道路構造物ジャーナルNET

トンネル・橋梁など構造物多し

高知県 四国8の字ルートを補完する道路を整備

高知県土木部
道路課長

森田 徹雄

公開日:2016.06.01

平成30年度までに優先箇所の耐震補強完了
 浦戸大橋、仁淀川河口大橋など長大橋を耐震施工中

 ――橋梁など耐震補強の進捗状況は
 森田 高知県では、南海トラフ地震などの大規模地震の際に落橋などの甚大な被害を招かないため、耐震対策を実施しており、昭和55年よりも古い基準で整備された橋梁に対して、3プロレベルでの対策を進めています。
これまでは、災害発生に救命・救急や物資・人員の輸送を担う緊急輸送道路上の橋梁について対策を進めており、対策が必要な橋梁は県全体で104橋あります。
平成26年度末時点で96橋の耐震補強が完了し、このうち71橋で落橋防止装置を設置しています。平成27年度にはさらに1橋について落橋防止装置の設置などにより、耐震補強が完了しました。現在は仁淀川河口大橋や浦戸大橋などの長大橋の耐震補強を行っており、残る7橋についても、平成30年度までに耐震補強を完了する予定です。


浦戸大橋

 ――浦戸大橋は非常にピア高も高く、桂浜に行く橋梁として非常に重要度が高い橋ですね。どのような補強を行っているのですか
 森田 同橋は昭和47年に完成した(日本道路公団が建設、元請は鹿島建設)橋長915.6㍍、最大支間長230㍍の長大橋です。上部工形式は7連のPC単純2室箱桁橋とRC4径間連続中空床版橋からなる取付部(315.6㍍)と最大径間を含む有ヒンジPC5径間連続ラーメン箱桁橋(600㍍)からなる特殊橋部で構成されています。しかし古い基準に基づく設計であり、南海トラフ地震などの際に落橋や倒壊といった甚大な被害を防ぐことを目的として、平成24年度から耐震補強工事に着手しています。
 レベル2地震動に対して、耐震性能レベル2を確保することを目標とし、まず、平成24年度から取付橋部の補強工事に着手しました。桁の落下を防ぐために桁端部への落橋防止装置や変位制限構造を設置するとともに、橋脚をRC巻き立てにより補強し、平成26年3月に耐震補強が完了しました。
 浦戸湾を跨ぐ特殊橋部についても、中央径間を浦戸地区(桂浜)側、種崎地区側に分割し、25年度から耐震補強工事に着手しています。
 桁端部の落橋防止装置と変位制限構造を設置するとともに、上部工の炭素繊維による補強と橋脚のRC巻立て補強を基本とした補強を行っています。浦戸湾の両岸に位置するP2、P3橋脚においてはRC巻立てで不足するせん断耐力を炭素繊維シートの貼り付けにより補うことで、地震に対する耐力を確保するように補強を行っています。
 現在は浦戸地区の補強工事が完了し、残る種崎地区側の工区の工事を残すのみとなっています。現在は浦戸湾上に位置するP3橋脚の補強を行っており、28年度の完成を目指しています。海中部はSTEP工法を用いて施工しています。


上空から見た浦戸大橋

海上部の耐震補強/STEP工法を採用した

 ――仁淀川河口大橋は
 森田 1000㍍を超えるPC連続箱桁橋です。橋脚補強は2基が完了済みで、今後残る10基を順次発注予定です。また、上部も補修を行っています


仁淀川河口大橋は2基を耐震補強済み(左)/施工後の表面被覆はクリアタイプを使用した箇所も

次期橋梁耐震 啓開ルートを優先
 2橋の設計に着手

 ――優先対策外の橋梁の耐震補強は
 森田 次期耐震対策は南海トラフ地震などを想定した高知県道路啓開計画における啓開ルート上にある橋梁、特に集落の孤立を招きかねないルートを優先的に行っていきます。既に2橋をピックアップして設計中です。
 ――落橋防止装置鋼製部材の溶接不良問題について
 森田 本県では、現在、部材の溶接を実施した業者を調査するなど現況の把握に努めておりますが、現時点で久富産業(株)をはじめとする不正行為を行った溶接会社が製作に関わった落橋防止装置の鋼製部材はありませんでした。現在は技術不足による不良製品の製作にかかわった会社が製作している鋼製部材がないか調査を進めているところであり、調査が完了し、現状が把握できましたら、今後どのような対応を行っていくか検討していく予定です。

橋梁長寿命化 5年間で171橋を対策

 ――橋梁の長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況についてお答えください。また具体的な損傷状況と補修補強内容についても例を挙げていただけましたら幸いです
 森田 平成23年度末に策定した橋梁長寿命化修繕計画に沿って事業を実施しています。平成28年度までの5年間で171橋を対策する予定です。改良事業と重複する橋梁以外は、26年度までにすべて事業着手済みです。今後は、義務付けされた点検制度による点検・診断の結果から長寿命化修繕計画を見直しながら、その計画に沿って引き続き、事業を実施しています。26年より前と26年以降の点検方法が異なるため、損傷の発見は増える傾向にあります。
 ――経年劣化や疲労などによる上部工補修・補強のここ3年の実績と平成27、28年度の実績数量及び施工計画についてお答えください
 森田  平成24年が20件(14橋)、25年が46件(23橋)、26年度が63件(41橋)となっています。27年度は45件(38橋)を施工しました。28年度は119件(119橋)を計画しています。

床版防水 平成5年度から全面採用

 ――県が管理する床版に関して床版防水の有無などは確認されていますか
 森田 床版防水は、舗装の劣化時に併せて、防水層を設置または更新を行っています。当県では平成5年度から全面的に床版防水を施工しています。それ以前も桁端部など部分的な防水を施している橋梁もあります。防水層は、シート系を基本に施工していますが、建設当時、コンクリート舗装であった橋面で既設舗装厚が比較的薄層なものについては、塗膜系を採用している橋梁もあります。コンクリート床版を有する各橋梁の床版防水の有無は把握していません。

支承補修に溶射やコーティング材

 ――支承の補修・交換やジョイントの取替などについて用いている技術や今年度の施工予定箇所について教えてください
 森田 支承の損傷程度により採用工法が異なりますが、支承交換や防錆処理を行っています。防錆処理では、金属溶射やアクリルウレタン樹脂とチタン酸カリウム繊維の配合によるコーティング材「セラポリマー」、樹脂塗装コーティング材などを採用しています。ジョイント損傷はほとんどが更新です。遊間量が比較的少ない橋梁では、シームレスジョイントの採用もあります。
今年度は支承交換を4橋、ジョイント交換を20橋施工する予定です。


支承の損傷状況/セラポリマーによる補修状況/樹脂コーティング剤による補修

塩害、ASRの疑いある橋梁を有する
 予防保全的にシラン系含浸材などを塗布

 ――塩害、ASRなどによる劣化の有無はありますか。劣化があればどのような形で出ているのでしょうか。対策工法なども含めてお答えください
 森田 塩害やASRの損傷状況は、「ひび割れ」、「剥離・鉄筋露出」などがありますが、これまで定期点検を実施してきた中で、ASRの疑いのある橋梁も数橋確認しています。これらについては、これまで長寿命化修繕計画の計画に沿って事業を実施している中で、他の損傷と併せて、詳細調査を実施することにしています。
 外観とコンクリート内部の劣化状況によって異なりますが、犠牲陽極材を採用した橋梁もあります。修繕時は、損傷の劣化抑制や予防保全の観点で外部からの水分や塩分の浸入を抑止するため、表面被覆工法や表面含浸工法を採用しています。
 また、先にお話ししました仁淀川に架かる仁淀川河口大橋の修繕工事では、断面修復材に亜硝酸リチウムを配合した材料を採用し、外部からの塩分などの流入を抑制するため、表面含浸工法(シラン系)を採用しています。


上部工の補修も進む仁淀川河口大橋

シラン系含浸材を塗布

 ――骨材の自己崩壊の可能性があるローモンタイトを用いている部材はありませんか
 森田 主部材では確認されていません。高欄や地覆の一部で症状が見られます。基本的に雨水が直接あたり骨材膨張を引き起こす箇所で損傷が生じています。ローモンタイトを含む骨材は施工時期が集中しており、その時期に製作した部材については、特に注意して点検し、損傷している箇所が確認された場合は、その箇所をはつって断面修復を行っています。

10橋1万平方㍍強を塗替え
 塗膜剥離材工法の採用も

 ――鋼橋の2014、15年度の各塗り替え実績と16年度予定、PCBや鉛を含有した塗膜の対策はどのように行っていますか
 森田 14年度は12橋8,268平方㍍、15年度は10橋10,651平方㍍塗り替えています。16年度は23橋、約13,000平方㍍塗り替える予定です。
PCBや鉛を既設塗膜が含有しているかの有無は、橋梁台帳に記録がありません。そのため塗替え工事発注後に含有の有無を調査しています。
なお、ケレン方法については近年では1種ケレンの採用が多くなっています。塗膜除去はブラスト工法や電動工具が主ですが、塗膜剥離剤工法を採用した橋梁もあります。2014年5月30日に厚生労働省から通知のあった文書については、担当者へ周知済みですが、今後もそれを徹底するとともに、労働者の健康被害防止対策は国などの状況を確認しながら検討します。

耐候性鋼材使用橋 3橋で損傷
 凍結防止剤による塩害

 ――耐候性鋼材の一部で、架橋条件や周辺環境などから損傷しているケースが見受けられます。高知県ではそうした損傷は確認されていますか
 森田 当県では約60橋に耐候性鋼材を採用していますが、そのうち3橋で損傷程度が著しいものが見つかっています。
 最も損傷が著しかった橋梁を例にあげますと、当該橋梁は架設後23年が経過して、損傷が確認された橋梁で、伸縮装置の部分損傷(経年劣化)、端対傾構は、著しい板厚減少と層状剥離さび、うろこ状さびなどが見られました。そのため主桁については当板補強、端対傾構と伸縮装置は取替をそれぞれ行いました。
 原因として高知県は、南は温暖な反面、北部は1,000㍍以上の山岳が連なる四国山地があり、北部の道路では、冬季に路面凍結を防止するため塩化カルシウムを散布しています。当該橋梁も塩化カルシウムを散布しており、かつ架橋地は風通しが悪く、安定錆が発生し難い状況でした。また両橋台の上下流は経年により樹木に覆われ、建設当時と比較しても悪条件になっていました。さらに橋梁の終点側は橋梁から約1㌔の区間が上り勾配と陰地が連続しています。そのため塩分を含んだ雨水がジョイント部から流入し、主桁や端対傾構に滞水したと想定されます。


耐候性鋼材採用橋の中では、著しい損傷が見られたケースも

耐候性鋼材の端部塗装事例写真

平成26年8月の台風で40箇所の法面が崩壊
 要対策は2,560箇所 27年度末で428箇所完了

 ――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、高知県として道路に面する斜面や古い法面等をどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画がございましたら教えてください
 森田 当県では平成26年8月の台風12号、11号に伴う豪雨で、8月1日からの10日間の合計雨量は2,000㍉を超え、年間雨量の5割、8月平均雨量の4倍を超える雨が降りました。県内40箇所で道路法面の崩壊により孤立地域が発生するなど、中山間部を中心に日常生活に深刻な影響が発生しており、道路法面等の防災対策の必要性は認識しているところです。
 道路法面対策の実施にあたっては、過去に実施した道路防災総点検で「要対策箇所」と評価された箇所を中心に、日常パトロールにより把握した落石の履歴や、緊急輸送道路への指定の有無などをもとに、優先順位を決めて対策を実施しています。
 「要対策箇所」は県全域で2,560箇所あり、27年度末時点で428箇所の対策が完了しています。28年度も59工区で道路法面対策を実施する予定です。

 緊急輸送道路に指定された区間では、「要対策箇所」が1,069箇所あり、262箇所の対策が完了しています。28年度も引き続き30工区で対策を実施する予定です。

 また、24年度から緊急輸送道路区間の道路防災総点検の再調査を実施しており、新たに抽出された法面危険箇所を含め、優先順位を見直しながら効果的かつ効率的な法面対策を実施していきます。
 ――ありがとうございました

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム