三陸国道事務所は岩手県山田町から岩手・青森県境までの三陸沿岸道路と宮古市藤原から宮古市箱石までの宮古盛岡横断道路合わせて141㌔の道路建設を所管しており、急ピッチで復興道路の建設を進めている。構造物は東日本大震災級の津波が襲来しても被害を受けないよう「水平的かつ垂直的に津波の浸水域を避ける」べく設計している。一方で同地は寒冷地であり凍害や凍結防止剤散布による塩害などによる構造物の劣化が懸念される。そのため状態の良い道路を長く使えるべくコンクリート構造物にはエポキシ樹脂塗装鉄筋など防食仕様の鉄筋、エポキシ樹脂被覆PC鋼より線などを採用するともに、トンネル覆工コンクリートの品質確保対策として「山口方式の改良版」を用いている。その内容について永井浩泰所長に聞いた。
141㌔の道路建設、323㌔の道路管理を所管
平野の多い南部の市街地での被災が甚大
――三陸国道事務所管内の地勢的特徴と東日本大震災時の道路網の被害状況、それを踏まえた復興道路の整備方針および構造物の整備の考え方について
永井所長 三陸国道事務所は山田町から岩手・青森県境までの三陸沿岸道路(三沿道)と宮古市藤原から宮古市箱石までの宮古盛岡横断道路合わせて143㌔の道路建設と国道45号の岩手県内区間の管理および国道283号仙人峠道路の管理、合計323㌔の維持管理を行っています。現在整備中の岩手県内の三沿道については、南三陸国道事務所整備分も含め、管理は当事務所が全て受け継いでいます。
沿線には、陸前高田市~洋野町まで12市町村あり、約25万人の市民が在住しています。個別の人口規模は、宮古市が約55,900人と最大で、大船渡市(約38,500人、以下概数)、釜石市(35,800人)、久慈市(35,500人)、陸前高田市(19,300人)となっています。リアス式の海岸に近く国道45号は山を越えて次の町に行くような地形になっています。宮古市田老の市街地は高さ10㍍の防潮堤があったにもかかわらず壊滅的な被害を受けました。
地形学的に言うと、沈降海岸と隆起海岸の大きく2つに分かれており、宮古から北を隆起海岸、南を沈降海岸が占めています。北部には北山崎(田野畑村)という観光名所に象徴されているように、いきなり200㍍級の崖が海に直面しているという地形になっています。南部は比較的平野部が多くなっています。従って現国道45号もそうした地形に沿って、這うように整備されています。地図上で見ると海岸沿いを走っているように見えますが、実際は峠超えなど非常に起伏が激しく、標高的には50~200㍍位の箇所を通過しています。それに伴い平面線形も(カーブで縦断を稼ぐ必要があることから)ジグザグにならざるを得ない条件下にあります。
現道45号に対して震災の影響としては、平野部の多い南側の被災が大きく、陸前高田市などは平野部が津波で壊滅状態となりました。海岸に突き出している漁村のような所はあちこち津波被災を受けているのですが、市の中心部という観点からいうと基本的には南側の被災が大きかったと言えます。北の方は唯一、野田村に少し平野があり市街地が津波で甚大な被害を受けました。また国道45号は、各地で津波により寸断されました。
震災から3週間経った陸前高田市街を氷川橋から見る(左)/どこが川で陸地か分からない(右)
落橋した気仙大橋(左)/マンションの4階まで津波が……(右)
島になってしまった野球場
現在は、応急復旧は終わっておりまして、唯一橋梁が流失した陸前高田市の気仙大橋については被災4ヶ月後に仮橋で供用し、すぐ隣に本復旧橋梁を工事中です。現在は下部工の構築および上部工の製作を進めています。そこが終われば現道の復旧が完了します。
気仙大橋の進捗状況
三沿道 水平的かつ垂直的に津波の浸水域を避ける
構造物はトンネル42本、橋梁71橋
――津波では桁下クリアランスの低い橋が多く流失しましたがその対策は
永井 三陸沿岸道路は津波の浸水被害を水平的(津波の浸水域を避ける)かつ垂直的(浸水域を通らなければならない時にクリアランスを十分取る)に避けるルートを選定しています。東日本大震災クラスの津波が来ても浸水することがない道路構造といえます。
宮古市でいうと津波浸水域を避けたルートで設計しています。ルートは地形的に山の方に行っていますので、トンネルを出てすぐに高架橋という極めて構造物の多い路線となっています。
また、トンネルで生じた掘削土や切土により生じた残土は、復興事業の嵩上げ用の土として使ってもらっています。
トンネルは管内で予定している42本のうち32本が発注済み、23本が着工済みで今年度内にさらに2本が着工する予定です(平成28年2月末現在)。完了しているトンネルは、田老第6トンネル1本のみです。橋梁は管内で予定している71橋のうち下部工が46橋、上部工が17橋発注済みで40橋が着工済みです。このうち完了している橋梁は4本という状況です。
山田宮古道路 山田第2トンネルが最長の1,985㍍
平成29年度供用目指して全面展開
――では、個別の建設・改築事業を三陸沿岸道路の山田宮古道路から
永井 山田宮古道路は既供用区間の山田道路と宮古道路を結ぶ山田IC~宮古南IC間(下閉伊郡山田町山田~宮古市金浜)延長14㌔が事業区間で、平成29年度開通を目指し工事を進めています。現在の用地買収率は約97%、全面展開で工事の推進を図っています。
主な構造物はトンネルが山田第1トンネル(977㍍)、山田第2トンネル(1,985㍍)、豊間根トンネル(709㍍)、津軽石トンネル(484㍍)、橋梁が田名部川橋(25㍍)、豊間根川橋(95㍍)、豊間根こ線橋(31㍍)、荒川川橋(67㍍)、七田川橋(44㍍)などがあります(いずれも仮称)。
トンネルは山田第1トンネル、山田第2トンネル、豊間根トンネル、津軽石トンネルの4本が掘削中で、来年度の完成を目指しています。中でも豊間根トンネルは貫通済みで仕上げ工まで進んでいます。橋梁は全ての橋梁で下部工に着手しており、田名部川橋、豊間根川橋、豊間根こ線橋、荒川川橋は、下部工が全て完了しています。このうち豊間根川橋、豊間根こ線橋は今年度上部工の架設が完了し、その他の橋梁は来年度上部工を架設が完了する予定です。
上部工進捗中の豊間根跨線橋
工区内最長の山田第2トンネル