し、一部支点まわりについては評点3程度の箇所も見られますが、全体としては評点4~5程度の状態となっています。(さび外観評点については,「鋼道路橋防食便覧(H26.3 日本道路協会)」の表-Ⅲ.6.2(2)を参照)
 ――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、福岡市として道路に面する斜面や、古いのり面などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画などがございましたら教えてください。
 宮本 斜面や法面の対策は、パトロールや防災点検において発見した箇所について、随時対策を行っています。

中性化のみで適切なかぶりが確保出来ていれば特に対策は講じない
 必要ない工種を行わないよう心がける

 ――新技術や、コスト縮減策または市独自の新技術・新材料などの活用について
 宮本 コスト縮減策としては、主にコンクリート橋の補修において、必要ない工種を行わないように心掛けています。例えば、中性化が懸念される橋梁には、中性化の進行を抑制するケイ酸塩系表面含浸工がありますが、中性化が進行しても大量の水が供給されなければ鉄筋腐食がごく表面的なものにとどまることから、劣化要因が中性化のみで適切なかぶりが確保出来ている場合は、中性化への対策を行わず、水掛かり対策を入念に検討しています。中性化深さが既に鉄筋位置を通り越していても同様です。
 ただし、内在塩分が多く、今後中性化の進行により鉄筋位置に塩分が濃縮されることが懸念される場合は、アルカリ付与剤とケイ酸塩系表面含浸工を行っています。
 また、橋面からの漏水について、前述の通り橋面防水工を省略する場合のほか、伸縮装置の取り換えでは、水を完全に止めることは難しいため、既設伸縮装置取壊し時に桁本体を傷めることや漏水量・伸縮装置の破損状況を勘案し、取り換えの必要性を決定しています。漏水による劣化が見られるが、伸縮装置取替え工等の直接的な対策を行わない方が良いと判断した場合は、水掛かり箇所へのシラン系表面含浸工、樋や水切り設置工等によって、速やかな導水が図れるような対策を行い、経過観察を行っています。
 桁下面には水が掛からず、大気中の水分では劣化の要因にならないことから、シラン系表面含浸工を行わないこととしています。ただし、水面が近いこと等により、頻繁に結露が付着するような環境であれば、シラン系表面含浸工を検討します。  
 市独自の新技術・新材料等はありませんが、新技術、新材料は積極的に試行し、安くて良いものであれば標準化を図りたいと考えています。
 ――橋梁の架替や大規模修繕、トンネルの点検状況、トンネルやのり面について橋梁のような長寿命化修繕計画を企図した補修補強計画の進捗状況を教えてください。
 宮本 トンネルについては、平成24年度に「福岡市道路(大規模施設)アセットマネジメント基本方針」を定めており、今後の点検結果を踏まえ、計画的な修繕に取り組んでいく予定です。のり面については前述の通り、パトロールや防災点検において発見した箇所について、随時対策を行っています。
 ――ありがとうございました

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