耐久性の向上はもちろん工期の短縮も追及
トンネル 狭小ヤードの中で施工できる技術求める
――確かに大規模更新・大規模修繕事業ではありませんが、過去に西日本高速道路が九州道の向佐野橋で行った床版取替工事は10年の長い歳月をかけて国土交通省や地方公共団体、鉄道事業者との長い協議の末実現しました。取材時に「非常に大変だった」と関係者が述べていたことを思い出します
山内 その通りだと思います。短時間で終わるような修繕工事なら通常の修繕工事と同様ですが、床版取替工事などはどうしても長期間の規制を伴うものですから……。
――大規模更新・大規模修繕事業に関してどのような技術を求めていますか
山内 同事業は供用中の道路で行う事業ですので、お客様にご迷惑をかけざるを得ません。それを最小限にするということと、より耐久性のあるものに変えるというものです。この2つが一番考えなくてはいけません。それに対応する新技術や新材料を適用していくことで社内の認識は一致しています。工期や施工時間そのものを短くするということでいえば床版取替などの際のプレキャスト化は必須ですし、長期耐久性の確保という意味では新材料の採用も考えなくてはいけません。また、供用中の道路での作業は狭いヤードで行う必要があります。例えばトンネルは、現在インバートを未設置の箇所で路面隆起などの変状が起こっていますが、そこに供用中の狭い箇所でインバートを新たに設置しなくてはいけない。もちろん、限られた財源ですのでコスト削減も求めていかなくてはなりません。
これらは基本的にNEXCO3社共通のものであり、3社で連携して行う必要があると考えています。
工期短縮のためには例えば半断面床版取替などの活用もあるか/過去に施工した福島須川橋の床版取替
曲線函体推進工法を試験的に採用
――具体的な導入技術は
山内 床版取替の際に床版はもちろん、壁高欄もプレキャスト化して設置する技術があります。今回の大規模更新事業以前から施工期間の短縮の目的で試験的に採用しています。また、トンネルのインバートでは、曲線函体推進工法を試験的に採用しています。
壁高欄のプレキャスト化も考慮
床版の継手構造 施工時間短縮や耐久性向上で優れた技術を採用
高性能床版防水 グースアスファルト床版防水の試験施工を計画
――西日本や中日本は、床版の継手の簡略化としての新たな継手工法を採用しているケースがありますが、御社は現在までのところ実施例がありません。そうした技術についてはどのように考えていますか
山内 今回の大規模更新・大規模修繕事業については、3社で連絡会を作って色々なものを考えていくことで進めてています。床版の継手構造については,施工時間の短縮や耐久性の向上に対して優れた技術があれば,弊社においても積極的に採用を図っていきます。
一般的なループ継ぎ手/優秀な継手工法があれば採用していく方針(いずれも写真はイメージです)
――高性能床版防水の施工については、現状では前工程や養生に一定程度の時間が必要です。その短時間化をどのように求めていくのですか
山内 高性能床版防水は、仰る通り元々時間に大きな制約のない建設事業の現場で採用されてきました。ただ、管理で適用する場合にはやはり時間が問題です。交通量の少ない地方であればある程度の連続した規制時間を確保することもできますが、首都圏近辺の高速道路ではそれは非常に難しい、と考えています。そのため、現在よりも短時間で施工できる高性能床版防水工についても求めたいと考えています。
――高性能床版防水については鋼床版基層に用いるグースアスファルトをRC床版防水に使うことは考えていますか
山内 高速道路総合技術研究所においてRC床版の防水用に新しいグースアスファルトを研究開発しており、その試験施工を計画しているところです。
――首都高などが検討していますが、床版取替と床版防水を同時に行うに際して、IC間を規制して工事するということは行いませんか
山内 ケースバイケースです。また、大規模更新・大規模修繕だけでなく通常の修繕工事も一緒にやることでトータルの工期やコストを短縮するということも考えています。
――規制技術という意味では先ごろ試験的に導入したロードジッパーは活用できそうですね
山内 そうですね。ただロードジッパーも規制を減らすものではなく、リニューアル工事でお客様にはどうしてもご迷惑をかけてしまうことは否めません。しかし工事および走行安全性の確保、規制材の設置作業の効率化という点では非常に有効な手段であると期待しています。
移動式防護柵「ロードジッパー」(谷和原管理事務所での公開時)
SMH構想で保全技術の省人化、高度化を目指す
――東日本高速道路はICTの活用という点に力を入れておられるようですが
山内 当社は全社的にSMH(スマートメンテナンスハイウェイ)構想を進めています。平成32年度までに全体構想の実現を見込んでいます。予想される技術者不足を見越して保全技術の省人化、高度化を目指すものであり、具体的にはセンシング技術や非破壊検査技術、画像診断技術などの高度化があります。最終的には集中してインフラを管理できるセンターを作り、そこで構造物の分析や補修計画を立てられるようにすることを目指しています。
現在進めている具体的な研究テーマは①維持管理の業務プロセスとシステムの分析と改善、②データ分析に基づく重要情報の可視化、です。
①は高速道路の維持管理を高度化するために、基本サイクルである点検、変状判定・評価、補修計画、設計、工事に今後導入するモニタリングを加えて、より有機的に連携させていこうというものです。各段階で発生する大量のデータを蓄積し、データマイニングなどの分析手法を用いて検討し、それらのデータを活用するシステムを構築していきます。
②は①で得た大量のデータを基に、データ分析により高速道路構造物の問題またはその兆候を早期に把握するための重要管理指標を検討し、対策の優先順位や投資判断に活用するものです。
専門技術者育成のため研修を強化
点検技術者のレベル確保のため資格制度を導入
――今後、新設が減少し、大規模更新・大規模修繕事業の比率が上昇していく中でインハウスエンジニアリングをどのように育成していきますか
山内 構造物の専門技術者の話と維持管理の基本的な点検を行う技術者の話があって、専門技術者については技術のスムーズな伝承を図ることや新たな技術開発を行うための人材育成という点から研修を強化しています。今後行われる大規模更新や大規模修繕、維持管理はある意味新設橋より難しいと言えます。例えば、新設は設計図通りつくれば良いのですが、供用中のものは損傷を受けたりしていることから、それを把握した上で修繕の設計や計画立案することになり新設時より難易度が高くなりますし、現場でも新設時のような適切なヤードや施工時間、工期は望めないため、より技術的には難しくなります。そうした現場でも対応できる技術者を育てていかなければいけないと考えています。
もう1つ点検技術のレベル確保については、昨年度から高速道路調査会にお願いして講習会を開催してもらっています。受講者には当社のグループ会社の技術者もいれば、(NEXCO東日本の構造物を点検する)コンサルタントの技術者もいます。講習会は開くだけでなく試験を行い、合格者にのみ修了証も渡しています。修了証は土木と施設2部門で3レベルに分けています。これは正式な資格制度に先行して行っていたものですが、今年の3月末に内閣府から高速道路調査会が資格事業を実施することについて認可をいただきまして正式な資格制度となりました。今後は講習会や認定試験を定期的に開催し、資格として付与していく方針です。
また、大規模更新・大規模修繕の事業そのものが、技術者のレベル向上のための大切なフィールドであると考えています。
大規模更新・大規模修繕事業そのものがフィールド
ベテランと中堅・若手が協働することで技術継承を期待
――なるほど、但し保全における技術は絶えず部分最適であるが全体的に見ると構造的に歪になるという可能性があります。その「全体を把握する感覚および技術」を新設事業が無くなりつつある今、どのように磨いていこうと考えていますか
山内 その懸念は承知しています。そのためにも本社と支社に構造技術課を新設したのです。ここで、経験豊かなスタッフが若手・中堅技術者がともに、限られた新設の橋梁について型式や設計についての検討を行い、その過程で技術を継承していく、そうしたことを期待しています。
――最後に付言して
山内 今後、大規模更新・大規模修繕事業をスムーズに行うにあたって重要なのは、広報の充実であると考えています。従来通り個別のプロジェクトを広報することは変わらず充実させていかなくてはなりませんが、それとは別に事業そのものに対する理解を皆様に得ていただけるような広報に努めていく必要があると思っています。今後、事業が本格化すれば全国各地で長期間の規制が必要になってきます。なぜそのような事業が必要なのか、それを行うことでどのような不便があり、メリットがあるのか、をお客様や工事の影響を受ける地域の皆様に周知し、理解していただくことが重要であると考えているからです。
――ありがとうございました